大塚家具の銀座本店。手前がオフィス系で奥にはキッチン系が所狭しと並ぶ。

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「父娘戦争」の行方に注目が集まる「大塚家具」と「匠大塚」。雑誌「プレジデント」では、特集「日本人の給料」(4月2日号)にあわせて、FPの黒田尚子氏の協力を得て、2社のショールームの“抜き打ち検査”を実施した。2社の比較から見えてきた「失敗しない家具選び」のポイントとは――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2018年4月2日号)の掲載記事を再編集したものです。

■家を買うと、6割の女性が家具にこだわるようになる

マイホームの購入は一生に1度の大きな買い物だ。その買い物の実現に向けて資金繰りを考える際、土地や建物代ばかりに目がいってしまうが、忘れてはいけないのが、家具等の住居に必要な耐久消費財である。住宅を購入する費用は考えているのに、そのほかの費用についてはあまり考えていない。税金や手数料、引っ越し費用も必要だ。

これらの諸費用として、新築は購入物件の5〜6%程度、中古は物件価格の7〜10%程度を目安としておくとよい。例えば、4000万円の新築物件なら、諸費用は200万〜240万円。ちょっとした金額だ。実際、住宅ローンだけでは不足し、慌ててフリーローンなどを追加する人もいるくらいだ。

カーディフ生命保険の「住宅購入した未婚男女の意識調査」(2017年)によると、住宅購入後の気持ち・行動の変化について、男性の41.2%、女性の62.3%が「家具・インテリアにこだわるようになった」と回答している。家具や家電等を買う余裕がなくなり、これまで使っていたものや格安家具で我慢する人も多いだろう。これまでのものを引き続き使うつもりだった人たちも、「やっぱり新しいものが欲しい……」となるのではないか。

家具といえば、父娘による経営権争奪という「お家騒動」が、世間の耳目を集めた「大塚家具」が思い浮かぶ。騒動で客が離れたのか、2018年2月には、2期連続の赤字を発表するなど娘・久美子氏の下、業績不振が続いている。

一方、父・勝久氏は、15年7月「匠大塚」を設立。16年6月には、埼玉県春日部市に東京ドームグラウンド面積の約2倍の大規模家具店を出店した。

あの騒動から3年。大塚家具のその後が気になるところではあるし、知人のインテリアコーディネーター曰く「家具を選ぶ際は、カタログなどを眺めているだけでなく、実際にショールームなどに足を運び、家具を選ぶ目を養うことが大切だ」。

そこで、プレジデント誌編集者O氏とともに、2社のショールームに足を運んでみた。その模様をお伝えしたい。

■娘・大塚家具vs父・匠大塚 "抜き打ち検査"

まず訪れたのは、大塚家具の銀座本店。銀座地区の家具・インテリアの専門店としては最大だという。

早速、最上階から順番に見て回る。7階はベッドフロアで、高級ホテルでも採用されているシモンズのベッドがずらり。6階はプレミアムブランド、5階はラグジュアリー・クラシックブランドと、いかにも高級そうな家具・インテリアが並ぶ。IKEAを意識してか、スタイル別に家具がコーディネートされている。しかし個性的な家具が多いせいか、ゴテゴテと詰め込み気味な印象が否めない。値段は、頑張れば手に入りそうな価格帯のものもある。

さらに、4階はシンプルデザイン、3階は北欧や日本の木の家具がスタイリングされている。ようやく「これくらいなら自分の家に置いても違和感ないかも」と、なぜかほっと一安心した。

2階はカーテンやじゅうたん・カーペットなどファブリック類が展示。相談スペースで、何かをオーダーしているのだろうか、年配の男性が担当者と熱心に相談をしていた。

1階は照明器具や小物など。フロアの片隅に、デッキチェアやガーデンテーブルが、押し込められるように置かれているのが、侘しい。銀座の一等地で賃料が高く、なるべく多くの商品を並べたいという気持ちになるのはわかるが、「高級家具の価値観を提示するショールーム」というよりは「いろんなものが効率よく並べられた家具置き場」のようになってしまった印象だ。

訪れたのは、平日の日中ということもあって、人影はまばらで、ちらほら見かける客も銀座という土地柄のせいか、裕福そうなシニア層が多い。

全体的な印象としては、高価格帯から低価格帯までいろいろなブランドが並んでいるが、消費者自身が明確なコンセプトを持っていないと、どれを選んでいいのかわからなくなってしまう。大塚家具で家具選びをするのであれば、プロのインテリアコーディネーターを活用するのがよいだろう。数万円で対応してもらえるはずだ。

続いて訪問したのは、大塚家具の銀座本店から歩いて10分ほどの匠大塚の日本橋ショールーム。オフィスビルの一角にあるため、まずは所定のフロアで受け付けを済ませ、担当者とともに上のフロアに移動する。希望すれば、その担当者がフロアも案内してくれる。

オフィスビルということもあってか、大塚家具の銀座本店以上に人影はない。

しかし、そこには「高級家具かくあるべし」という世界が広がっていた。いかにも高級そうなソファやテーブル、大皿、置物、蒔絵の衝立(オーダー可)、いわゆる昭和の嫁入り三点セットと言われた整理箪笥、衣装箪笥、鏡台などなど。大塚家具のシャンデリアは「これどうやって拭き掃除するんだろう」と思ってしまうようなモダンでおしゃれなデザインのものが多かったのに対して、匠大塚では「ザ・シャンデリア」とでも呼称したくなるような、万人が思い浮かべる高級シャンデリアがこれでもかと並べてあった。

一体、イマドキ誰が買うんだろうと思ってしまう「昭和を感じる品々」も多数あり、「この親父センスを久美子氏は嫌がったのか」などと邪推してしまうが、ブランドが顧客に提案したいイメージは明確で、見て回るだけでも非常に面白い。特徴的なのは、匠大塚ブランドが前面に押し出されているものの、メーカーの名前はよく見ないとわからないぐらいに控えめであったことだ。大塚家具ではブランドが数多く並び「あとはお客様が選んでください」というメッセージを感じたが、そんな陳列とは対照的だ。

■「この家具なら、大したことない家も立派に見えます」

興味深く見学していると、なんと、会長の勝久氏にバッタリ出会った。おずおずと名刺を差し出しつつ「業績はどうですか」と尋ねたところ「先日も(大手高級不動産との)お話がうまくいきました」という返事が。匠大塚の業績は非開示で本当のところはわからない。しかし「多数の日本人の持つインテリアへのあこがれ」を具現化するようなわかりやすい陳列に、多くの経営者や富裕層から一定の支持を得ていくのが確実なように思われた。

家具やインテリア選びのハードルは、費用面だけにとどまらない。それ以上に、どの店で何を購入するかが問題なのだ。気に入ったものを特定の店で買うケースもあるだろうが、品目ごとに店舗を回るのは意外と重労働だし、スタイルが異なり統一感が出ない恐れも。配送料や割引交渉など費用面も考慮すると、ある程度購入する店は絞ったほうが、何かと都合がいい。

ただ、小物やちょっとした家具は、手頃な価格のIKEAやニトリで揃えるにしても、ダイニングテーブルやソファ、ベッドなど、気軽に買い替えしない(できない)家具は、多少値段が高くても良いものを買いたいという人は多い。ディノス・セシールの「家具とライフスタイルに関する意識と実態調査」によると、家具選びにこだわるという人が約7割。そして4人に3人が「家具は多少高くても良いものを長く使いたい」と回答した。

匠大塚の勝久氏との立ち話の最中、「こんな高級な家具を買うんだったら、住宅もそれ相応じゃないとダメですよね」とも尋ねた。すると「いやあ、この家具なら、大したことない家でも立派に見えます」と笑って答えた。

住宅の物件価格が上昇傾向にある今、家具までこだわるというのも大変なことだろうが、まさか、家具が家まで高級に見せてくれるとは。家具選びもなかなか侮れない、と恐れ入った。

(CFP、一級FP技能士、消費生活専門相談員 黒田 尚子)