現代のIT社会ではパソコンがない生活は考えられないほど、パソコンは生活に密着した道具となっている。そんなパソコンの基本概念を発明した人物がいる。コンピューター科学者のアラン・ケイ氏だ。

アラン・ケイ氏は「パソコンの父」とも呼ばれるほど、パソコンの発展に大きく貢献し、その業績は他者の追随を許さない。彼の業績の何がそれほどまでたたえられているのか?、また何が彼をそこまでパソコンに夢中にさせたのだろうか?

アラン・ケイ氏の半生とともに、パソコンが歩んだ歴史を見てみよう。


■パソコンの父と呼ばれるまで
アラン・ケイ氏は1940年5月17日、アメリカ合衆国マサチューセッツ州スプリングフィールドに生まれた。

●研究者と演奏家の二足のわらじ
アラン・ケイ氏はコロラド大学で数学と分子生物学の学士号を取得。またユタ大学で修士号と博士号を取得している。
1960年代は、ユタ大学でコンピューター科学者アイバン・サザランド氏と共にSketchpad※を含むグラフィックスアプリケーションの開発に従事していた。同時期に彼は心理学者ジャン・ピアジェ氏の業績を研究し、シーモア・パパート氏と共にLOGO言語についても学んでいる。
※1963年、アイバン・サザランド氏が博士論文で提唱した革新的コンピュータプログラム

また彼はこの時期にプロのギターリストとしても活躍している。「二兎を追う者は一兎をも得ず」という有名なことわざがあるが、彼には無用の言葉だったようだ。普通の人は一度にひとつのことしかできないものだが、彼はこの頃からすでに天才ぶりを発揮し、「二足のわらじ」をうまく履きこなしていたと言っても過言ではないであろう。

コンピューターと音楽以外にも、教育、舞台技術、歴史などに深い造詣を持ち、様々な分野において大きな影響を与えている。


●理想のパソコン「ダイナブック構想」
1970年、アラン・ケイ氏はゼロックス社のパロアルト研究所の設立に参加。同研究所は アーキテクチャー・オブ・インフォーメーションの創出を目標とし、コンピューター関連機器の基礎研究や技術開発を行う機関だ。1970年代は同研究所に在籍、当時の利用可能な技術で「Dynabook(ダイナブック)構想」を具現化したSmalltalk環境が動作するAlto※の開発に大きく貢献する。
※パソコンの原型と言われている

ダイナブック構想とはアラン・ケイ氏が提唱した理想のパソコン。文字や映像、音声を備えた「本(book)」のようなもので、それを利用する人間の思考能力を高める存在であるとした。ダイナブック構想は、持ち運びが可能なパソコンの原型で、今日のWindowsやMac OSに見られるウィンドウ型グラフィカルユーザインターフェース(GUI)の先駆けと言われている。

パソコンに詳しい人であればピンと来たと思うが、東芝のJ-3100SSに始まるノートパソコンシリーズのブランド名称「ダイナブック(DynaBOOK)」は、アラン・ケイ氏が提唱した「ダイナブック」を目指して命名されたという話だ。


■多彩な才能はアップルにも貢献
アラン・ケイ氏は、IT業界にまつわるさまざまな方面で活躍している。とくにアップル・コンピューターとは、深い縁がある。

●オブジェクト指向を考案
アラン・ケイ氏は、オブジェクト指向プログラミングの生みの親でもある。彼がパロアルト研究所に勤務していた当時、コンピューター言語には「クラス」と「オブジェクト」を備えた言語「Simula 67」があった。彼はSimula 67の言語機能に「メッセージング」と呼ばれる自らのアイデアを組み合わせたプログラミング言語「Smalltalk」を開発し、世界で初めて「オブジェクト指向」を唱えた。

オブジェクト指向はのちに、デンマーク生まれのコンピューター科学者ビャーン・ストラウストラップ氏によりカプセル化・継承・多相性として再定義されている。


●ジョブズ氏にも大きな影響
アラン・ケイ氏のパロアルト研究所での業績は、のちにアップル・コンピューターを創設するスティーブ・ジョブズ氏にも大きな影響を与えている。ジョブス氏は、同研究所のSmalltalk環境の動作するAlto(暫定Dynabook)を見学し、そのアイデアを「Lisa※」や、それ続く「Macintosh※」にも取り入れている。
※アップル・コンピューターが製造したマルチタスク対応のパソコン。パソコン黎明期の名機といわれている

また、アラン・ケイ氏はパロアルト研究所で10年を過ごしたのち、アタリの主任科学者を3年間務め、1984年からアップル・コンピューターのフェロー※となっている。
※研究者や研究職に従事する者に与えられる職名


●数々のIT企業を渡り歩く
アラン・ケイ氏は、アップル・コンピューターを去ったあとも、Walt Disney Imagineeringの特別研究員、Applied Mind※、ヒューレット・パッカードのシニアフェローなど、多くのコンピューター関連の会社で活躍している。
※Walt Disney Imagineering の退職者が設立した会社

その後は非営利団体 Viewpoints Research Instituteを主宰し、現在も精力的に活動を続けている。


アラン・ケイ氏の多芸ぶりは、IT業界の中でも屈指のものだ。彼はIT業界の未来をどのように考えているのだろうか?  その答えは彼の名言にあった。

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」アラン・ケイ


参考:
アラン・ケイ - ウィキペディア
アラン・ケイ - IT用語辞典
Alan Kay - はてなダイヤリー
Viewpoints Research Institute - 企業サイト
アラン・ケイが描くパソコンの未来像(前編) | (後編) - ITpro


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編集部:関口哲司
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