アメリカ版『VOGUE』の編集長アナ・ウィンターを知る人は多い。2009年のドキュメンタリー『ファッションが教えてくれること(原題:The September Issue)』ではアナを中心に『VOGUE』誌でも1年の正念場ともいえる9月号の製作に迫っていたが、そこで彼女と熱い議論を交わしていたのが、同誌のクリエイティブ・ディレクター、グレース・コディントンだ。



『VOGUE』誌ではアナの強力なパートナーを務め、最近では回顧録『Grace: A Memoir』を発表したグレース。同書では英ウェールズのアングルシー島出身で、今ではあらゆるファッションショーのフロントロウ(最前列)の常連となった彼女の、ロンドンでのモデル時代や『VOGUE』誌での長年の活躍、アナとの仕事ぶりが綴られている。ここ10年あまり、私たちはファッション業界における"民主化"を目の当たりにしてきました。インターネットのおかげで、カメラやコンピューターがあれば誰でもスタイリストになれるんです。

グレース: (スタイリストには)なれるとも、なれないとも言えるわね。私には高い水準があるの。携帯電話(を持ってる)だけじゃダメよ。ショーのフロントロウに座るブロガーたちが、(ショーの内容よりも)自分たちが着飾ることにエネルギーのすべてを注いでいるのを情けなく思っているわ。だけど(今は)そういうものなんでしょうね。ファッション業界に限ったことじゃないけど。私は"ゆっくり"傾向のイギリス人だから、(業界の動きは)とても目まぐるしく感じるわ。不快なほどよ。私は今も、カタツムリのようなペースでやってるわ。

デジタル世界には受け入れられる部分も、またそうでない部分もある。私はコンピューターを使わないから、引退したら誰とも話をしなくなるでしょうね。今では誰も手紙を書かないし、電話をかけることすらしないのよ。(仕事では)アシスタントがeメールを印刷してくれるの。

回顧録では、パリでの歴代のファッションショーに出席したことを書いていますね。今ではショーがリアルタイムで配信され、インターネットで見ることもできます。ランウェイでのショーは時代遅れだと思いますか?

ランウェイがなかったら、すべてを再構築しなればならないでしょうね。私個人はファッションショーが大好きなの。

魔法が使えるとしたら、ファッション界で何を実現させたいですか?

ファッションは常に変化するもの。そうね、ショーをもう少し小規模にしたいわ。ショーに行く人が、(披露される)洋服だけに集中できればいいなと思うの。デザイナーが自分オリジナルのアイデアを持ち、最高の素材を見つけ、服を作るのにもっと時間を費やせることを望んでいる。自分のヴィジョンではなく、他人が何をしているかに気を取られ過ぎている人が多いからよ。

『ファッションが教えてくれること』では、あなたとアナ・ウィンターの仕事上の関係が注目を集めました。これだけ長く特定の人と一緒に仕事をするのは、結婚のようなものでしょうか?

退屈な質問だけど、よく聞かれるのよね。結婚みたいなものじゃないことを願うわ。私は2度の結婚歴があるけど、どちらも半年しか続かなかった。だけどアナとの関係はもう26年にもなるのよ。