東京である出版関係の年配の方から「バレンティンの本塁打記録、何としても阻止しないとね」と声をかけられた。「え？」と思って返答ができなかった。
まだそういう人がいるのだなあ、と思った。
讀賣新聞を読んでいたら
野村克也の
「王の記録を破られそうなのは面白くない。日本の選手に破ってほしかった。メジャーをお払い箱になった選手に抜かれるのは日本の恥だ。プライドはないのか！」
と言う発言が載っていた。
私は野村克也の打席が見たさに大阪球場へ通った口だ。球場前に緑のリンカーンコンチネンタルが止まっていると「ノムさん、いるな」と思ったものだ。
しかし、昨今の野村は「老害」以外の何物でもない。

バレンティンは、確かにMLBでは成功できなかったが、どさまわりに落ちぶれたわけではない。日本という新天地で野球を真剣に学びなおし、適応して記録を作ろうとしているのだ。
その点ではダルビッシュが奪三振のタイトルをとろうとしているのとまったく同じだ。
環境に適応すべく努力したことを、讃えこそすれ、貶される筋合いはどこにもない。

今のバレンティンは本当に面白い。MLBの本塁打競争のファイナルステージで、「当たれば本塁打」状態になる打者が時々いるが、ほぼそれに近い。
「バットに当たりさえすれば飛んでいく」と本人が思い込んでいる。トランス状態のようになっている。投手もそれに魅入られてつい甘いところに投げ込んでしまうのだ。
何かが憑いている。降りてきている、という感じさえする。
8月の全打席

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率直に言って、今の野球ファンで「王貞治の記録を破られるのは残念だ」と思っている人はかなり少数派ではないか。
多くは、「バースやカブレラ、ローズの時のような見苦しいことはやめてもらいたい」
と思っているはずだ。
外国人だ、日本人だという垣根を越えて「面白いものを見せてくれる選手」を称賛し、歓迎するフェアな気持ちを持っていると信じたい。

そうでなければ、イチローのかりそめの「4000本安打」に寛容な拍手を送ってくれたアメリカの野球ファンに笑われる。

NPBが本当にMLBと肩を並べたいと思うのなら、「日本人が、外国人が」というせこいこだわりを捨てるべきだ。外国人枠も撤廃すればよい。

今のダメなメディアは「読者、視聴者がほしがっているものを提供しようとする」傾向があるが「人々は王貞治の記録が抜かれるのを望んでいない」と読んでいるのだとすれば、それは完全に読み誤りだ。
世間はマスメディアよりも見識が高いことを理解すべきだ。