エレファントカシマシ宮本浩次「4人で報われる…そう思える時期がようやく来た」

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今春まで怒涛の30周年イヤーを過ごし、31年目のスタートとしてニューアルバム『Wake Up』を6月にリリースしたエレファントカシマシ。現在、Zeppを中心としたLIVE HOUSE TOUR「エレファントカシマシ TOUR 2018 "WAKE UP!!”」を敢行している彼らだが、その怒涛の30周年イヤーとニューアルバム『Wake Up』について宮本浩次に聞いた。

―アルバムの話の前に、30周年イヤーを振り返らせてください。怒濤の30周年イヤーだったと思いますが、紅白歌合戦の初出場は、バンドにとっても特別な出来事だったと思いますし、ヴォーカリストとしてああした晴れの舞台で歌ったことはかなり貴重な経験になったのではないですか?

宮本:紅白歌合戦もちろん最高でした。今でも出られて本当に良かったなって思っていますし、しかもバンド30周年のタイミングで紅白歌合戦の舞台で「今宵の月のように」という俺たちの代表曲を高らかに歌い上げることができたのは、歌手冥利に尽きます。でも、それだけじゃなくて、個人的にもなんだかとっても感慨深かったんです。NHKって、僕の中で結構馴染みがあって。僕は小学生の頃、NHK東京児童合唱団に入っていて、夏休みなんか冷房のない満員の赤羽線と山手線乗り継いで毎日NHKに通っていたんです。小学校2年から5年くらいまで。発表会があるから夏休みの間は毎日通い、しかも8時間くらい練習するわけです。だからNHK放送センターにしょっちゅう行ってた印象があるし、NHKの食堂で合唱団の仲間とラーメンを食べたりしてたなぁ。あと、子供だから広いNHKの中を勝手に探検してましたね。今より厳しくなかったので。

―昭和ってそういう時代でしたよね。

宮本:そうなんです。あと、今回のアルバムに収録されている「風と共に」は、NHKの『みんなのうた』に選ばれたわけだけど、『みんなのうた』で初めて歌ったのは合唱団に居た時で、今から40年ぐらい前の「はじめての僕デス」っていう曲なんです。その曲は僕のソロだったんですが、実はそれ以外でもいろんな歌の後ろで合唱団の一員として歌っていたんです。そういえば……死んだお袋が昔『あんたいつか絶対あたしに感謝するわよ』って言っていたなぁ。俺は当時『合唱団なんかやってらんねぇよ』って感じで。ピアノとか合唱とか男の子がやっているのってダサいって思っていたんです。

―なんとなくわかります。

宮本:でも実際は、学校の思い出より、音楽の思い出のほうが多い人生だったわけです。高校の時は修学旅行に行かないでバンドの練習をしていたし、小学校の林間学校も行かないでNHK合唱団の合宿に行ってたんです。だから、紅白はバンドの晴れ舞台なんだけど、個人的な思い入れの場所で”お袋観てるかい?”ぐらいの感じもありましたし、自分の人生の集大成のような感じでしたね。もちろん本番中は意識してなかったですけどね。なにしろ「今宵の月のように」をとちっちゃやばいですから。生放送なので(笑)。

―(笑)。紅白に出たことで宮本さんの音楽人生がひとつ報われた感じだと?

宮本:そうですね。今まで報われてなかったわけじゃないけど、30周年の全国ツアーと紅白歌合戦の二本立てで何かが報われた感じがしています。で、ギターの石ちゃん(石森敏行)に今でも言いますもん。「ほんと紅白歌合戦出られて良かった」って。石ちゃんも出てるんですけどね(笑)。

―(笑)。紅白だけでなく、全国ツアー、さいたまスーパーアリーナ2DAYSもあったし、メディアにもたくさん露出したし、やれることは全部やった30周年アニバーサリーだったと思うんですが、ニューアルバムを作るエネルギーは枯渇しなかったですか?

宮本:それが枯渇してないんですよ。今回思ったのはコンサートってエネルギーを使うばっかりでもなく、チャージする場所でもあるだなぁって。どうしてそう思ったかというと全国ツアーでは「奴隷天国」「コールアンドレスポンス」「今宵の月のように」もやったし、「風と共に」みたいな新しい曲もやったんですけど、全部の曲がみんなに受け入れられて行く様を見ていたら100%自分たちの歴史が肯定されているなって思えたんです。だってあの「奴隷天国」でみんな喜んで、楽しんでくれるわけですよ。あるいは「生命讃歌」で変な踊りしてる人がいたりして。

―そうでしたね。

宮本:「生命讃歌」と「奴隷天国」なんてみんなしーんとしてじっと聴く曲だったんですから。昔から俺たちを撮ってくれてるカメラマンの岡田さんが 「『奴隷天国』の時は怖くてコンサート行けなかった」ってこの間言ってたぐらいなんで。でも、どの曲も30年の歴史の中でひとつの曲としてみんながちゃんと捉えてくれようになったことをステージ上で4人とも感じられたので、コンサートによってどんどん自信を持つことが出来たんです。それって完全にチャージなわけですよ。だから愚痴で「俺もう駄目だ、死んじゃうよ」みたいなこと言っている割にはどんどん曲も歌詞も作ってたんです。

―なるほど。

宮本:あと、「風と共に」や「RESTART」や「今を歌え」といった新しい曲を完成してすぐにコンサートで歌えるのも幸せだったし、疲れてきたなぁって思ったら紅白出場決定しました!ってステージ上で言って、また元気になったり。それから「Easy Go」はTVドラマ『宮本から君へ』の主題歌なんだけど、原作者の新井英樹さんや真利子監督や宮本役の池松壮亮さんもみんなパワフルな元気な素晴らしい人たちで。しかも池松さんもエレファントカシマシのことが大好きらしくて。なんかめげそうな時期になるとそういういいパワフルなネタが来て、それでまた元気になれたし。そういういいサイクルが起こりましたよね。だから、はりきって身体も作らなきゃってなったし、節制もしました。4人ともみんなステージのために自分の身を洗い清める感じで生きていたと思うんです。そんな感じなのでエネルギーの枯渇はなかったですね。

―で、アルバムを作るとなった時に、どんなアルバムを作ろうというコンセプトはありましたか?

宮本:「風と共に」、「今を歌え」、「RESTART」とシングルをどんどん作っていくなかで、初めてのレコード会社4社の枠を超えた30周年30曲3000円のベスト盤をみんなに届ける。初めての47都道府県のホールツアーを絶対に成功させる。30周年イヤーの骨組みはこの二本立てでした。しかもホールツアーに関しては集客面だけではなく体調面も含めて絶対成功させたかった。結果、10万人動員出来たんですけど、初めてですよ、10万人も入ったの。そのツアーを休む暇もなく……だって1週間で2回コンサートやり、そのリハもやって、詞と曲を作り、で、レコーディングをやって……本人としては何がなんだかわけが分かんないわけですよ。自分としてはコンセプトもなにもなくて、なにしろ〆切に間に合わせるってことだけなんです。でも、そうやってがむしゃらにやっていたら、自ずと浮き出てきたのが「RESTART」や「風と共に」なんですよ。その「風と共に」で”チケットなんかいらない 行き先は自由”って歌ってるんです。何のチケットなのかよく分からないんだけど(笑)。

―(笑)。

宮本:それを自らに置き換えると、忙しさの中、みんなからエネルギーをチャージしてもらうという最高のサイクルの中で進んで行くツアーと、どんどん出来てゆくシングル曲…どこに行くかは決めてないけど、その流れに身を任せていればいいのかなって思えましたね。で、今年に入って1月に「Easy Go」が完成して、さぁアルバム・タイトル考えなきゃならないって時に、出来てきた曲を振り返ってみると、自ずとそこにははっきりしたテーマがあるなと感じたんです。で、最初、アルバムタイトルは『RESTART』とか『Easy Go』がいいんじゃないかって思ってたんです。でも、最後に「Wake Up」という曲が3月の初旬に出来て、この曲がこのアルバムのテーマだって思えたんです。「Wake Up」のサビで何度も歌ってる”ゆこう go go go”がこのアルバムのテーマで、傷つくことを怖れている人が自由に目覚める、そのWake Upだったんだと、最後の最後に気がついたんです。

Photo by Motoki Adachi

―確かにアルバムの中では何度となく”行く”や ”ゆこう”という言葉が出てきますから、「Wake Up」がアルバムのコンセプトというは納得です。

宮本:そうなんです。

―言葉で一つ聞きたいことがあるのですが、アルバムの中には”俺”と”オレ”の2つの俺・オレがあります。「神様俺を」では漢字で”俺”。「オレを生きる」ではカタカナで”オレ”。俺とオレの違いは?

宮本:いやぁ、考えてもみなかったですけど……「神様俺を」の”俺”は俺だけじゃないんじゃないかなぁ。男達っていうか、女の子でもいいんだけど、この”俺”は広い俺なんじゃないかなぁと思いますね。

―では”オレ”は?

宮本:「オレを生きる」はこのアルバムの中で歌詞が最後に出来た歌なんですが、この歌は一人称の歌にしたくて”オレオレ”っていっぱい言おうと思ったんです。というのも、11曲目の「いつもの顔で」まででアルバムとしては終わってもよかったんですけど、アルバム全曲を経て最後に出来た歌詞で”結局俺らしく生きるしかないんだぜ”って俺自身が辿り着いたんです。だから「オレを生きる」のオレは宮本浩次のことだと思うんです。

―アルバムの最後に宮本さん自身のことを謳った「オレを生きる」を置いたというのも興味深いですね。

宮本:「オレを生きる」は色んなアプローチができたと思うんですけど、アルバム最後の2曲「いつもの顔で」と「オレを生きる」は純粋にバンドのアレンジで成立しているんです。他の曲たちはアレンジャー・プロデューサーの村山潤の力も大きいし、それこそ「神様俺を」なんかはヒラマミキオ(サポートギタリスト)のギターが相当効いてるわけです。でも最後の2曲は、2013年の急性感音難聴の直後に作った割と古い曲なんで、いろんなアプローチが可能な中で敢えて丸裸じゃないけど4人でやるっていうコンセプトで作った2曲なんです。例えば「Wake Up」や「Easy Go」なんかは前向でやってやるぜっていう歌なんですけど、そうじゃないナイーヴというか荒削りで赤裸々なバンドのサウンドと自分の歌声の曲を最後に1曲入れたかったんです。アルバムのストーリーの締めくくりとして、むしろエンディングだからこそ、曝け出した俺が語っている方がアルバムとしての完成度がより深まるんじゃないかなって思ったので。

―少し虚勢を張ってでも行こう!と叫ぶ俺と、ナイーブで素のオレが混在するからエレカシの歌って信じることが出来るんですが、宮本さん的には前向きな勢いのある曲と、赤裸々な自分の曲と、どっちの方が書きやすい・書きにくいとかはありますか?

宮本:シングル曲「Easy Go」はデビューから30年も経たエレファントカシマシが取り組んでいる夢物語の世界です。もちろん音楽だからそれでいいと思うんですけどね。そもそも俺はエレカシのファーストアルバムが出たら世の中が変わるんじゃないかぐらいに思っていたし、「ガストロンジャー」の後もそう思っていたし、それぐらいの意気込みでアルバムや曲を作ってます。でも曲1曲じゃ世界は変わらないっていうことが分かった上での夢物語の「Easy Go」がみんなに安心感を与えてるって思っているし、これは悪い意味じゃなくて、意識して「Easy Go」は作ってる。パンクのサウンド的に4人でやってるふうに見せて非常に緻密にアレンジされていると思うし、演出されてると思う。でも最後の2曲はそれを経たからできている曲だから、両方大切なんですよ。

―なるほど。

宮本:ちょっと寛いでお酒飲んでいる時の自分、リラックスしてる時の自分って、仕事をしてる自分って違うでしょ? 人間ってその両面があると思うんですよ。だから「オレを生きる」が自分のすべてとは思わないし、もちろん「Easy Go」が俺っていうかエレファントカシマシのすべてもないと思うんです。

―わかります。

宮本:生活も同じですよね。もうヘトヘトに疲れてる時でもやらなければならないことがあれば労働するじゃないですか? もうやりきれないって思って目覚めて、何でこんなことしなきゃいけねぇんだって口では言いながら、ご飯を食べて外に出て歩き出すと太陽が照ってて風が吹いてたりして地下鉄の駅まで行く間に元気になってきて、電車乗ったら段々盛り上がってきて”ゆこう go go go”ってなっていくんですよ。でも、一日が終わる時間になると家に帰ったり呑みに行ったりしてリラックスをする。そのリラックスしてる時が「オレを生きる」であり「いつもの顔で」なんですよね。だからこのアルバムは朝から夜なんですよ。「Wake Up」で起きて「Easy Go」で出かけて、途中「i am hungry」があって……もしかしたら、意識してなかったですけど一日なのかもしれないですね」

―さて、全国ツアーがあって夏フェスがありますけど、夏以降、31年目のエレカシを宮本さん的にはどんな風にしていきたいですか?

宮本:今朝4人でいたんですよ。で、俺がインタビューの取材受けている間、みんな別のところに座ってたんだけど、誰も一言も口聞いてなくてじっとしてて、しかも成ちゃん(ベース・高緑成治)なんか居眠りしてて……それを見て、相当かっこいいなぁと思ったんです。手前味噌になっちゃうけど、この4人でしか出せない空気が絶対にあって、それはやっぱりいいなぁって。4人でいるとみんな緊張してて、その空気感が一番出るのがライブなんだけど、この4人でやるステージや、この4人でしか絶対出せないものをシングルにしたりとか、そういうことが、ついに考えの俎上に乗るところまで30周年を経て来たんじゃないかなって。村山潤とヒラマミキオの入っているエレカシは最高だし、さいたまスーパーアリーナの時のようなストリングスの金原千恵子さんやホーンの山本拓夫さんが入っている18人の派手なエレファントカシマシだって十分なエレファントカシマシなんだけど、この4人で音を出したら面白いんじゃないかなって今朝メンバーを見て思いましたね。


Photo by Motoki Adachi

―今までは思ってなかった?

宮本:METROCKというフェスで「男は行く」をアンコールに演奏したんです。なんの練習もしないで急に。そしたらよかったんですよ。だから、さっきから話題に出ているアルバムの最後の2曲がヒントですよね。「いつもの顔で」と「オレは生きる」は明らかに4人の音が基本だし、「男は行く」をMETROCKでやったら思いの外破壊力があって今までは最高のアレンジャーとして、土方隆行さん、佐久間正英さん、YANAGIMAN、蔦谷好位置さん、亀田誠治さん、今の村山潤さんがいて、さらに今はヒラマミキオさんというギターも加わった最高のメンツでやってるんだけど、もう一歩進んで4人のエレファントカシマシも、6人あるいは18人といったエレカシと4人のエレカシの二刀流なら十分売り物になると思うんです。「悲しみの果て」や「今宵の月のように」の成功例あるからどうしてもそういうサウンドに行きがちだし、いきなり荒削りの「奴隷天国」は売れなかったわけだし(笑)。でも30年かけたら「奴隷天国」もかっこ良くなる。「俺たちの明日」と併存している「奴隷天国」は十分ポップソングスとして届いているわけです。そういうバランスを取ることによって、今回のアルバムに色んな曲が入ってるのと同じように、4人のエレファントカシマシがついに来たかなって思いますね。

―なるほど。

宮本:契約が切れるのだけは絶対に嫌なんですよ。契約切れてあんな悲しい思いだけはしたくない。そうするとどうしてもギリギリのところで売り上げを考えちゃうんです。

―それはそうだと思います

宮本:あんな悲しい思いはないですから。契約が切れたら、バンド辞めちゃうやつも出てくる勢いで…エレカシも危ないところだったんで。でも、新しい事務所が決まって給料20万円くれるっていったら、みんな戻ってきたんです(笑)。

―(笑)。確か、契約が切れている間、メンバーはバイトしてたんですよね?

宮本:みんなバイトしててバンド辞めるって顔してるんだよなぁ。リハーサルにも来ないし。やべぇなってふと見ると、俺とトミ(ドラム・冨永義之)の2人になっちゃってたんで(笑)。まあでもそれも当然だし。ましてやこの年で収入がなくなったらおっかないですからね。

―次はバンドとしても報われますね。

宮本:そうだといいですね。4人で報われる……そう思える時期がようやく来たってことだと思うんです。30周年はドーンと成功したので、次は原点回帰だと思うし、その萌芽がアルバムの最後の2曲にある感じですね。


『Wake Up』
エレファントカシマシ
ユニバーサルシグマ
発売中

エレファントカシマシ オフィシャルHP
http://www.elephantkashimashi.com/