JR西日本が「ICOCA」利用者向けにポイントサービスを開始。あわせて「PiTaPa」でのポストペイサービスも導入します。これまで高い割引率で好評だった「昼間特割きっぷ」に代わるサービスもあり、注目を集めています。

付与されるポイントは3種類

 JR西日本が、交通系ICカード「ICOCA」の利用者に向けた新たなサービス「ICOCAポイントサービス」を、2018年10月1日(月)に開始します。


JR西日本が発行する交通系ICカード「ICOCA」。描かれているキャラクターは「カモノハシのイコちゃん」(2018年9月、伊原 薫撮影)。

 このサービスは、ICOCAを使って列車に乗車したり、買い物をしたりすることでポイントが貯まるというものです。具体的には次の3種類が用意されます。

(1)毎月1日から末日までのあいだに、同じ運賃区間を11回以上利用すると、11回目以降の1回ごとに運賃の10%分のポイントが貯まる「利用回数ポイント」。
(2)毎月1日から末日までのあいだに、特定の時間帯(平日10時〜17時に入場または出場、ないし土休日)・区間を4回以上利用すると、4回目以降の1回ごとに運賃の30%または50%分のポイントが貯まる「時間帯指定ポイント」。
(3)一部のICOCA加盟店で、買い物や食事、サービスの支払いにICOCAを使うと、その利用額に応じて貯まる「電子マネーポイント」。

 この中で、注目を集めているのが(2)の「時間帯指定ポイント」。というのも、4回目以降からもらえるポイントがかなりの高率になっているのです。例えば、大阪〜三ノ宮間(大人運賃410円)を5回利用した場合は、4回目以降の2回について、50%である205ポイント(2回分なので計410ポイント)が貯まります。この区間を毎週1往復する人なら、1か月(4往復)あたり1025ポイント。1ポイント=1円として使えるので、これだけで大阪〜三ノ宮間を1往復してお釣りが来るだけのポイントをゲットできる計算になります。

 全国的にも珍しい、かなり“大盤振る舞い”のこのポイントサービスは、実はJR西日本がこれまで販売していた、あるきっぷの廃止と密接に関わっているのです。

私鉄との競争で生まれた「昼間特割きっぷ」

 JR西日本のメインエリアである京阪神地区は、古くから“私鉄王国”といわれてきました。国鉄の超特急「つばめ」を追い抜いたという伝説をもつ阪急電鉄や、車内にテレビを設置した京阪電鉄など、各私鉄がスピードや座席、サービスなどで国鉄を凌駕(りょうが)。加えて国鉄は昭和50年代ごろから相次ぐ値上げを行ったため、運賃だけを見ても大きな差がついてしまいました。

 そこで、国鉄は1980年前後にふたつの大きな対抗策を講じます。ひとつは、車内設備を大幅にグレードアップさせた新快速用車両117系の導入。そしてもうひとつが「昼間特割きっぷ」と呼ばれる格安回数乗車券の発売です。


「昼間特割きっぷ」の発売終了などを告知する駅のポスター(2018年9月、伊原 薫撮影)。

「ICOCAポイント」の利用登録は駅の券売機やウェブで受け付けている(2018年9月、伊原 薫撮影)。


 この「昼間特割きっぷ」は、利用できる時間帯は平日昼間と土休日限定、販売区間は京都、大阪、三ノ宮、宝塚などの各駅から、私鉄と競合する区間を中心に設定されていました。つまり、最初から私鉄に対抗するために企画されたきっぷと言えます。

 それまで国鉄で販売されていた一般的な回数乗車券は、10回分の料金で11回乗車できる(約10%割引)というものですが、「昼間特割きっぷ」はこれよりはるかに割引率が高く、20〜40%ほどの設定。これを使えば、私鉄並みの運賃で国鉄に乗れることから、利用者のあいだで瞬く間に大好評となりました。

 もちろん、私鉄側も黙って見ているだけではありません。各私鉄でも、時差回数券(オフピークチケット)や土休日回数券など、同様のきっぷを発売して対抗。さらに、これまで特急が通過していた駅にも停車させるなど、サービス向上にも努めました。JR対私鉄の競争は、いまも続いています。

「ICOCAポイントサービス」で使い勝手は向上

「昼間特割きっぷ」は、2015年には、それまでの12枚セットから6枚セットに変更されるとともに、価格や設定区間を見直すなどの改定が行われたものの、販売は継続されていました。ところが、2017年9月に「昼間特割きっぷ」を2018年9月で廃止することがアナウンスされ、同時にICOCA利用者へのポイントサービスを導入すると発表されました。つまり、今回始まる「時間帯指定ポイント」は、この「昼間特割きっぷ」の代替サービスということになります。


2018年9月30日をもって発売を終了する「昼間特割きっぷ」(2018年9月、伊原 薫撮影)。

 これまで「昼間特割きっぷ」を使っていた人たちにとっては、「時間帯指定ポイント」は割引率が低くなる場合があり、お得感は少ないものの、事前にきっぷを購入する必要がなくなります。さらに、乗車回数によって自動的に割引されるため、何種類もの回数券を持ち歩く必要もなくなり、使い勝手は格段に向上することでしょう。関西では、昼間特割きっぷを1枚単位でばら売りしている金券ショップや自動販売機が多くありますが、その今後にも影響が生じそうです。

 これに加えて、JR西日本では2018年10月から交通系ICカード「PiTaPa」によるポストペイサービスも開始します。関西の私鉄事業者を中心に展開している「PiTaPa」は、1か月の乗車料金をまとめてクレジットカードで後払いするポストペイ方式を採用していますが、これまでJR西日本など他の交通系ICカードエリアではポストペイ方式での支払いはできず、他のICカードと同様にあらかじめチャージする必要がありました。JR西日本がポストペイサービスを導入することで、JR西日本のICカードサービスエリアではチャージ金額がなくても、関西の私鉄と同様に乗車することができるようになります。

 さらに、JR西日本で「PiTaPa」のポストペイサービスを利用した際には、先に紹介した「ICOCAポイントサービス」と同等のポイントが、1ポイント=1円として支払い時に割引されることになります。

 2003(平成15)年にICOCAが登場してから今年でちょうど15年。新たなサービスの今後に期待したいところです。

【写真】「ICOCAポイント」開始を告知する駅ポスター


「ICOCAポイントサービス」と「PiTaPaポストペイサービス」の開始を告知する駅のポスター(2018年9月、伊原 薫撮影)。