朝鮮学校を政治利用しようとする右や左の皆さんへ

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今回はfilinionさんのブログ『小学校笑いぐさ日記』からご寄稿いただきました。

朝鮮学校を政治利用しようとする右や左の皆さんへ
朝鮮学校無償化 結論先送りへ」というニュースや関連した一連のニュース、そしてそれに対するブックマークを見ていてつくづく思うこと。

朝鮮学校無償化 結論先送りへ』 NHKニュース

最初に書いておくと、私は朝鮮学校を学校として認定することには懐疑的だし、高校無償化の対象にするのも慎重であるべきだと思っています。……と書くと、「不当な朝鮮人差別だ!」といった批判があるとは思います。

一方、慎重論の立場の人からは、「反日教育をしている学校を支援してやる必要はない」とか、「拉致(らち)問題・核開発が……」といった話が出てくることと思います。

ただ、私としては、それらは全て、この問題の中では重要性の低い……というか、本来関連づけてはいけない論点だと思うのです。唯一重要なのは、「朝鮮学校は高校相当の教育を行っているのか」という点ではないでしょうか。

日本の学校(学校教育法第一条に定められた、いわゆる“一条校”)は、設備や人員について厳格な基準があり、教育内容についても、学習指導要領をはじめとする基準を満たすことが要求されています。従って、だれかが自前のテキストを用意して自宅で私塾を開き、中卒の生徒を募集した上で、「本校は高校生と同年齢の子どもに教育を施している。つまり本校は高校である」と言っても認められません。

つまり、これらの基準を定めることによって、国内の学校に通う児童・生徒は、ちゃんとした教育を受けられることが保障されているわけです。

朝鮮学校関係の議論で、極端な人の中には、「一条校以外は支援の対象から外すべきだ」という意見がありますが、私としては、それは狭量すぎると思います。学校教育法や学習指導要領というのは、本来“我が国の未来”を考えて定められるもので、インターナショナルスクールのような、外国人のための教育はそもそも想定していません。*1 ですから一条校でなくとも、高校相当の教育を行っているなら、支援の対象に含まれるべきだと思います。

そして、そこでは思想的に反日であるとか、北朝鮮と日本が外交的に緊張しているとかいうのはどうでもよいことです。日本の学校を出た人の中にだって、いわゆる“反日”的な思想を持った人はいくらもいるわけですし *2 、我が国は思想・信条の自由を保障していますから。

例えば、我が国は、中華学校卒業生には大学受験資格を認めていますが、仮に将来、日本と中国の外交関係が緊張したからと言って、(教育内容に変化がないのに)これが取り消されるようなことはないし、あってはいけないのです。

一方、仮に朝鮮学校が十分な水準の教育を行っていないのだとしたら、それで迷惑を被るのは生徒たちです。それを日本政府が支援するのは、差別と戦っているというより、むしろ、朝鮮学校出身者の知的水準が低くなるよう支援するようなものです。

よく、「インターナショナルスクールには大学受験資格が認められているのに、朝鮮学校に認めないのは差別だ」とかいう主張をする人がいますが、それは事実誤認です。実際には、日本政府も、なんの審査も基準もなく、各種インターナショナルスクールに支援をばらまいているわけではありません。『学校教育法施行規則及び告示の一部改正について』で示されているとおり、まず第一に“評価団体による評価”という視点があります。

『学校教育法施行規則及び告示の一部改正について』 文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo1/gijiroku/03101601/012.htm

世界には、WASC、ACSI、ECISといった教育認定機関があります。日本政府はこれらの団体による認定を受け入れています。このため、これらの団体が「教育機関としての水準に達している」と認めれば、大学の受験資格が得られるわけです。

また、“本国での位置付けを尊重”という考えかたもあります。
前述の認定機関が欧米に偏っている、という批判もあったことから、本国において高校相当と認められている教育機関ならば、個別に認定する、ということです(言い換えれば、本国政府を教育認定機関と見なす、ということだと思います)。

で、朝鮮学校はどうか。彼らは教育認定機関の認定は受けていません。残念ながら。本国での立場……。朝鮮学校に“本国”は存在しません。「北朝鮮だろ」という意見もあるでしょうが、それは事実ではありません。朝鮮学校は北朝鮮の出先機関ではありませんので。建前上は。*3

あえて“本国”を考えるとしたら、それはいつか誕生するかも知れない統一朝鮮、あるいは、すでに存在しない“大韓帝国”でしょう。どっちにしても今は存在しませんので、朝鮮学校は“本国”の認定を受けてはいないのです。

……と言うと、「朝鮮半島が分断されているのは、日本にも歴史的責任があるじゃないか」という声もあろうかと思います。それはその通りですが、それとこれとは切り離して考えるべきです。

例えるなら、えん罪で死刑に処されてしまった死刑囚のようなものです。
その人が死んだのは日本政府の責任です。しかし、だからといって、生きていると認められるわけではありません。その人名義で親権を得ようとしたり扶養親族として申請したりしても、窓口で「だって死んでるでしょ」と言われるでしょうし、それに対して「殺したのは日本政府ではないか!」とか叫んでも認められないでしょう。

同様に、朝鮮学校に“本国”が存在しないのは、ある程度日本の責任ですが、だからと言って、朝鮮学校がどこからも教育水準の認定を受けなくていいことにはならないのです。*4

だから、「インターナショナルスクールは認めるのに朝鮮学校は認めないのは不当な差別だ」というのは、各校の実態の違いを無視した不合理な空論なのです。というか、教育問題を語るにあたって、教育水準の問題を度外視する人って、教育機関をなんだと思ってるんでしょうか。

ともあれ、ここまでまとめると、
高校相当の教育を行っているなら支援すべき。そうでないなら支援してはいけない。
− 政治思想や外交関係、歴史問題など、教育水準と無関係なことを勘案すべきではない。 
ということになります。

「政治や外交の問題を絡めるべきではない」と言いつつ、同じ口で強制連行の話とか持ち出してくるダブルスタンダードな人もしばしばいますが。とはいえ、「そもそも本国が存在しない」という特有の事情があるのも確かですから、朝鮮学校が直接日本政府の審査を受ける、という道もあってしかるべきかとは思います。

で、先日、文科省の専門家会議が、朝鮮学校の審査を行って、
“「日本の高校の教育課程に類する」との報告をまとめた”というニュースがありました。

朝鮮学校に無償化適用へ 文科省「高校課程類する」」 2010.08.28 『47NEWS』
http://www.47news.jp/news/2010/08/post_20100828020504.html

正直なんだか釈然としないし、そもそも“類する”ってなんだよ、という疑念もあったのですが、ちゃんとした審査が行われて“高校相当”と認められたならまあいいんじゃないか、と思いました。ただ、将来にわたってその水準を保障する仕組みは必要なんじゃないか、という気はしましたが。“財務諸表は毎年確認を受けるよう義務付ける”とあるだけで、教育内容についてはチェックしない模様でしたから。

ところが、その後産経新聞から続報があってですね。

「【朝鮮学校無償化】「思想教育」「反日教育」は判断材料にせず 文科省が説明」 2010.8.10 『産経ニュース』
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/100810/kor1008100130001-n1.htm
(以下、**〜**部分は上記記事よりの引用)

なんというか……。

** 文部科学省が、北朝鮮による独裁政治の思想教育や歴史教育は適用の判断材料としていないことが9日、分かった。産経新聞の取材に、文科省初等中等教育局が認めた。 ** 

それは、まあ、当然のことですよ。ところが、

** 文科省初等中等教育局の説明によると、数学や理科、国語といった日本の高校と同じカリキュラムが、朝鮮学校にも外形的にそろっているかが主な検討材料となっており、教科書の内容などについては判断材料にはなっていないという。 ** 
 
「外形的にそろっているかが主な検討材料」。
なんか難しいこと言っていますが、要するに「時間割表は確認したけど、それぞれの時間で何を教えてるかはチェックしなかった」ってことですね。

この税金泥棒ども! なんというか……なんというか。お前ら何しに行ったんだよ。で、これを受けて産経新聞が何を言うかと思えば、

** 朝鮮学校では、歴史教科書で、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元北朝鮮工作員による大韓航空機爆破事件を「南朝鮮(韓国)当局のでっちあげ」と教え、主体(チュチェ)思想など独裁政治に利用される思想教育が行われているが、こうした点は問題にしていないことになる。 **

問題はそこじゃないだろ! もう……もうね。お前ら本当に、教育に何の興味もないのな。最後に、“北朝鮮問題に詳しいジャーナリストの萩原遼氏の話”として、

** 朝鮮学校では、カリキュラムで『歴史』などとしながら思想教育を行うなど、何をしているか分からない。
カリキュラムを見ただけでは不十分。いくらでも改竄(かいざん)が可能だ。
国が公費を投じるならば、ほかの高校と同じように、学習指導要領に基づいた教育が行われることを条件とすべきだ。文科省と専門家会議が、きちんと内容を確認しないとすれば、おかしい。 ** 

“学習指導要領を基準に”というのは、つまりインターナショナルスクールは軒並み切るべきだ、といっているわけで、私自身は賛成しませんが。しかし、カリキュラムを見ただけで“審査”しました、というのは……バカたれだと思います。

以前、日本の高校でも、本来必修であるはずの“世界史”が、書類上ではやったことになっていて、実際にはやっていなかった、という問題がありました。常時文科省の管理下にある日本の高校ですらそんなことが起きるのに、ほとんど実態のわかっていない朝鮮学校を審査するに当たってそんなザルなチェック態勢でどうするのかと。

萩原氏、“歴史”と称して思想教育を行うことに触れています。ここで問題にすべきは、“思想教育”の内容が北朝鮮寄りだ、ということではありません(産経新聞はそこを問題にするつもりでしょうが)。問題なのは、その分、“歴史”の教育をやっていない、ということです。

ソ連時代のジョークに、こんなのがあります。
ーーーーーー
料理が下手な女性がいた。
とうとう夫が業を煮やし、料理教室に通うよう勧めた。
そして半年ほどたって、夫は、受講の成果を見たいと思い、妻に料理を作ってくれるよう頼んだ。
ところが、できあがった料理は、肉は黒こげ、野菜は生煮えで、相変わらずひどいものだった。
「料理教室で半年も何を習ってきたんだ!」
「ごめんなさい、あなた」
妻は謝って答えた。
「でも、授業は、まだ十月革命のところまでしか進んでいないのよ」
ーーーーーー

政治教育の問題は、それに時間を割くあまり、本来行うべき教育内容が押しやられてしまうことにあります。北朝鮮でも、何かというと政治教育、マスゲームの練習などで授業がつぶれ、充分な教育はできない状態にあるようです(逆に言えば、十分な教育を行った上で“同志将軍万歳”を教えるなら、それはまあ自由なわけです)。

一般の日本の小中学校などに関しても、「義務教育で、借金の怖さとか、資産の運用についての基本的な考え方を教えるべき」とか、「プログラミングの初歩を義務教育に取り入れるべき」とかいう、それ自体は大変もっともなことをおっしゃる方が良くいます。でも、そういう人は大抵、「その代わりに何をカットするのか」という点には触れません。

教育というのは有限の資源です。教員の教材開発の労力もそうですが、何より、子どもが教育を受ける時間は限られています。そこに、金融教育だのプログラミング教育だの政治教育だのを押し込んだら、それ以外の何かが押し出されるわけです。

そういう点をこそ問題にすべきなのに、
反日教育を許すな!
「いや、思想・信条の自由は認められるべきだ!」
とかいうことばかり論じる人たちは、結局、どいつもこいつもこの問題を政治問題だと考えていて、まともに教育問題を考える気がないんだろうな、と思います(文科省の“審査”だって、最初から結論が決まってるからザルだったんでしょう。まさに“外形的な”審査だと言えます)。

朝鮮学校の法的位置づけについては色々な意見があるでしょうが、とにかくそこに生徒が通っているのは事実。

だから支援すべきだ、というのではなく、子ども達に十分な教育を保障するにはどうすればいいか、という点をこそ議論すべきであるのに、やれ拉致(らち)問題だ核開発だ、差別だ強制連行だと、左右どっちも朝鮮学校問題を政治利用することしか考えていない風情でうんざりします。

子どものことを考えろよお前ら。本当に。

・追記
色々ブックマーク等でご意見を頂いてるんですが、一つだけ。
一条校として認定を受けている日本の高校の中にも、相当レベルの低いところはあるのでは」というご意見があります。

ご意見1
>まともに漢字の読み書きができなかったり分数の計算もできなくても卒業できる日本の高校はいくらでもあるんだが。朝鮮学校に「だけ」水準を求めるの?
ご意見2
>「外形的にそろっているかが主な検討材料」これ以上の口出しは無用。審査厳しいと高卒の資格を持てない人がいっぱい出てくる。今の日本で中卒は不利。

確かに、いわゆる“底辺校”と呼ばれるような学校の中にはかなり想像を絶するところもあり、先生方はものすごい苦労をされているようです。ただ、私としては「それは高校の問題じゃないんじゃね?」と思います。

孫引きになってしまいますが、
頭が悪い?社会が悪い!  − 書評 − ドキュメント高校中退」 2009.10.06 『404 Blog Not Found』
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51302923.html

本書に登場する中退生たちの学力は、本当にひどい。どれくらいひどいかというと、これくらい。

***********
P. 24
この高校では、定員割れすると中学からの成績がオール一でも入学できる。高校入学まで、小学校低学年レベルの学力のまま放置されている生徒が相当数いる。そのため、教師は一から一〇〇まで数えさせるといった補習授業をするのである。順番に数えていけば数えることができても、では「55の次はいくつ?」と聞くと、一〇%の生徒はできない。SA高校の生徒にとって数字の理解は三〇までで、それ以上の数を概念として理解することはむずかしいようだ。一円玉、五円玉、十円玉をいくつか出して、「全部でいくらになる?」と聞いてもわからない生徒もいる。「一五三二五は?」と聞いても、高校三年生になっても読むことすらままならない。

「九九が言えない」というレベルではない。私の小学二年生の次女より学力が低いのだ。これでは「おつかい」すら任せられない。ましてや就職は難しい。
***********

一円玉……五円玉……十円玉……一円玉……十円玉。はい、これ全部でいくら?」という授業を“高校相当”と見なすのはなるほど無理でしょう。しかし、“SA高校”の授業が小学校低学年並みなのが、職員の能力や制度的な欠陥に原因があるのかというと……どうなんでしょう。

いや、公立小学校勤務、という職業上、「子どもが勉強できないのは教師の責任だ」と考えるようにしつけられているので(思想教育!)、こう言うのは抵抗があるのですが……。でも、「55の次はいくつ?」に答えられない高校生、というのは、本人も知的に何らかの問題を抱えているように思います。

高校進学率が90%を超えるということは、そういう子も高校に通うようになった、ということなのです。その相手をする先生方は、もちろん高校教員としての免許を持っていますし、教科書だって検定済み、校舎・教材だって一定のものがそろえられているはずです。

ただ(理由は知りませんが)、その学校には、基礎的なレベル(えん曲表現)からの教育が必要な生徒が集まっている、ということなんじゃないでしょうか(もちろん、そういう生徒を入学させること、そのうえ“高校卒業”資格を与えてしまうことへの批判はあろうかと思いますが……)。

だから、そういう学校は、現状はどうあれ、仮に普通の高校生並みの能力を持った生徒が入学してきた場合には、ちゃんと高校並みの授業を行う機能を具えているはずだ、と思うのです(……まあ実際には、教師が“普通の”授業に不慣れだとか、他の子をサポートするのに教師が手を取られるとか、ハンデもあるでしょうけど)。

翻って、朝鮮学校はどうか。ひょっとして、子どもの能力がどうであれ、そもそも“高校相当”の教育を行う意思も能力もないんじゃないのか? ……という点を懸念しているのです。*5 ですので、「……朝鮮学校って、ちゃんと高校並みの授業ができるの?」に対して、「日本の高校だってレベルの低いところがあるじゃないか!」というのは若干筋の違う反論であろう、と私は思います。

*1:帰国子女のために外国語のできる教師を……といった配慮は公立の小学校でも見られますが、その目的は「帰国子女がスムーズに日本社会に溶け込めるように」というところにあります。学習指導要領は、日本語を“国語”、日本の地理を“我が国の国土”として扱っています。それはまあ当然のことなのですが、その枠内で日本人以外のアイデンティティを持った人間を育てるのは困難だろうとも思います。

*2:私自身、ネット右翼のみなさんから見たら“反日サヨク”でしょう。

*3:仮に「本国は北朝鮮です」ということにしても、日本は北朝鮮の審査の妥当性を判断する資料がありませんから、やっぱり認められないでしょう。そもそも、北朝鮮政府が、朝鮮学校についてきちんと調査し、その水準を保障できるとも思えませんし。

*4:なお、韓国併合がなかったとしたら、大韓帝国がその後どんな運命をたどったか、という歴史のifを議論するつもりはありません。それはこの記事の本題ではないし、私の手に余りますので。

*5:朝鮮学校に通ったわけでもないのに疑うとは何事か、というご意見もあるでしょうが、普通の教育機関は常時そういう疑いをかけられて、その疑念を晴らし続けながら運営してるわけですから……。

執筆: この記事はfilinionさんのブログ『小学校笑いぐさ日記』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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