世界中からオーダーが殺到している新型「マカン」(写真:ポルシェ ジャパン)

12月19日、ポルシェ ジャパンは新型「マカン」の国内発表を行い、2019年夏から全国の正規販売店にて発売すると明らかにした。2013年秋に東京とロサンゼルスという太平洋をまたいだ2つのモーターショーでほぼ同時に発表された新型マカンは、世界のミドルクラスSUV市場の爆発的な拡大を背景に大ブレークを果たし、2017年実績でもポルシェのグローバル販売の実に4割近くを占める重要な存在である。日本でも、やはり販売全体の3割がこのマカン。ますます力が入っていることは想像に難くない。

充実の標準装備もベース価格は据え置き

実際、今回発表されたベースモデルでは、従来オプションだった歩行者検知機能付きアダプティブクルーズコントロール、車線変更時に斜め後方の他車の存在を知らせるレーンチェンジアシスト、サラウンドビュー付きパークアシストといった日本での装着率の高かった装備を標準装備としながら、699万円のベース価格を据え置きとしている点が注目である。


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ポルシェと言えば「車両価格はあくまですっぴんの状態。必要なオプションを積み上げていったら、あっという間に車両価格の100万円にも200万円にもなってしまう」というのが定説だっただけに、この変更は大いに目を引く。実際、金額換算すると10数パーセント、買い得になっているという。

クルマ自体も確実に進化している。筆者はすでに11月にスペインで開催されたプレス向けの国際試乗会でそのステアリングを握っているが、走りの面では、サスペンションの改良によってハンドリング性能としては軽快感を高めながら、一方で快適性も向上。また、10.9インチのワイドなタッチスクリーンを用いたPCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメント)の採用による先進感あるインフォテイメント、忘れてはいけない左右テールランプ間をLEDストリップでつないだ最新のポルシェ車に共通の新デザインの採用によるリフレッシュされた外観など、見どころは多い。

世界中からオーダーが殺到していることもあり、当初2019年春ごろと言われていた納車予定が夏にずれ込んでいるのがマイナス材料ではある。それでも引き続きマカンがポルシェの国内販売を牽引する存在となるのは間違いない。

そう書くと、古くからのポルシェファンの中には、若干の不安を覚える人もいるかもしれない。実はポルシェ ジャパンの販売車種ミックスは世界の中でも突出して2ドアスポーツカーの割合が多いことで知られている。年間販売約7000台のうち「911」「718」といったモデルが実に4割をも占めているのだ。

SUVが9割とも言われる新興国と比較してはもちろん、多くの成熟国の中でもこの割合は非常に高い。古くからポルシェが正規輸入されていたこと含め、スポーツカー文化がそれなりに根付いているという素地が、その背景にあるのは間違いないだろう。

それだけにSUVの販売が増えることは、ブランドとしては危うさも内包している。有り体に言えば現状は“スポーツカーメーカーであるポルシェのSUV”だからこそ支持されている部分は小さくなく、もしポルシェの認知がSUVメーカーになったら、SUVとしてのブランド力は下がりかねず、さらに古くからの、あるいは熱心なスポーツカーファンの気持ちも離れていってしまうだろう。


もしポルシェの認知がSUVメーカーになったら…?(写真:ポルシェ ジャパン)

よってポルシェにとっては、SUVを売るためにはスポーツカーも同じくらい、いやそれ以上に力を入れて売っていく必要がある。でも、どうやって?

ポルシェ・エクスペリエンス・センターの開設

実は今回のマカンの発表会では、それに対する回答となりうる実に興味深く、壮大なプロジェクトが披露された。2021年に、千葉県木更津市に「ポルシェ・エクスペリエンス・センター」を開設することが正式に明らかにされたのである。

ポルシェ・エクスペリエンス・センターとは、ユーザーや購入希望者をターゲットとした言わばブランド体験施設。テスト用のサーキットを筆頭に、ドリフトやスラローム用、低μ路面など運転トレーニング用にオフロードといった各種コース、メカニック研修施設、ミュージアム、さらにはレストランなどを備えたもので、すでにドイツ、アメリカの2カ所、フランス、イギリス、中国にオープンしている。


ポルシェ・エクスペリエンス・センターの存在はスポーツカーを手に入れる動機となりうる(写真:ポルシェ ジャパン)

最近のスポーツカーは高性能化が進んでいることもあり、なおのこと「スポーツカーを手に入れても、それらしく走らせる場所がない」という声は大きい。ポルシェ・エクスペリエンス・センターは、そうした不満に応え、スポーツカーの可能性を広げるものと言えるだろう。単にコースがあるだけではなく、インストラクターが常駐し、メインテナンスの心配もいらず、ホスピタリティーも充実していて、何よりポルシェのファンしかいない空間。言わばサロンの存在は、たとえばゴルフ、乗馬などのように週末の趣味としてのポルシェを所有する歓びを高めるものとなる。端的に言えば、スポーツカーを手に入れる動機となりうる。

場所は千葉県木更津市伊豆島。館山自動車道の木更津北IC至近で、東京湾アクアラインのおかげで都心からのアクセス性は抜群のこの場所に建設される世界8番目となる予定のポルシェ・エクスペリエンス・センターは、土地面積約44ヘクタールと何とロサンゼルスのそれをしのぐ規模になるという。

ポルシェ ジャパンの戦略と未来

ポルシェ ジャパンではさらに、2019年に5つの正規販売店を新たにオープンするなど拡販に向けての体制も着々と整備を進めている。SUVの販売を拡大するのはもちろん、そのために2ドアスポーツカーについても存分に楽しめる環境を整え、そして同様にファンを拡大していこうというわけだ。

正直に言えば筆者自身がかつては、日本でのポルシェの販売台数を追う戦略、あるいはSUV拡販の路線を懐疑的な目で見ていた。かつてのようにSUVはある程度、絞ってもいいのではないかとも思っていたが、しかしながら今はこの戦略にこそ未来があると考えている。


新型マカンの後ろ姿(写真:ポルシェ ジャパン)

年間約7000台を販売する日本は、現時点ではポルシェにとって全世界で6番目の市場に位置づけられる。この販売規模がより拡大すれば、日本の発言力は大きくなり、価格や装備の充実、納期の短縮などにつながり、またつねに供給が追いつかない限定販売のスポーツカーの割当などにも有利に働くかもしれない。そして何より、ポルシェ・エクスペリエンス・センターが開設されるようなうれしいことも起こりうるのだから。

2020年には初の電気自動車となる「タイカン」の導入も控えているなど、ポルシェ周辺にはダイナミックな話題があふれている。新型マカンを引き金に2019年もアグレッシブに攻めていきそうなポルシェ ジャパンの戦略に期待したい。