政治家を信用していない、政治に関心がない、今の日本はいわば“無政治状態”。文句ばかりで積極的な政治参加から逃げ続ける若者へ、26歳にして北京大学研究員に、テレビコメンテイターなどを務め、中国でもっとも有名な日本人と言われる加藤嘉一氏からひと言。

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 今に始まったことではありませんが、近頃“政治不信”ということが強く叫ばれています。大半は「やり方や姿勢が気に入らないから辞めろ」といった意見ですが、ぼくに言わせればこれは犬の遠吠えでしかありません。少なくとも日本は自由と人権が保障された民主主義国家なわけです。文句があるならば代案を国や自治体に請願するなり、あるいはデモをするなど与えられた権利があるのですから、それを行使しない手はない。

 ぼくなら本当に気に入らないことがあれば、1万人集めて国会議事堂を囲みますよ。

 通行人の邪魔をしない、メシも食べない、ただ立っているだけで1週間。警察に何か言われたら「立っているだけです」と返せばいい。中国だとこれは違法なのですぐ排除されてしまいますが、日本では強引に散会させられることはありません。

 つまり、自分にはどんな権利があるのか、あるいは自分の意見を通すにはどうしたらいいのかを足元を見て考えてもらいたいんです。

 そういえば高校3年生のときにこんなことがありました。当時、日韓共催のW杯が開催されており、決勝トーナメントに進んだ日本はトルコと対戦することになりました。中継は昼間で、ぼくはこれを学校のテレビで応援しようと提案したんです。生徒たちが一丸になるチャンスですし、授業をやったとしてもきっと身が入りません。

 しかし、ただ単純に「W杯を見せろ」と言っても犬の遠吠えになってしまうので、ぼくは教師たちと交渉をしました。宿題を多く出してもらうなり、補習を受けるといったことを提案したのですが、どれも却下。それでもあきらめきれなかったぼくは、生徒ひとりひとりに頭を下げ署名を集めました。全部で約 1000人分ぐらい、不良のおネエちゃんたちにもお願いして徹底抗戦の準備は万全。

 そして集めた署名を校長に提出して、これでダメならば明日学校を辞めますと言いました。結局は、半ボイコットのようなカタチで観戦をすることができましたが、正しいと思う自分の意見を訴えるのであれば、これだけのことをやらないとダメと思ったほうがいい。

 自分の身を守るという意味でも若い人たちは、身のまわりを見渡して、今の自分には何ができるのかを考えたほうがいい。年功序列最悪、終身雇用反対を叫ぶのは大いに結構ですが、それを証明できる意見や行動がない限り誰も認めてはくれません。理論武装して、リスクを引き受ける覚悟があって初めて説得力が生まれるんです。

 最初の話に戻りますが、だから政治家たちはわれわれの意見を無視します。彼らが覚悟のない野次に耳を傾けることはありません。

 思うに今の日本は、アナーキー(無政府状態)という言葉がありますが、いわば“無政治状態”ではないでしょうか。根拠はふたつあって、まず国民が政治家を信用していない。自分で選んでいるはずなのに、これでは自業自得です。そして国民が政治に関心がない。自分の国家にもかかわらず。

 こういった状態で毎日毎日政治批判を繰り返す。

 要は今の日本人は自分に自信のないコンプレックスの塊のような気がします。自分で選んだ政治家を揶揄し、一方でまるで他人事のように不平ばかりを口にする。ぼくは今の政治が決して良いとは思いませんが、まずはぼくたちが当事者であることを強く意識しなければ何も変わらないのです。

(構成/石塚 隆)

■加藤嘉一(かとう・よしかず)
1984年4月28日生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学。中国国内では年間300本以上の取材を受け、著書も多数持つコラムニスト。現在、中国で数多くの講演活動をしている。