毎年この時期、つまり2月のキャンプが終わり、オープン戦が始まった頃にスカウトたちに会うと、必ずその年のルーキーや若手選手たちの”品定め”となり、その流れでこれまでのドラフトで取り逃がした”逸材”たちへの思いに話は展開していく。

「あの選手、本当は獲りたかった……」
「こんなに成長するとは思わなかった……」

 そんな中、そうしたスカウトたちとの会話でたびたび登場するのがプロ2年目、横浜DeNAベイスターズの京山将弥。一昨年のドラフトでDeNAから4位指名を受け、近江高(滋賀)から入団した期待の右腕だ。


2年目の飛躍が期待されているDeNAの京山将弥

 京山を獲り逃がしたある球団のスカウトは次のように語る。

「昨年のドラフトもねぇ、柳ヶ浦の田中瑛人(日本ハム3位)とか、霞ヶ浦の遠藤淳志(広島5位)とか……スラッとしていて、腕が長くて、右のオーバーハンド。そういうピッチャーに出会うと『あぁ、京山に似てるなぁ』って、ついつい思い出すんですよ。フラれた彼女のことが忘れられない……そんな心境ですね(笑)」

 また別のある球団のスカウトは無念の表情を浮かべてこう語る。

「僕が決めていいなら、3位で指名していました。場合によっては、2位もありだなと思っていました。個人的な感想ですが、作新学院から西武に1位指名された今井達也より、京山の方が断然上です。腕の振りの速さ、強さが違う。辞表を胸ポケットに忍ばせてでも勝負したいピッチャーでした」

 2016年夏の甲子園での京山の印象は、ある意味鮮烈だった。

 滋賀大会は26イニングで28奪三振を奪い、15安打を許したものの無失点。これだけ圧倒的なピッチングを見せれば、当然、甲子園初戦の常総学院との試合では先発のマウンドに上がるものと思っていたら、別の投手だった。

 その投手が連打されて苦しんでいるのに、京山はブルペンにも出てこない。やっとマウンドに上がったときには、チームはすでに3点を奪われており、しかもブルペンで1球も投げることなくダグアウトから飛び出してきたから驚いた。

 それでも投球練習での京山のボールは、捕手のミットに突き刺さるように力強く、明らかに”モノが違う”と確信した。

 ただ、強力打線が勢いに乗ったところで慌ててマウンドに向かったのだから分が悪い。結局、相手の勢いを止めることができず、6イニングを投げて本塁打を含む10安打、6失点と、甲子園はホロ苦い結果となった。

 それでも京山の能力を高く評価するスカウトは多かった。当時、別のスカウトはこう京山を評価していた。

「タイプでいえば、西口文也(現・西武コーチ)ですね。ボールにキレがあり、とにかく腕の振りが素晴らしい」

 西口といえば、細身の体ながらプロ通算182勝を挙げ、最多勝、奪三振王に輝き、投手の最高栄誉である沢村賞も受賞するなど、一時代を築いた西武の大エースである。

 その西口のように、高校時代の京山も細かった。プロに進んでも一軍で主力になれるのは3年目、もしくは4年目あたり……まずは体力づくりの日々が続くのだろうと勝手に思い込んでいた。

 ところが、京山は1年目からイースタンリーグのローテーション投手として活躍。終わってみれば16試合(99回1/3)に登板し6勝6敗、防御率4.17。”フレッシュオールスター”では1イニングを3人で退け、シーズンオフに行なわれた”アジア・ウインターリーグ・ベースボール”でも決勝戦で2イニングをピシャリと抑えて、先発の大役を果たした。

 正直、1年目からここまでの実戦経験を積めると思ってもみなかった。

 昨シーズン、イースタンリーグでの京山のピッチングを一度だけ見た。巨人相手に6回を投げて2安打、1失点。低めを突ける指先の感覚と球持ちの良さは相変わらず非凡なものを見せてくれたが、この日は「抑えてやろう!」という負けん気の方が前に出てしまい、京山にしては珍しく高めに抜ける球があり、ワイルドピッチまであった。

 それでも、細くて長い右腕から渾身の力で振り抜かれたボールのスピードと運動量は、打者に恐怖心を与えるには十分の迫力があった。その姿、そのボールの軌道は、まさに”西口文也”だ。

 決して150キロ近いスピードが出るわけじゃない。しかし、ボールに角度があって、相手打者を圧倒できる強さがある。堂々とストライクゾーンで勝負できるから、ピッチングの組み立てができる。

 そして2年目の春。2月のキャンプ中盤での韓国プロ野球・ハンファとの練習試合。京山は先発して3イニングを1安打、無失点に抑える好投をみせた。

「スライダーもフォークも、納得のいくボールがなかったんで……あの変化球やったら、日本の打者にはやられます。ランナーを置いたときにサッと追い込めるか……クイックもまだまだですし……」

 反省材料ばかりを並べたところに、京山の成長がうかがえる。「ちょっとやそっとのピッチングでは満足しませんよ」という姿勢をアピールしたかったのかもしれない。

 ある球団関係者は次のように語る。

「同世代で同じようなタイプの綾部翔(あやべ・かける)がいるのが、お互いいい刺激になっていますね。競争しながら、ふたりとも早く出てきてほしい……って言いたいですけど、プロはそこまで”青春ドラマ”じゃないですから。競争は熾烈なものになると思います」

 猛烈な腕の振りを武器に、厳しい競争を勝ち抜くことができるのか。2年目の京山将弥に期待したい。

◆山本昌はDeNAのドラフト1位・東克樹をこんなに高く評価していた>>

◆山本昌はプロ入り前のDeNA京山将弥をどう評価していたか?>>