夏は子どもの非行が増えるという

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 元千葉県警上席少年補導専門員として、青少年の非行問題に数多く携わってきた少年問題アナリストの上條理恵さんが、犯罪に巻き込まれた子どもたちの事情や悩みなど、その実態を解説します。今回のテーマは「夏の非行」です。

警察の少年係は秋が忙しい

 警察の少年係が1年で特に忙しい季節をご存じでしょうか。それは「秋」です。特に、9〜10月は保護者や学校の先生からの相談が相次ぎ、多忙を極めます。

 なぜ、この時期が忙しいのかというと、子どもたちが「夏休みに羽目を外したツケ」が回ってくるからです。新学期が始まって先生に相談することで、夏休み期間中の事件が明るみになったり、妊娠検査薬の陽性反応が出たり……。そうしたことが9〜10月に起きるわけです。

「地元」の人間関係に注意

「夏休みは子どもが非行に走りやすい」というのは、多くの方が何となくイメージされているかと思います。

 実際に夏休み中は、未成年が事件を起こしたり、巻き込まれたりする機会が増えるのですが、その背景にあるのは人間関係の変化や広がりです。

 学期中、ほとんどの子どもたちは教室と自宅を往復する毎日で、限られた人間関係の中で生きています。ところが、夏休みに行動パターンが変わったり、行動範囲が広がったりすることで、普段とは接する人が変わり、トラブルに巻き込まれる機会が増えるのです。

 そうした意味でも、注意が必要なのは「遠く」よりも「近場」での人間関係の変化です。

 親御さんの中には、「夏休みに友達同士で渋谷に遊びに行く」と言われたら警戒しても、「友達と地元のお祭りに行ってくる」と言われたら、「せっかくの夏休みだし、そのくらいはいいか」と、ハードルが下がる人が多いのではないでしょうか。

 ところが、実は「地元での出会い」の方が後々厄介なのです。例えば、地方や郊外から渋谷の繁華街へ行って、ナンパされたり、ドラッグに誘われたりしたとしても、「マズイ」「危ない人だ」と思えば、その人間との関係を「切る」ことができます。地元に帰れば会うことはないし、連絡先を交換したとしてもブロックしてしまえばよいからです。

 一方、地元で知り合った人間は、知り合いの知り合いだったり、学校の先輩だったりして、断りたくてもそう簡単に関係を断ち切ることができません。日頃の人間関係にも何らかの影響を及ぼす可能性があり、犯罪行為に誘われても強く拒絶できない場合が多いのです。

 例えば、1学期まで真面目な生徒だった15歳の男子生徒が、地元のお祭りで会った先輩に「金を盗って来いよ」と言われて引くに引けなくなり、下級生からお金を巻き上げたケースがあります。彼は、その後も窃盗などの行為を繰り返すようになってしまいました。

 今後付き合うこともない相手であれば、「興味ない」「自分はそういうことはしない」とはっきり断ることができても、地元の先輩だったりすると「断れない」「断ったら怖い」「ダサいと思われたくない」などの気持ちから、悪い事だと分かりつつ、断り切れない子どもが少なくありません。

 ほんの出来事心や虚栄心で恐喝や万引きなどに手を出した結果、“悪仲間”に足を踏み入れることになり、簡単には抜け出せなくなってしまうのです。

ひと夏の恋で妊娠

 万引きや暴力といった犯罪行為も問題ですが、未成年の人間関係の変化で避けて通れないのが、やはり「性」にまつわる問題でしょう。特に女子の場合、心身や将来に大きく関わることだからです。

 高校1年生のミナ(15歳、仮名)は、「友達の男子に襲われた」と泣きながら私のところに相談にやって来ました。

 3月まで同じ中学だった男子生徒と地元のお祭りで再会。LINEを交換してやり取りするうちに一緒に遊ぶようになり、自室に招いた結果、押し倒されたというのです。

 正直なところ、年頃の男子と仲良くLINEのやり取りをして、ベッドのある部屋で2人きりになったら、ある瞬間から「そういうこと」になると分かりそうなものだと思うのですが、ミナにとってはどうやら本当に想定外の出来事だったようです。「付き合っていない」「友達だと思っていたのに」と泣きながら訴え続けていました。

 男子生徒はミナの抵抗を受け、おとなしく引き下がったため、“未遂”で終わったそうです。ミナには、同世代の男子の性欲や、閉じた空間で異性と2人きりになることのリスクについて、ゆっくりと教えさとすことになりました。

 実は、ミナのように性に無防備な女子生徒は珍しくありません。私は、学校に招かれ、10代の学生を相手に性について講演をしたり、相談を受けたりする機会も多いのですが、「自分が受けるリスクを理解できていない」女子が非常に多いことを実感しています。

 その結果、実際に妊娠してしまうケースもあります。

 ユウコ(17歳、仮名)は、夏祭りで「浴衣姿がかわいい」と声をかけてきた大学生と恋に落ち、新学期が始まって少ししてから妊娠が判明しました。

 当初は「まさかこんなことになるとは思わなかった」「どうしよう」と繰り返すばかりでしたが、勇気を出して親に説明し、その後、教師や相手家族と話し合いを重ねた結果、出産を決意。相手の学生も大学を中退し、2人で家庭を築く道を選びました。

 今は、かわいい女の子の子育てを頑張っています。若くして懸命に子育てをする彼女は本当に立派ですが、せっかく進学した学校を中退し、教師になりたいという夢を諦めたこともまた事実です。

取り返しのつかない事態を防ぐために

 保護者の方には、「子どもが今、どんな人と関わっているのか」に気を配っていただきたいと思います。どこに行くのか、何時に帰ってくるのかも大切ですが、何よりも大切なのが「誰と」です。「塾へ行っているから安心」ではなく、「塾でどんな友達と関わっているのか」に関心を持ってください。子どもは大人以上に、良くも悪くも人間関係の影響を受けやすいからです。

 子どもの行動を1から10まで把握して「管理」しようとする必要はありません。そんなことをすると、子どもは反抗して、親に隠し事をするようになるため、逆効果です。無理に聞き出そうとしたり、急に改まって話したりするのも、子どもが構えてしまうのでやめましょう。

 日頃から、何気ない会話の中で、「今日はどんなことをしたの?」「誰とLINEしてるの?」などと話しかけることが大切です。普段から子どもの様子を見ていれば、「あれ? 何かおかしいな」と、ちょっとした変化にも気付くはずです。

 もし何か気になることがあっても、頭ごなしに子どもの考えや行動を否定するのではなく、いったん「待つ」姿勢を見せましょう。そうしたコミュニケーションの積み重ねによって、子どもが「親に相談してみよう」という選択をしやすくなり、いざという時の危機回避につながるのです。

 ちょっとした好奇心や出会いが、子どもの将来を大きく変えてしまうことがあります。しかし、子どもたち本人がそれを実感して理解するのは難しいことです。だからこそ、日常的な家族のコミュニケーションが大切なのです。