庭や河川敷でのバーベキュー、法的問題は?

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 夏が近づき、アウトドアレジャーが楽しい季節です。自宅の庭や河川敷などで「バーベキュー」をする人も増える時期ですが、近年、バーベキューを巡るトラブルが多発しています。その主な原因として「煙の臭い」「騒音」が挙げられており、特に、住宅街で行うと隣家の洗濯物に煙の臭いが付着するなど、ご近所トラブルにつながることもあります。また、河原や河川敷でバーベキューをする人を見かけることがありますが、騒音やゴミの散乱について住民から苦情が入るケースもあるようです。

 これについて、ネット上では「私有地でマナーを守って楽しむ分にはよい」「布団を干していたら煙の臭いがついて不快だった」「住宅密集地ではやめて」「河原でやる時は、許可が要るのでは?」など、さまざまな声が上がっています。今回は、バーベキューを巡る法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

周辺住民への被害が度を越すと…

Q.住宅街でバーベキューを行うことに法的問題はありますか。

牧野さん「住宅街でバーベキューをすること自体は、自分の家であれば特に許可は要りませんが、周辺住民への被害が度を越すと警察が介入したり、法的責任を追及されたりする場合もあります」

Q.住宅街のバーベキューで騒音や煙などの迷惑をこうむった場合、何らかの法的手段に訴えることはできますか。

牧野さん「騒音や煙、臭いなどの被害を受けた人は、一定の条件を満たせば、騒音や煙、臭いを発生させている人や会社に対して、人格権の侵害を根拠に民事上の不法行為責任を追及することができます。人格権侵害の不法行為責任を追及するためには、被害のレベルが『受忍限度』(我慢すべきレベル)を超えていることが必要です。裁判所は、受忍限度を超えているかどうかの判断基準として、以下の4つを総合的に判断するとしています」

(1)被害の性質:健康被害の有無
(2)程度・態様:騒音の大きさ・時間帯・頻度・継続性(一般常識から大きく外れたものは、受忍限度を超えたと判断される可能性が高くなる)
(3)加害行為の公益性の有無:加害者が病院、学校など公共性を持つかどうか
(4)回避可能性:騒音クレームに対する対応(音に気を付ける)があったかどうか

Q.損害賠償は請求できますか。

牧野さん「騒音や煙、臭いがあまりにもひどく、それが反復・継続される場合であって精神的な病気になってしまった場合、精神的損害に対する損害賠償を請求できる場合がありますが、一回限りの場合など頻度が高くない場合は、一般的に損害賠償請求は難しいと言えます。金額は、裁判例ではせいぜい治療費と10万〜数十万円でしょう。バーベキューの場合、頻度がそれほど高くないので一般に損害賠償請求は難しく、騒音が非常に大きく健康被害があった場合に限られると思われます」

Q.迷惑なバーベキューを法的に止めることはできませんか。

牧野さん「前述の『受忍限度を超えているかどうか』で判断することになるでしょう。裁判例では、エアコンの室外機の騒音について、騒音が50デシベルを超えてはならないという命令が下されたことがあります。カラオケの騒音については、深夜0〜4時にカラオケ装置の使用禁止が命じられた事件もありました。

ちなみに、大阪国際空港の近隣住民が深刻な騒音被害を受けたとして、大阪国際空港の設置・管理者である国に対して人格権を根拠に、夜間(午後9時〜午前7時)の空港使用の差し止め、過去の損害賠償、将来の損害賠償を請求したケースがあります。最高裁は、過去の損害賠償の請求については認めましたが、夜間の空港使用の差し止めと将来の損害賠償は認めませんでした。

マンションなどの集合住宅では、子どもの音やピアノの音がうるさいなどの問題が発生しますが法的手段に訴える前に、あまり感情的にならずにすぐに話し合いを行い、止めてもらうのが現実的な解決だと思います」

河川敷のバーベキューに法的問題は?

Q.河川敷でバーベキューをすることに法的問題はありますか。

牧野さん「公園や河川敷、海浜など公有地でのたき火(バーベキュー)は、自治体などの管理者が禁止していることがあり、この場合、勝手にバーベキューを行うと管理者に注意されます。場所の管理者がバーベキューを認めている場合も、バーベキューは一種のたき火と解釈されるので、以下の法規制があります」

(1)軽犯罪法第1条9号は「相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者を拘留又は科料に処す」と定めているので、バーベキューが認められている場所でも、相当の注意を怠れば軽犯罪法違反となる可能性がある
(2)自然環境保全法は、指定地域におけるたき火行為は原則禁止しており、都市公園法11条4号は「公衆の都市公園の利用に著しい支障を及ぼす怖れのある行為」を禁じています。公園管理者が指定した場所以外でたき火をすると、10万円以下の科料が科されるので要注意
(3)消防法3条は、消火のための準備をしていないたき火を禁止している
(4)その他、地方自治体の条例による規制や、集合住宅地などの管理組合による自主規制がある

Q.バーベキューが認められている区域や施設でも、周辺住民が騒音やゴミの散乱などの迷惑をこうむった場合、何らかの法的手段に訴えることはできますか。

牧野さん「これも受忍限度を超えているかどうかで判断することになりますが、バーベキューは頻度が低く、継続性もない場合が多いので、一般的に損害賠償請求は難しいでしょう。騒音が非常に大きく健康被害があった場合に限られるでしょう」

Q.過去にバーベキューが違法だと認められたケースや、損害賠償が認められたケースはありますか。

牧野さん「バーベキューにより発生する騒音や煙、臭いについて、損害賠償や差し止めが認められた裁判例は公表されていませんが、上階の子どもの騒音や、エアコン室外機からの騒音、カラオケからの騒音、店舗テナント内のライブハウスから発生した騒音、集合住宅内の騒音によるノイローゼ発症については、10万〜数十万円の損害賠償が認められています。一方で、上階のミシンによる騒音、子ども文化センターやスポーツセンターの騒音などは、受忍限度を超えていない(子ども文化センターやスポーツセンターは公共性も考慮された)として請求が棄却されています」