かっぱえびせんの広告コピー騒動が勃発(カルビーHPより)

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 カルビーのスナック菓子・かっぱえびせんの「やめられない、とまらない!」というキャッチコピーを巡って騒動が起こっている。これまでカルビーは各種メディアで「コピーは(自社の)社員が考えた」等と紹介していたが、このキャッチコピーを考案したとされる広告代理店の元社員・Hさん(80)が、1億5000万円の損害賠償を求めてカルビーを提訴したのだ。

 このニュースが流れるや、ネット上には「広告代理店の社員として考案し、その対価はもらっているのに、カルビーを訴えるのはお門違い」などと批判が溢れている。実際のところ、広告主にとって自社が発注したキャッチコピーの考案者の存在は、どう捉えられているのだろうか。Hさんがかつて勤めていた広告代理店・大広の関係者に話を聞いた。

「よっぽどの有名クリエイターに発注したというのでもなければ、通常広告主が認識しているのは“広告代理店○○に発注した”というところまで。その先で実際に誰が考案したかまでは知らないことのほうが圧倒的に多いですし、正直気にしていません。もっと言えば、広告代理店の担当営業でさえ、知らないこともある。

 というのも、広告案を提案するときは広告代理店のクリエイティブ担当が外注先のブレーンにもアイデアを募り複数案を提示することも多いので、どれが自社の社員オリジナルで、どれが外注先のクリエイター発のアイデアかなど認識していないことも多々あります。それが特にそれが問題だと感じたこともありません」

 ただし、CMの内容をプレスリリースにしたり広告系の雑誌で紹介される時はコピーライターとしてリーダー的な存在の人物の名前を入れるのが慣例となっている。だからこそ、実際にそのコピーを考えたのが制作会社の若手だったり実績のあまりないフリーランスだったとしても、そのリーダー格の人が作った、ということにされる。過去にはこうした慣例を理不尽と感じた若手コピーライターがブログで告発した例もある。

 それでは、広告代理店のコピーライターは、自分が考えたコピーを広告主の社員が考えたかのように言われることについてはどう思うのであろうか。

「そんなの、日常茶飯事ですよ。というか、それが黒子役の広告代理店の仕事だと思っています。依頼をされ、報酬を得て提供しているのだから、最終的にコピーは広告主のものであることは明白ですよね。むしろ、世の中使い捨てのコピーや広告が多い中、そうやって広告主側が“我々のもの”と思ってくれるコピーを生み出せたということに喜びを感じます。Hさんも元広告マンならそんなことは百も承知のはず。怒っているのには、何か別の事情があるんじゃないでしょうか……」(同前)

◆訴訟はお金のためではなく、名誉のためか

 Hさんも、広告代理店を退職した後にもずっと自分の考案したコピーが使われ、世の中にも浸透していることに対して、きっと誇らしかっただろう。ところが、のちに雑誌の記事にコピーの発案者が不明だと記載されているのを目にし、さらには事実とは異なる人物や会社の制作説が飛び交うようになったため、自らカルビーに名乗り出たとのことである。

 そこでカルビーに対し当時の制作関係者の証言を携えて名乗り出たところ、社長との面談が実現。感謝の言葉をかけられ、社内報用の社長とのツーショット撮影までされたのだという。そうなると、Hさんもその気になるのは仕方がない。社内報の完成をさぞや楽しみにしていたことだろう。それなのに、社内報の話は知らぬ間に反故になっていたどころか、その後のテレビ番組や新聞にてカルビーが「このコピーはうちの社員が考えました」と公言したというのだ。

 それで、Hさんの怒りに火がつき「やめられない、とまらない!」と訴訟まで起こす事態になったのかもしれない。前出・大広関係者が語る。

「最大手の電通や博報堂に比べて、世に語り継がれるほどの大きな仕事は大広には多くはありません。だからこそ、Hさんにとっても、同世代の大広のOBにとっても、このコピーは本当に大事なものだったはずです。実際、大広の交友会には毎回大勢のOBが駆けつけて、過去に手掛けた広告の思い出話を嬉しそうに語っていますから、お金目的ではなく、大切な思い出や名誉をかけて訴訟を起こしたのだと思います。高額の賠償金は、世間からの注目を浴びるための仕掛けでしょう。彼も元広告マンですからね」

 Hさんとカルビー社長との面会後に、このコピーの著作権が別の会社に登録されていることが判明したようだが、カルビーとしては面談の前に確認しておくべきだったろうし、百歩譲って後からNGだということがわかったのであっても、その旨を丁寧にHさんに説明すべきであったかもしれない。

「何よりも、自ら会社にアプローチしてくるほど情熱がある人との間で“自然消滅”を狙ったのは、スナック菓子が主流のカルビーにしては、甘すぎたんじゃないですか……」(同前)。