■編集部より指令

前回の「職場の子持ち礼賛が面白くないと思ったら」の記事(http://president.jp/articles/-/11635)は、多くの方にお読みいただきました。

一方で、これだけの子持ち礼賛の時代であっても、子どものお迎えなどで定時に帰ったり、時短を取る女性の多くが肩身の狭い思いをしています。

仕事を持ち帰り、子どもを寝かしつけてから取り組むという、もはや時短とは言えないような人も。

時短で働くことの損得は、実際のところどうなのでしょうか。また、男性社員たちは時短女性のことをどう思っているのでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

なぜ「時短女性」は半人前扱いされるのか −働く時間・女の言い分
http://president.jp/articles/-/11762

■大宮冬洋さんの回答

■残業がなくなれば、出生率もアップ?

もし世の中が男性も含めて時短社員だらけになったら。

佐藤さんの指摘するように、時短とは言っても「残業はできません」と宣言しているだけで9時から17時までは会社で働きます。つまり、残業のない企業社会です。

実現はすぐに可能です。法律で「残業代は一律10割増し。平日の9〜17時以外の労働には手当として10割増し。割り増し分は即金で支払うこと。違反したら企業名を公表して1カ月間の営業停止」と規定するだけ。これで残業はほとんどなくなるでしょう。残業代でベビーシッター代を賄っておつりが来るならば、不測の事態が起きたときには老若男女を問わずに進んで残業をしてくれるはずです。

そんなことをしたら日本企業のコスト競争力だけが大幅に殺がれて失業者が急増する! という悲観的な見通しはありきたりすぎるので無視します。

「日中の8時間だけ働いて夕食までには帰宅する」という生活に突入したら、勤勉な日本人はありえないほどの集中力を発揮してわき目もふらずに働くと僕は思います。生産性が上がってイノベーションも起き、時短制度は不要になり、労働者の心身の健康も改善、社会福祉予算は減って、夜は静かなので出生率も上がる、かもしれません。

飲み会など夜遊びのコスト上昇が個人的には痛いのですが、高い分だけ外食のありがたみが増すでしょう。多くの人が休んでいる時間に働いてくれる人はもっと金銭的に報われるべきです。

以上は空想。イマジンするだけでは現実に対処できませんよね。

■子育てより残業のほうが楽

先日、社内結婚をして子育て中の女性編集者と一緒に仕事をする機会があり、ちょっと驚くような愚痴を聞きました。

「ダンナばかり残業していてずるい。家に帰って家事をしたり子供の面倒をみるよりも仕事のほうが明らかに楽で面白いから。たまに私が残業して帰ってくると21時過ぎているのに子供を寝かしつけていなかったりする。かなり頭にくる」

子育てより残業のほうが楽――。仕事のできる女性の偽らざる実感なのでしょう。

この気持ちは子どものいない僕にも少しわかります。僕は製造業に携わる妻と結婚してからは朝型になりましたが、夜に取材が入ることも多いですし、たまには明け方まで原稿を書き続けたくなるからです。でも、「夜の仕事」をしすぎると夫婦で過ごす時間が皆無になるので控えています。特に小さな子どもがいる夫婦の場合は、配偶者が平気で夜まで働いていたら不公平感や孤独感を募らせるのは当然でしょう。やっぱり夫も含めた全社員が残業ゼロの時短社員になるしかないのかな……。

残業ゼロが実現しない現状では、「残業も当たり前の社員=正社員」なのだから、残業ができない妻や夫はパート社員に転換するか職住近接の自営業者になるしかありません。それが嫌ならば選択肢は3つです。高い費用をかけてベビーシッターを雇う、両親に子育てを任せる、そもそも子どもを作らない。

■金持ちでないと子育てできない社会

その昔、シンガポールは高学歴(高所得)女性にだけ結婚と多産を推奨していました。他人に迷惑をかけずに子育てできる余裕がある人だけが結婚・出産をするべきで、その他の貧乏人は一代限りの人生を慎ましく全うしろ、というわけですね。

すごく偏った政策のように思えますが、長時間労働が常態化している日本も暗黙のうちにこの政策を採用しているのです。実際、正社員にもなれない低所得層の増加と未婚率の上昇はリンクしています。時短社員が居心地の悪さを感じるは、「残業できないのなら正社員であることを辞めろ。そもそも子どもを作るな」というメッセージを社会全体から受け取っているからではないでしょうか。少子化が進行するのは当然ですね。

誰もが残業せずに子育てもできる社会に転換するのか、「余裕のない共働きサラリーマンカップルは子どもを作るな。再生産は金持ちに任せろ」という社会がこのまま進行するのか。どちらかしかないと思います。「育児休暇を3年に延長」とか主張している安倍政権が続く限りは後者になってしまう気がするけれど……。

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大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/

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(大宮冬洋)