習志野vs西武台千葉

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最速148キロ右腕・神野竜速(西武台千葉)の課題 古谷拓郎(習志野)のすごみ

 7月22日。千葉県野球場は改修前最後の試合を迎えた。この試合は習志野が登場。さらに日曜日ということもあって、千葉県野球場は内野席だけではなく、外野席もぎっしり埋まった。この試合で注目したいのは、習志野と対する西武台千葉のエース・神野竜速である。神野は今年の千葉県では最速となる148キロを計測する、

 今回のテーマは神野は高卒プロにいけるだけの実力が備わった投手であるか?習志野は神野の現状の能力を知るには格好の相手である。それはなぜか。習志野は徹底的に相手の弱点を探し出し、持ち味を発揮させない野球をするチームだからだ。また、習志野の応援団の応援に屈せず、平常心でプレーできる人間的な強さがあるか。しかし神野は習志野の試合巧者ぶりに呑まれ、自分のピッチングができずに苦しんだ。

まずストレートのスピードは掛け値なしに速かった。右スリークォーターから投げ込む直球は常時140キロ〜145キロを計測。もう少し神野が出した球速を紹介したい。

ストレート 38球145キロ 1球142キロ 8球140キロ 17球138キロ 5球136キロ 3球135キロ 3球133キロ 1球今年の千葉県の高校3年生右腕で神野以上の球速を叩きだした投手はいない。平均球速139.39は、島 孝明(東海大市原望洋-現千葉ロッテ)が日大習志野戦で計測した平均スピードは143.03キロ(5イニング)に迫るほど。

  強く腕が振れる投手であり、ストレートに関してはドラフト級だといえる。しかしこのストレートがことごとく当てられた。その理由は踏み込み足が開くのが早く、リリース時で見やすい形となっていること。そしてスライダーの精度が良くなかったことだ。

 神野の投球を振り返ると、直球の次に多いのが、120キロ前後のスライダーだ。神野にとってスライダーでストライクを稼いで、ストレートで打ち取る配球をしたいところだったが、ストライクが全く入らず、ストレートに頼らないといけない。そうなると習志野の打者は狙い球が絞りやすくなるのだ。

 よくプロに行く投手はストライクが取れる変化球が2つあることが絶対だといわれる。神野の場合、スライダーが取れなかった場合の保険となる変化球がない。引き出しが少ないので、習志野からすれば与しやすい投手だといえる。

 初回から一死満塁のピンチを招き、本塁併殺に打ち取ったものの、2回裏、無死一、二塁からバントからの送球ミスで1点を失い、なおも無死三塁から遊ゴロ野選で1点を失い、さらに無死一、三塁から併殺崩れと、なんとタイムリーなしで3点を取られる形に。神野だけではなく、西武台千葉の内野陣もプレッシャーをかけられる形となってしまった。さらに4回裏にも佐藤 将聖(3年)に適時二塁打、3番柏木貞治(3年)にも適時二塁打を浴び、この回も3失点。4回まで6失点と悔しい結果に終わった。

   ストレートのスピードは十分だが、スライダーピッチャーに陥りやすい引き出しが少ないピッチングとなってしまった。110キロ台のカーブも決して悪くなかっただけに、もう少し自分の持ち味を引き出せればよかったが、すべては1番打者・根本翔吾(2年)にヒットを打たれてからリズムが悪くなってしまった感がある。そういう意味で習志野の攻撃は実にいやらしかった。

 これほど嫌な相手に投げたのも、大観衆の中で投げたのも初めてだろう。神野にとっては苦い経験になったと思う。だけれど、次のステージで間違いなく生きる経験だったはずだ。

 その後、6回表、二死二塁から坂入 崇仁(3年)の適時二塁打で1点を返すが、その裏に2点を入れられ、9対1に。

 7回表、習志野は3番手に古谷 拓郎(3年)を送る。古谷は安定感抜群のピッチングだった。ストレートはわずか3球だけだったが、142キロが2球、143キロが1球。いずれも回転数が高い抜群のストレート。古谷は投球フォームが実に良い。左足をバランスよく上げてから、内回りの旋回からトップを作り打者寄りでリリースするフォーム。球持ちが良く、打者の手元まで生きたストレートを投げることができる。この日はスライダーの割合が少なかったがストライクが取れて、さらに100キロ前後のカーブはうまくブレーキが利いており、最後の打者に対してもカーブで空振り三振に打ち取り、試合終了。習志野が7回コールド勝ちで準決勝進出を決めた。

 古谷のピッチングは全国の舞台でも十分に渡り合えるピッチングだった。引き出しの豊富さは名門校で揉まれただけはある。それでいて、技に走りすぎず、ストレートの切れも素晴らしく、まだ線も細いので、しっかりと体ができれば、150キロ前後まで速くなる奥行きの良さを実感させる。そういう意味では千葉県でいえば、上沢 直之 (専大松戸‐北海道日本ハム)や唐川 侑己(成田‐千葉ロッテ)のような系統を歩むタイプになるのではないだろうか。

 準決勝以降でもさらに凄みのあるピッチングを見せてくれるのか注目したい。

(文=河嶋 宗一)