福田正博 フットボール原論

来年の東京五輪に向かって、さまざまなスポーツが活気づいてきている。サッカーの場合はA代表のプライオリティが高く、今回は予選がないこともあって五輪代表がメディアで取り上げられる機会は少ないが、着実に力を伸ばしている。その五輪代表世代を福田正博氏が解説。とくに注目すべき選手は?

 五輪世代は3月に『AFC U−23選手権一次予選』に出場し、マカオ、東ティモール、ミャンマーと対戦。3試合の総得点21点、無失点で相手を封じて3戦全勝で終えた。

 このU−23アジア選手権の本戦は、2020年3月にタイで開催され、日本を除いた上位3チームには東京五輪への出場権が与えられる。日本五輪代表は予選を戦う必要はないものの、チーム力を高めていくには、実戦の緊張感が味わえる大切な試合でもある。1年後の本戦に向けて、これからどんなチームになっていくのか楽しみだ。

 今回の東京五輪の代表候補選手を見渡したときに、もっとも気になる選手は、やはり久保建英(FC東京)だ。昨年まではまだ体の線が細く、当たりの弱さも目についた。バルセロナ育ちの話題性が先行した感もあったが、今季は注目度に見合うプレーをしている。


年代別代表のほか、A代表入りの可能性もあり、動向に注目が集まっている久保建英

 久保の今季のJリーグでのプレーなら、いつ日本代表に招集されても不思議ではないほどだ。これはフィジカルのたくましさが増したことで、持ち前の技術力や視野の広さ、優れた判断力を存分に発揮できるようになったからだろう。

 話題性も考えてA代表に招集したくなるところだが、すぐにそれはしないのが森保一監督のマネジメント能力の高さと言える。A代表に招集してさらに注目を浴びてしまうよりも、久保がもっと大きく成長していくために、自らの課題に向き合えるリーグ戦や五輪代表に専念させたいと考えているのではないか。

 こうした配慮は、育成年代の選手を預かる監督にとって重要な役割でもある。ユース年代の選手がどんなに才能豊かだとしても、彼らにはまだまだ獲得しなければならないスキルがたくさんあって、そのためのトレーニングを優先させなければいけないからだ。

 たとえば、リオネル・メッシ(バルセロナ)は17歳でトップチームデビューをしたが、成長途上の彼を守るためにバルセロナは必死に彼をガードした。メッシだけではなく、アレッサンドロ・デルピエロなども、同じように10代の頃はクラブから守られていた。これは、その年代でトレーニングに専念できる環境をつくらなければ、成長がそこで止まってしまう危険性を孕んでいるということ。こうした対応こそが、プロの世界では当たり前のことでもある。

 その点でサガン鳥栖のルイス・カレーラス監督にはひとつ注文がある。今季の鳥栖は開幕から苦戦が続いているが、先日の日本代表メンバーの発表前に「松岡大起を日本代表に推薦したい」と、メディアに対してリップサービスの発言をした。

 直近の試合でスタメン起用していることからも、17歳の松岡の才能を買っていることはわかる。だが、あのタイミングでの発言は、監督の保身とも受け取れてしまう。松岡を話題にすることで、連敗しているチーム状況から目を逸らせようとしていると見られてしまいかねない。松岡が才能あふれる選手なのは間違いないだけに、大切に育ててほしい。

 10代の若い選手が活躍するとメディアは注目する。しかし、どれだけ試合で活躍したとしても、クラブは彼らがトレーニングに専念できる環境を守るべきだ。彼らがピッチの外でちやほやされるのは、真の実力を身につけてからでいい。

 今回の五輪世代には、すでにA代表でレギュラーになっている堂安律(フローニンゲン)と冨安健洋(シント・トロイデン)がいる。森保監督が就任直後から、ふたりを抜擢した理由は、その才能を評価していることに加え、五輪代表の攻守の軸としてチームを引っ張る存在になってもらいたいからだろう。

 両選手のほかにも、海外クラブでプレーする選手がいるのも今回の五輪代表の特徴だ。伊藤達哉は、ドイツ2部のハンブルガーSVでコンスタントに試合出場を重ねている。DFや守備的MFでプレーする板倉滉はオランダのフローニンゲン、左利きの守備的MFの中山雄太も同じくオランダのズヴォレに所属する。両選手ともに今年から移籍したこともあって出場機会はあまり得られていないものの、海外での経験が生きる日は必ず来るはずだ。

 また、ディフェンシブなポジションに能力の高いタレントが揃っているのも、東京五輪世代の特徴だ。なかでもCBは、今後の日本代表の課題を解消できる人材にあふれている。W杯ロシア大会でベルギーの高さに屈した日本代表にとって、GKを含めた大型化は不可欠な要素だが、冨安が188cm、板倉が186cm。さらに、立田悠悟(清水エスパルス)は191cm、町田浩樹(鹿島アントラーズ)も190cmある。184cmの大南拓磨(ジュビロ磐田)が小さく感じるほどだ。

 昨シーズン、清水でSBとしてもプレーしていた立田にはスピードもあり、町田はレギュラーとしてリーグ戦に加え、ACLでも経験を重ねている。大南も空中戦に強く、スピードがある。彼らが高いレベルで五輪代表CBの座を争い、それがA代表にも波及する日は遠くないはずだ。

 右SBでは原輝綺(サガン鳥栖)がおもしろい存在になっている。市立船橋や各年代代表でCBやボランチとしてもプレーしてきたが、今季から加入した鳥栖で右SBにコンバートされてハマった。CBで磨いてきた対人プレーの強さや危機察知力に加え、アジリティーやスプリント力が生きるようになっている。

 左SBや左MFには原と市船高時代にCBコンビを組んだ杉岡大暉(湘南ベルマーレ)もいて、守備的MFには湘南でチームメートの齊藤未月や松本泰志(サンフレッチェ広島)がいる。さらに中山がいて、板倉もこのポジションができる。多くの選手が複数のポジションをつとめることができるのも、東京五輪世代の強みだ。

 これまでMFに才能ある選手が数多く育つ土壌だった日本に、CBにも才能が育ってきたのは、日本代表の課題を意識した育成年代の指導者たちの取り組みの成果でもある。

 堂安や久保がいる中盤の攻撃的なポジションには、三好康児(横浜F・マリノス)、安部裕葵(鹿島)、遠藤渓太(横浜FM)、岩崎悠人(コンサドーレ札幌)、伊藤など多士済々だが、FWはパンチが弱いのが率直な印象だ。前田大然(松本山雅)にはスピードという確固たる武器があるが、他の選手には海外の屈強な大型DFと対峙したときに、何を武器にするのかが見えてこない。Jリーグで武器を磨きながら、成長していってもらいたい。

 彼ら東京五輪世代には、2020年夏を過ぎたら、A代表でのレギュラー取りが待っている。そこに向けて、これからの1年半で森保監督のもと東京五輪を目指しながら、飛躍的な成長を期待したい。