ブラジルとの対戦が決まってから、心のかなり真ん中で敗戦を覚悟していた。開催国との開幕戦に勝つのは、相手がブラジルでなくても難しい。結果についてとやかく言うつもりは、ひとまずない。

 問題は〈負け方〉である。これがもう、とにかく残念でならない。

 自国のメディアとサポーターから懐疑的な視線を浴びているブラジルは、できるだけ早い時間にスコアを動かしたかったはずだ。無得点のまま時間が経過し、スタンドにストレスが充満したら、ホームのメリットが薄れてしまう。早い時間帯に先制点を奪い、観衆の後押しを受けるのが勝利への必要条件だった。

 逆説すれば、0対0の時間帯をできるだけ長く保つことが、日本には求められた。同点のまま終盤に突入すれば、気持ちに焦りが生じるのは日本ではなくブラジルだ。昨年10月のフランス戦のような勝ちパターンが見えてくる。

 ネイマールの先制弾で、日本のゲームプランはいきなり瓦解した。フレッジが胸で落としたボールをダイレクトボレーで蹴り込んだ一撃は、間違いなくワールドクラスである。ただ、もっとも警戒すべき彼をバイタルエリアでフリーにしてしまったのは、日本の集中力に緩みがあったと言わざるを得ない。
 
 4月25日のチリ戦を最後に、ネイマールは代表とクラブで9試合連続無得点に終わっていた。待ち望んだエースのゴールは、彼自身はもちろんブラジルというチームそのものを開幕戦の緊張感から解き放ち、なおかつ観衆のテンションを一気に高めた。

 とはいえ、安全圏内へ逃げ込まれたわけではなかった。次の1点をどちらが奪うのかで、勝負の行方が見えてくる。

 ここでも日本はナイーブさを露呈した。0対1で迎えた後半開始直後の48分に、パウリーニョに追加点を許してしまうのである。守備の組織を切り裂かれたわけではなく、ゴール前に人数も揃っていただけに、ここでも集中力の緩みが浮かび上がる。
立ち上がりが重要なのは小学生でも分かっているし、昨年10月の対戦でもまったく同じ時間に決定的な3点目を献上している。ブラジルがしたたかだとしても、ゲーム運びの甘さを指摘されるのは免れない。
 
 2対0は不安定なスコアだと言われるが、日本とブラジルの力関係ではそれも当てはまらない。テストマッチで結果が出ていないものの、ブラジルが2失点以上浴びた試合は昨年6月のアルゼンチン戦が最後だ。

 リードを広げたブラジルは、失点のリスクを計算しながら時計の針を進めていく。優勝するためには、2週間で5試合を戦わなければならない。最優先事項は勝点3をつかむことであり、日本から大量得点を略奪することではない。来るメキシコ戦を考えても、意図的なペースダウンは必然だっただろう。

 最終的に3点目を奪って突き放すのは、ブラジルの選手が持つインテリジェンスの表れだ。無理はしないが、隙があれば突く。スピーディなカウンターから記録した後半3点目は、これぞブラジルと呼べるものだった。

 勝利を脇に置いて今大会のテーマをあげれば、対戦相手をどれだけ本気にさせるかにある。その意味で残念だったのは、日本の戦いぶりから貪欲さが感じられなかったことだ。

 表面的に深い傷を負わない敗戦よりも、叩きのめされてもいいからぶつかり合うことで、世界における現在地が見えるのではないのか。19日のイタリア戦で問われるのは、戦術や技術ではない。強いメンタリティである。