出場停止の今野に代わって吉田とともに最終ラインに立った伊野波。イラク戦では鍵を握る選手の一人だ

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2分、清武弘嗣のスルーパスに香川真司が斜めに走り込んだ。香川はヒールで本田圭佑に正確なパスを渡す。本田が合わせたシュートはゴールの枠を捉えられなかったが、それでも高い戦術眼と正確なテクニックがかみ合ったスピード感溢れるチャンスメイクに、日本代表の復調が明らかになった――はずだった。

ところがその後、日本はUAEに攻め込まれる。特に右サイドのMF、オマル・アブドゥルラフマンがうまく駒野友一を引きつけて伊野波雅彦との間にスペースを作り、そのスポットを味方に利用させていた。また日本は前方の選手がプレスをかけに行っても後方の選手は押し上げていないなど、選手間の意図が統一されていなかった。17分、アル・アハメド・マブフートにペナルティエリア内で決定的なシュートを打たれるが何とかクリア。34分にもハミス・イスマイールにもゴール前から狙われるが、これは川島永嗣が防いだ。

やっと日本が反撃したのは45分。酒井宏樹のクロスにハーフナー・マイクがダイビング・ヘッドで合わせるものの、これは相手GKに弾かれた。

ハーフタイムにアルベルト・ザッケローニ監督の指示でラインをコンパクトにすると、やや息を吹き返す。そして69分、駒野が上げたクロスに相手GKが判断ミスで飛び出し、触れなかったところ、ハーフナーが合わせてやっと1点を奪う。78分には中村憲剛のパスを受けた岡崎慎司がゴール前で相手を次々にかわしてシュートしGKに防がれるなどチャンスを作った。81分、清武のミドルシュートがUAEゴールに鋭く飛んだが、これもGKにはじき出されている。

もっともこの試合のゴール前の見所はここに挙げたシーン程度。あとは個人の能力の片鱗は見せたものの、チームとして小気味いい、連動した姿を見せることはほとんどなかった。つまりこの試合で日本代表は、ワールドカップ最終予選のイラク戦を前に決して安心できる内容を見せることはなかった。

この試合での課題は2つあった。

1つは出場停止の今野泰幸の代役を誰にするか。前半出場した伊野波は、アゼルバイジャン戦に比べると落ち着いたプレーを見せ、タフなところを証明したが、ペナルティエリア内に何度もできた空白地帯をなかなか修正できなかった。

伊野波にすれば、この試合で急きょ左サイドに回った駒野との調整には時間がかかったということだろう。後半出場した水本裕貴は破綻することなく無事につとめを果たしたが、パスに関しては遠慮気味で能力を見せたとはいいがたい。水本にすると、吉田麻也のパスが非常に鋭いキレを見せていたので、吉田に集めたのかもしれない。ただし、結局はどちらがイラク戦の代役にふさわしいのか、相手より一歩ぬきんでた姿は見せられなかった。

もう1つはザッケローニ監督が日本サッカー協会の発行するJFAニュースで語っていた親善試合の目的、「フィジカルとメンタルのコンディション調整」である。この日の攻撃陣の中では一番動きが鋭かった清武にしても、時間が経過すると次第に動きが落ちてきた。帰国して時差ボケを調整し、代表チームの戦い方に合わせることの難しさが垣間見える。この日は「いいコンディション」にはならなかった。

日本代表はこの試合で2つとも課題を解決してはいない。問題点がどこにあるか、浮き彫りにして終わったに過ぎない。もっとも問題は抽出されたので、イラク戦までにどう修正できるかということになる。つまり次の試合ではザッケローニ監督の手腕がこれまで以上に試されることになる。そして指揮官に残された時間は4日しかないのだ。
(文=森雅史)