米ニューヨーク・ヤンキース黒田博樹が現地時間で27日、メディア向けの撮影会「フォト・デー」に参加。ピンストライプの背番号18を披露すると同時に、ラジオ局の求めに応じスペイン語で自己紹介をした。

 日本人選手がメジャーリーグで長く現役を続けようと思うのなら、英語に限らず、スペイン語を身につけても損はない。ドミニカ共和国メキシコベネズエラなど、スペイン語を公用語とする国出身の選手が少なくないからだ。

 通訳は異なる言語の橋渡し役だが、どんな優秀な通訳でも、インプレー中にグラウドに立つわけにはいかない。また通訳を介すと、微妙なニュアンスが伝わらないこともある。
 やはり、チームに溶け込み、チームメイトや監督、コーチ、球団職員などと親交を深めるには、英語だけではなく、スペイン語を学ぶべきだろう。

 こんな笑い話がある。あるチームで、南米出身の選手ショートを守っていた。彼は英語をまったく理解できず、浅いフライを巡り、チームメイトのセンターとのトラブルが耐えなかった。
 そこでセンターの選手はスペイン語を勉強。日常会話とまではいかないにしても、フライをセンターかショートのどちらが取るか、スペイン語で指示を出せるようになった。
 そして次の試合でフライが上がった。センターの選手は打球を確認しながら、満を持して「お前が取れ」と、スペイン語でショートに指示を出した。
 これで意思疎通が不十分で衝突したり、お見合いすることもなくなったと、センターの選手が安心したのも束の間、次の瞬間見たのは、グラウンドに倒れてるショートとレフトと、転々と転がるボールだった。
 よく見れば、レフトも南米出身の選手。彼も英語を理解できず、遊撃手からのスペイン語の指示で体が条件反射したのだった。
 やはり、コミュニケーションは大事だ。

 審判員にとっても、スペイン語は身につけても損はないスキルだ。アルマンド・ロドリゲス審判員は1975年に行われたカンザスシティ・ロイヤルズオークランド・アスレチックス戦で2塁の塁審を勤めたのだが、そこでスペイン語を巡るトラブルに見舞われた。
 この試合でアスレチックスのバート・カンパネリスがヒットを放ち、猛然と2塁に滑り込んだのだが、ボールはすでにロイヤルズの2塁手、クッキー・ローハスの手元にあり、ローハスはカンパネリスにタッチ。ロドリゲス審判員はアウトの判定を下した。
 ここまでは何の問題もなかったのだが、2塁手のローハスがタッチの際にボールをお手玉したため、判定は一転。セーフになったのだが、それを見てカンパネリスが3塁を欲張った。すかさずローハスがボールを握り直し、カンパネリスに再びタッチ。今度こそアウトのはずだったが、ローハスはまたしてもボールを落としてしまった。はたしてカンパネリスが2塁に帰塁。ロドリゲス審判員はセーフと判定した。
 二転三転するジャッジにローハスは激怒。ロドリゲス審判員に詰め寄ったのだが、不幸なことにローハスは英語を、ロドリゲス審判員はスペイン語を理解できなかった。
 ロイヤルズのジャック・マッケオン当時監督が間に入ったのだが、彼もスペイン語を理解できるわけではない。
 かくしてマッケオン監督は、「もうやめだ。セーフでもアウトでも勝手にしてくれ」と言い残し、ベンチに戻ってしまった。

 審判員のエピソードでは、当ブログでお馴染みのロン・ルチアーノ審判員に触れないわけにはいかない。彼も1969年のボストン・レッドソックス戦で、スペイン語のトラブルに見舞われた。
 ある南米出身と口論になったのだが、リッチー・ガルシアしかスペイン語を理解しないルチアーノ審判員には、抗議の内容はちんぷんかんぷん。ひとまず自分を非難していることだけはわかり、その選手を退場処分にしたのだが、これを見たレッドソックスのディック・ウィリアムズ当時監督が、選手がいったい何を抗議したのか、ルチアーノ審判員に尋ねた。
 スペイン語がわからないルチアーノ審判員はもちろん、説明できるはずがない。それを知ったウィリアムズ当時監督は、「君には、彼が何と言ったか聞き取れなかったんだな」はしてやったりとばかりにほくそ笑んだのだった。