2ステージ制でも、いいです!

かねがね噂されていたJ1リーグ戦の大会方式の変更が、ついに発表されました。17日のJリーグの発表によると、2015シーズンからJ1リーグ戦を前後期の2ステージ制とし、年間勝点1位のクラブらで争うチャンピオンシップで優勝を決定するように変更するとのこと。いわゆるポストシーズンの導入により、Jリーグはスポンサー収入の増加などで10億円以上の増収を見込んでいるとのことです。

この件については何度か触れてきましたが、僕は「変わっても変わらなくてもいいです」という姿勢。確かに17日の発表時点では「未定」のオンパレードだった大会運営方式については、なお議論の余地はあると思います。そもそも論として、ポストシーズンをもうけるにして、もっと上手い方式があったのではないかという想いもあります。反対派の言うことはいちいちごもっともです。しかし、決まったものは仕方ないでしょう。そこから先を考えなくては。

この問題の本質は金です。金があれば何もこんな面倒な思いをして、既存客の反発を受けながら大会方式の変更などしません。

もう一段掘り下げれば、より根っこにある問題は客です。客が思うように入らないから、入場料収入やスポンサー収入が十分に得られず、こんな面倒な思いをして、既存客の反発を受けながら大会方式の変更をしているのです。

さらにもう一段掘り下げれば、より根っこにある問題は魅力です。魅力が少ないから、客が思うように入らず、入場料収入やスポンサー収入が十分に得られず、こんな面倒な思いをして、既存客の反発を受けながら大会方式の変更をしているのです。

もちろん現状でもJリーグには相当数のお客がいます。全国各地のスタジアムには1万人規模で人が集っています。その人たちがこれだけ足を運ぶものがつまらないはずはありません。しかし、一方でJリーグ側はチェアマンのコメントにあるように、「現在のJリーグは、開幕当初や一時期と比較して平均入場者数の伸びが鈍化し、一般的な関心度が下がっているという現実があります」という危機感を抱いています。

果たしてJリーグは「魅力的」かどうか。

今面白いと思って見ている人にとってJリーグが魅力的なのは当たり前のこと。そこで「今のJリーグが好きだ!」と主張したところで、Jリーグ側だって「ですよね」としか思いません。熱心なリピーターがどう思うかではなく、問題はライト層です。年間の観戦数がゼロ回の人を1回にできるかどうか、Jリーグ側はそこを意識しているはずです。

その意味で、現在のサポーター側からの主張は基本的に的外れです。年間観戦回数ゼロ回の人にとって、1ステージ制も2ステージ制もぶっちゃけ関係ありません。地域密着の理念も、大会方式の公平さも、専用スタジアムの魅力もどうでもいいことです。ゼロ回なんですから。見てからわかる面白さなんて、ゼロを1にする原動力にはなりません。見る前に「面白そう!」となるものだけが、ゼロを1にするのです。

パンダだってそうです。見たら別に小汚いツートンカラーの熊ですが、見る前はどんなにカワイイんだろうとか、中国から来た珍獣ってどんなヤツだろうとか、ワクワクするじゃないですか。見る前にワクワクするものがあり、それを確認するために時間とお金を費やして現地に向かう。それがゼロを1にするということです。

今のJリーグにゼロを1にする要素があるのでしょうか?

僕はライト層ど真ん中を自認していますが、結局ライト層は「上手いヤツ」が見たいのではなく、「話題のアレ」が見たいのです。話題となるには露出が必要であり、結果が必要です。要するに「大きな舞台で成功した」は必要条件で、その上で「より大きな成功をしたヤツ」とか「すごいイケメンなヤツ」とか「すごい上手いヤツ」を見るために足を運ぶのです。

その意味で、現在のJリーグに「魅力」は乏しくなっています。Jリーグで活躍した選手は日本代表を経由するなどして欧州リーグに移籍し、そこでより大きな成功を手にしています。「ワールドカップのあの選手が見たい!」「世界的に評判のあの選手が見たい!」は欧州リーグと日本代表が受け皿です。Jリーグではありません。

実際、代表戦はガンガン盛り上がっています。今月6日のグァテマラ戦は4万6244人が集い満員の中で行われました。つづく10日のガーナ戦にも6万4525人の観衆が集い、チケットはソールドアウト。相手にやる気があろうがなかろうが、試合が面白かろうが面白くなかろうが、客入りには関係ありません。魅力的な日本サッカーの魅力的な選手がそこにいるのです。「見たいもの」があるなら、見に行くのです。

今、Jリーグに「話題のアレ」はあるでしょうか?

それはちょっとやそっとのアレじゃダメです。ゼロ回の人を1回にするには相当なアレが必要です。ゼロ回の人をめぐってJリーグが戦っている相手は「宮崎駿監督最新作『風立ちぬ』」であったり、「サザンオールスターズ復活ライブ」であったり、「隅田川大花火大会」であったり、「温泉」だったりするのです。僕は、この勝負分が悪いと見ます。今Jリーグでそのあたりと戦えそうなのは、遠藤保仁さん・柿谷曜一朗さんの2要素ぐらい。少し盛っても、中村俊輔さんとキングカズまでか。これではまともに戦えるはずがありません。


さぁ、問題は「じゃあどうするか」です。

僕は3つのアプローチがあると考えています。

●(1)「話題のアレ」を逃がさない

まず第一に簡単なのが、日本で最高の選手の何人かが日本に残っているという状況を作ること。「2014年ワールドカップで活躍したあの選手が近所で見られる!」という状況があれば、「じゃ一度見てみよか」という人は確実に生まれます。

そのためには日本において飛び抜けたビッグクラブが必要だと思います。収入の面、ステイタスの面、環境の面で他を圧倒するビッグクラブ。野球で言えば巨人のような存在です。可能性があるのはまず第一に浦和レッズだと思いますが、「このクラブを出て、欧州の中堅クラブになど行けない」「欧州CLに出られないクラブに移籍する意味ナシ」と思われるクラブがあれば、そこに集う選手や、そこに集う観衆が魅力となって、ゼロ回の人を呼び込めるでしょう。

その意味では、最低でも「ACLを獲る」という前提でシーズンに臨める規模感は必要。J1リーグで動員数最高を記録したのは、2008年度の578万人ですが、それは2007年に浦和レッズが、2008年にガンバ大阪がACLを制覇した時期と重なります。ACLを獲れるくらいの選手がいたから客が多いのか、客が多いからACLを獲れるくらいの戦力を持てたのか、それはニワトリとタマゴのような話で一概には言えませんが。

ただ、ひとつ象徴的なのは、そのACLを制覇し、大観衆が待つ浦和レッズから長谷部誠さんが出て行ったこと。あの当時の浦和レッズでもなお、欧州で挑戦したいと思う選手の気持ちに勝てないということならば、道のりは相当に険しいものがあります。長谷部さんが代表戦のあとに「Jリーグもよろしくお願いします」ではなく「浦和に入りたいです」と言うくらいにならないといけないのですから。

とにかく今は「セレッソ頑張れ」しかありません。


●(2)「面白さ」をたまたま知ってもらう

サッカーは面白い。スタジアムに出かけるのは楽しい。それをわかってもらえれば、今のJリーグを変革しなくても十分に新規客を定着させられるはずです。しかし、そこにいたるまではある程度の準備期間が必要です。まず新規の人はいきなりスタジアムに行ったりしません。行くにしても、よりよさげなものを「1回」だけ選んで行きます。上記(1)であげた「アノ選手が見られる日」とかです。年に1回、ようやく行ってみようかとなるタイミングを代表戦に吸われている現状では、待っていてもノーチャンス。

ならば、コッチから積極的に見せるしかありません。

タダ券のバラ撒きや地域住民・子どもの招待なども、もちろん効果的な方策のひとつ。

ただ、もっとも重要な機会はテレビ地上波での中継です。たまたま何回か見るうちに、Jリーグも楽しそうだなと思ってもらうこと。たまたま何回か見るうちに、この選手カッコええなと思ってもらうこと。大勢にリーチするチャンスはこれしかありません。今回のJリーグ側の改革も、地上波でのテレビ中継を意識したものでしょう。「たまたま」を1回でも多く増やしていくために「確実にココで優勝が決まります」という中継しやすい条件を作ったのです。地上波での全試合生中継が約束されているのなら、大会方式を変える価値は十分にあると思います。

だから、本当にこの点について危機感が共有されているならば、「2ステージ制反対」と同時に「南米選手権には出るべき」という声があがらないとおかしい。2015年開催の南米選手権に日本代表は招待されていますが、アジア杯との兼ね合いや召集の強制力がない招待参加という立場のため、海外組の召集が困難な状況。しかし、ただでさえ過密なJリーグの日程ともバッティングし、参加辞退が示唆されています。

Jリーグが単独でやりくりをつけ、オールJで南米選手権に臨む。これはまたとない「話題のアレ」を作るチャンスです。「Jしか来ないならお断り」と向こうから断られるならともかく、、せっかくそういうチャンスがあっても「それは日程キツイわ」で引っ込んでいるのはいかがなものか。オールJの代表で南米勢を撃破し、地上波テレビ中継で全国の人が目撃し、帰国時には全員スターとなって成田に着く。それぐらい大きな夢を提示しないで、マンチェスター・ユナイテッドやインテルとの争いに勝てるのでしょうか。風立ちぬに勝てるのでしょうか。

宮崎駿監督作品も、何度もテレビ地上波で流れ、たまたま見たそれが面白いから、こんなに大きなコンテンツになったのではないでしょうか。「ナウシカを劇場で見てファンになりました」なんて人、ほんの一握りでしょう。

ちなみに僕は、テレビで見たラピュタに感激し、「紅の豚」を劇場で見ました。大失敗です。


●(3)とにかく「楽しい!」というアピールをする

固く閉ざした天岩戸も、扉の前ですごい楽しそうなドンチャン騒ぎが始まれば、気になって開けてしまうもの。行列のできるラーメン屋にはより長い行列ができるように、人間は他人の動向が気になる生き物です。何だかわからないけれど楽しいらしいぞ、という評判が立てば、気になって見たくなる人も出るというもの。

電車の中に大挙して現れたユニフォームの集団。チケットは予約の時点でソールドアウトでプラチナ化。スタジアムに入りきれない人が最寄り駅にあふれ、競技場の外から声援を送る。見かけた近所の人が「これは何の祭りだ?」と驚き、撮影した写真がSNSを駆け巡る。「Jリーグ混みすぎワロタ」などのタイトルで。

スカスカのスタジアムで「楽しい!」って言ってもウソ臭いですが、満員のスタジアムで「楽しい!」って言えば、すごい楽しそうじゃないですか。「すごい楽しそう」ってのが「話題のアレ」になるんです。何だかわかんなくても、楽しそうなものなら見たくなるんです。何だかわかんなくても、楽しそうな人の真ん中にいたら、何となく楽しくなるんです。

どうせ客席で運動を起こすなら、味方同士で罵り合う後ろ向きなものよりも、「何月何日は全試合満員にしてみようぜ」的な前向きなものにならないでしょうか。イレブンミリオン計画なんてお仕着せのものではなく、「いつも行っているヤツがあと3人ずつゼロ回の人を連れてくる」など、自分たちで考え、行動できる範囲のもので。そうやって楽しそうな空間を作ることが、客にできる「2ステージ制反対運動」だと僕は思います。

その意味では、ケンカその他の危険行為は一発アウトです。「一部が」やっているだけでもアウトです。「風立ちぬ公開中の劇場で、座席をめぐって客同士がケンカ」「ポップコーンを投げつけ合い負傷者発生」「上映後、内容に不満を漏らす一部の観客が『駿を出せ』と叫びながら深夜まで居座り」なんて聞かないでしょう。そんな面白ニュース聞いたことがないです。

ゼロ回の人は、そんなリスクのある場所には行きません。風立ちぬを見ます。


まぁ、嘆いても怒っても、大会方式が変わることは決まったこと。そこで文句を言っても後ろ向きです。Jリーグ側も、「と言いつつ、みんなはJリーグ見るよね?」と既存客を信頼しているからこそ、こんな大胆な案を打ち出してきたのです。最終的には「いつもひとりで行っているオッサンが彼女を作って、子どもをふたり作って4人で見に来る」ようになれば解決する問題でもありますので、とにかく楽しくやりましょう!楽しいことが一番です!


文句言いながら見てる人のいる場所で、初見さんは楽しめますかね?