11人が１％ずつでもモチベーションを欠くと一気に瓦解するが、逆に全員が少しずつでも自信を上乗せできると信じがたいほどのパフォーマンスに繋がるのが、サッカーという集団競技の怖さであり、面白さである。
最大の分岐点はイングランド戦での修正だった。自陣でコンパクトなプレッシングゾーンを設定し、アンカーという本来のポジションで阿部を起用したことで、優勝候補相手でも簡単にはやられないという手応えを得た。それまでがどん底だっただけに、落差を考えればやっと掴んだかけがえのない光明だったはずで、対照的に格下相手に自力のゴールがなかったイングランドは、酷評されて調子を落としたまま本大会に突入するのだ。

大舞台に出て守れるという手応えは、何よりも落ち着き、さらにはツキを呼び込んだ。また今となっては、グループ内で格下という評価や、不振続きで監督が進退伺いなどというニュースさえ、相手の油断と焦燥を誘発する意味で追い風になったかもしれない。
カメルーン戦は、むしろ試合を壊すことで勝利を手にしたが、オランダ戦では内容が良化したことで、選手もスタッフも確信を持つに至ったに違いない。そしてオランダ戦を、当面のライバル、デンマークより少ない１失点で切り抜けたことは、心理面で大きなアドバンテージとなった。

案の定、デンマークは序盤から積極的に圧力をかけてきた。今までの日本なら、特にボランチとして文字通りハンドルを握るＣ・ポウルセンが自由に動けていた時間帯に失点し、追いかける展開を強いられていたかもしれない。しかしそこで傷を負う前にマッチアップを確認し修正できたことで、次第に流れを引き込んでいく。前半のゴールは２つともセットプレーだったが、止まったボールを蹴る技術は伝統的に日本の特徴でもある。結局守れるという手応えは、攻撃への焦燥を取り除き、逆に相手に心理的な圧力をかけることでツキも味方にした。

ただし後半早々にＣＢを１人削って、パワープレーに踏み切ったオルセン監督の割り切りも見事で、あと10分早く失点していれば危機的な状況が訪れていた可能性もある。だが反面前がかりなデンマークには、当然ながら守備での穴が広がった。もう少し早い段階でトドメを刺せれば理想的だったが、オープンな展開となってからは、最前線で体を張り、足を動かす本田を軸とした日本選手たちの賢さと器用さが際立った。少なくともこれで「最低レベル」と酷評されたカメルーン戦の印象は払拭できたはずだ。

大会前の連敗で力不足を認識した日本は、今度はどん底から這い上がる過程で、自分たちに何が出来るかを認識し、結束して長所を見せるようになった。失うものがない状態を出発点として、逆にグループとして最高のサイクルを築き上げている。
パラグアイは非常に難しい相手で、過去にもコッパアメリカやアテネ五輪で手痛い目にあっている。守備には隙がなく、逆に小さな隙を的確に突くアタッカーもいる。しかし今の日本には、簡単に失点をしないという土台と、過去の歴史から対戦相手に対する警戒もある。勇気と謙虚のバランスが取れた心理状態で臨める一戦だけに、今までとは違うシナリオが描けそうである。（了）