4月22日、中国・山東省政府は同省の36歳男性に鳥インフルエンザ(H7N9型)感染の疑いがあると発表した。これが確認されれば中国での死亡者数は21人、死者も含めた感染者数は105人に達することになる。

中国政府には早急な対応が求められているが、中国の医療・畜産事情に詳しい上海在住のジャーナリスト、程健軍氏は、さらなる感染拡大の可能性を憂慮しているという。その背景には、中国政府の情報公開の遅さがある。

「上海市では李さんが2月19日に発病し、3月4日に死亡。呉さんは2月27日に発病し、3月10日に死亡しています。ところが、政府が鳥インフルエンザ感染という事実を公開したのは、死亡から20日以上もたった3月31日です。国内世論の高まりや海外メディアの報道を受け、仕方なく公表したというところでしょう」

中国の一般市民の間でも、政府への疑念が広がっている。

「3月中旬、上海の水源である黄浦江(こうほこう)の上流で、変死した1万頭以上の豚が浮いているのが発見されました。当局は『死因は人に絶対に感染しない豚サーコウイルス病』と発表したものの、かえって疑惑は増すばかり。かつて人への感染が確認された鳥インフルエンザウイルス『H5N1』も、豚への感染を経由して変異したわけですからね。中国ではニワトリと豚が同じ場所で飼育されているケースが多いこともあり、ネット上では『SARSのときと同じだ。政府はいつも国民の命より安定を望む。真実は公表されていない』という声が大多数です」

すでに、ウイルスが人から人へ感染する変異を起こしている可能性もあるというのだ。しかも今の中国では、鳥インフルエンザに感染した可能性がある人を検査する仕組みすら整っていない。

「医療体制の不備も、人々の混乱に拍車をかけています。現実的に見て、現段階で感染の危険性が一番高いのは養鶏や畜産に従事する一般農民ですが、彼らは経済的にまともな治療を受けることが難しいからです」

では、政府が治療や検査に助成金を出せばいいのでは?

「H7N9患者の治療費助成は、各地方政府によって対応がバラバラです。例えば南京市では、ある感染者が集中治療室での入院治療のために中国一般労働者の数年分の収入に相当する10万元(約160万円)も使っているといいます。また、上海市の都市部では全額無料で治療することになっていますが、これも感染が最も心配される農村籍の人々には適用されません。こんな状況ですから、貧しい農民は治療など受けられるわけがない。農村部には、病院に行っていない感染者が数千人規模で潜伏しているともいわれます。富裕層には不安が、貧困層には絶望感が広がっています」

ずさんな状況のなか、今後も感染者が増え続ければ海外への感染拡大も大いにあり得る。そうなれば、隣国である日本も無関係ではいられない。ウイルスの変異が起こっていないことを祈るしかなさそうだ……。

(取材・文/近兼拓史)