ボウリングブームのさなかに放送されたドラマ「美しきチャレンジャー」(71年、TBS系)が大人気となり、映画、テレビ、舞台にと活躍した新藤恵美(64)。彼女は現在、栃木県那須塩原市内のパブスナックでママ業にいそしんでいる。

 その店「ベガ」はJR宇都宮線黒磯駅から歩いて3分ほどのところにある。シックで艶っぽい新藤が応対に出てくると、映画のワンシーンを見ているような錯覚に陥った。

 5年前に、東京から那須の別荘地に移り住んできました。きっかけは、飼っていた犬が子供3匹を産んだからなんですね。当時住んでいたマンションのご近所の方が動物アレルギーを訴えていらしたので、トラブルを避けたかった。那須はゴルフで何度か来たことがありました。

 最初の1年はずっと続けているCMの仕事がある時だけ上京して、あとは犬とゆっくり生活していました。そのうち、この店のママが再婚を機に引退するので、誰かやってくれる人はいないか、という話が出て、回り回って私のところに来たんですね。

 そうはいっても私は15歳で芸能界に入り、アルバイトの経験もない。でも女優とはまったく違う仕事だけど、ちょっとやってみようかしら、ダメだったらやめればいい、と軽い気持ちで始めたんです。開店の時は、この前亡くなった坂口良子ちゃんから花輪をいただいたぐらいで、一切、宣伝しなかったですね。

 開店から3年がたった今では地元の有名店。接待に欠かせない店となった。

 お客さんが話題にする私の作品はドラマの「姿三四郎」(70年、日本テレビ系)や「美しきチャレンジャー」ですね。最初「ボウリング、うまいの?」という話から「まぁ、ゴルフよりは」とお答えしているうちに「次、対戦したい」と。今は月に1回、ボウリング大会が開かれているんですよ(笑)。

 印象深いドラマといえば、私が20歳の時に出演した「姿三四郎」ですね。芸能界に入ってまだ5年目でした。松竹の作品なんですけど、日活の撮影所を使ったんですね。松竹と日活ではスタッフのカラーが全然違っていて、女優の扱い方もまるで違う。そんな人間関係にすごく悩んでしまいました。打ち上げの時に記録係(スクリプター)さんが「恵美ちゃん、よく頑張ったわね。イジメにあっているのはみんな知ってたんだよ。家に帰って泣いていたらしいじゃない」って。私、「この撮影が終わったら芸能界やめよう」と思っていたんです。今となっては笑い話ですけど。

 この作品で彼女の人気は決定的なものになり、さらに翌年の「美しきチャレンジャー」での大ブレイクにつながった。

 年齢もありますので、今、お仕事は選ばせていただいているんです。舞台が入ったらお店を休みます。ハリウッド映画を舞台化した「セメタリー倶楽部」という作品があって、もう再演しているんですが、もし再々演ということになれば‥‥。お客様も「そうなったら見に行くから、いつでも言って」とおっしゃってくださるんです。

 熟女優の落ち着いた笑顔がこぼれた。ちなみにボウリングのアベレージは170、ゴルフは100を切るレベルである。