エイチ・アイ・エス(HIS)の創業者、澤田秀雄氏が、ハウステンボスに作った「変なホテル」は、ロボットホテルとして話題を呼び、閑散期でも稼働率80%を超える「生産性の高い」ホテルだ。

1号店の成功で、2017年には浦安やラグーナテンボスにも開業し、国内に3ヵ所とふえ、さらに世界へ展開していく計画だ。『変なホテル』は近未来の人間の働き方や、ロボットの活用を考える上でも面白いヒントを提供してくれる。

「変なホテル」成功で見えてきた未来について、澤田氏本人が詳しく明かした『変な経営論 澤田秀雄インタビュー』から、「ロボット」と「生産性」に関する澤田氏のインタビューを公開しよう。

割り切ったほうが進化は早まる

ビジネスにおいて何より重要なのはスピード感だ。特にテクノロジーについては、よりスピード感が求められる。

例えばロボットが人間の代わりに働く「変なホテル」で考えてみよう。ハウステンボス内に完成した「変なホテル」1号店のオープンは2015年7月だが、「世界一生産性の高いホテル」を目指して、ハウステンボス内に省エネルギーのスマートハウスを作った実験は2013年いっぱいまでかかった。実験からずいぶん短期間でオープンしたことになる。

人間の仕事の9割がたはロボットに置き換えられる。しかし、現時点ではどうしても無理な作業もある。客室のベッドに髪の毛が一本落ちていたり、隅っこに小さな埃が残っていたりすると、気持ち悪いものだ。しかし、そんな細かい部分までチェックして掃除できるロボットは存在しない。

完璧な掃除ロボットが登場するには、まだ10年かかるとして、それを待ってスタートするのか? それでは時間の無駄だ。ロボットにできない1割は人間がやると割り切って、見切り発車するほうがいい。なぜなら、その間に、ロボットがやる9割の部分を進化させられるからである。

問題が見つかったら、どんどん改良していけばいいのだ。事業をスタートさせないかぎり、その問題を発見することもない。最初から「ロボットに100パーセントは無理」と割り切ることで、逆に進化は早まるわけだ。

これまで人間10人でやっていた仕事を一人でこなせるとなれば、それだけで生産性は劇的に向上している。いずれは無人ホテルも可能になるのだろうが、当面はそれで満足すべきだ。

われわれはビジネスをやっているのであって、実験機関ではない。早く開業することで利益が出るから、次の設備投資ができる。次の投資をするから技術はさらに進化し、お客様に喜ばれるのだ。そこを勘違いしてはいけない。

最初から完璧を求めない。その代わり、途中でどんどん進化させていく努力を怠らない。これが私のビジネスの流儀だ。

「変なホテル」のロゴマークは、竹と「すやり霞」という和の意匠に加え、国蝶オオムラサキの羽がモチーフになっている。蝶は幼虫からサナギへ、そして成蝶へと完全変態する生きもの。「変わる」「進化する」ことを意識しているのだ。

「変なホテル」は変わり続けている。もちろんお客様のご要望で変わった部分もあるし、テクノロジーの進化で変わった部分もある。オープン以来の2年間でも大きく変わった。ここでは、「変なホテル」がどう進化してきたのかを紹介したい。

予想外に注目された

「変なホテル」=ロボットホテルというイメージをもった読者も多いかと思う。しかし、当初はそういう想定ではなかった。

たしかに2016年には「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」としてギネス世界記録に認定された。1号店のオープン時にはイギリスのBBCやアメリカのABCをはじめ、ドイツや中国など、世界から60社近いテレビ局が取材に来た。海外ではハウステンボスより「変なホテル」のほうが知られている。

正直、予想外の展開だった。「ハウステンボスにできた新しいホテルは、快適なのに比較的安い。あそこはいいぞ」と九州で口コミになるぐらいだと思っていた。ところが、全世界が注目したのである。

どこが注目されたかというと、ロボットだった。実際、フロントやクロークなど業務の大半をロボットがやっているホテルはオンリーワンだろう。

マスコミが取り上げてくれたおかげで開業前から話題になり、オープンと同時にたくさんのお客様が殺到することになった。開業から2年たったいまでも、稼働率は高い。閑散期でも80パーセントを超えている(繁忙期はもちろん満室だ)。

お客様のニーズがわかったので、その後はホテルのロボット化により力を入れることになったし、翌2016年にはハウステンボスに「ロボットの王国」もオープンさせた。「変なレストラン」では、ロボットがお好み焼きやチャーハンを作ったり、後片付けをしたりしている。一気にロボットのプレゼンスが増した。

要は、ロボットのエンターテインメント性に注目して、少しでもお客様に面白がっていただけることを考えたのである。快適さや安さ同様、面白さも「もう一度、泊まりたい」と思わせる重要なファクターだからだ。

とはいえ、私のそもそもの狙いは「世界一、生産性の高いホテル」だった。光熱費、人件費、建設費というホテルの3大コストを極限まで削って、ローコストホテルを実現する。

「ロボットを使えば、少しは人件費を減らせるかな」ぐらいの感覚だった。だから、オープン時のロボットは6種類82体にすぎなかった。

30人がたった7人に!

そもそもロボットホテルを作ろうと思ったわけではなかったが、ロボットの部分で注目されたので、そこからは意図的にロボットを増やすようにした。2017年8月現在、27種類233体ものロボットが働いている。ロボットホテルと呼ぶにふさわしい陣容になった。

すると何が起こったか? 開業時は30人もいたスタッフが、7人に激減したのだ(その間、2期棟が完成して、部屋数は72室から144室へ倍増しているにもかかわらずだ)。休日や、朝・昼・夜・夜間のシフトがあるから7人在籍しているだけで、ある時間帯に詰めているのは1〜2人である。

「変なホテル」1号店は144室ある。通常、このクラスであれば30〜40人はスタッフが必要だ。それが7人でできる。私自身、「ここまで生産性が高められるのか!」と驚いたが、ハウステンボス内のほかのホテルのスタッフたちも「どうして7人でできるんだ!」とプレッシャーを感じていると思う。

もちろんロボットは安くない。しかし、仮に1台500万〜800万円かかったとしても、従業員一人ぶんの人件費と変わらない。だが単純に考えて、2年目以降は人件費がまるまる浮く計算になる。

開業の時点でもチェックインはロボットがやっていたので、ここまで人を減らせた理由は、掃除ロボットの導入だろう。床掃除や窓拭き、芝刈りといった作業をロボットがやってくれるようになり、人間の仕事はかなり減った。

掃除ロボットの性能もどんどん上がっているが、現時点で任せられないのは、浴室やトイレの掃除、ベッドメイキングなどだ。思ったより技術的ハードルが高く、まだしばらくはロボット化できそうにない。まあ、すべてをロボットがやる必要はない。30人を7人に減らせただけで、驚くほどの生産性向上なのだから。

客室の作りの問題もあるだろう。開業まではロボットホテルなど想定していなかったから、部屋がロボットに働きやすくできていない。現時点のロボットでは掃除しにくいというなら、最初から「ロボットが掃除しやすい部屋」に空間設計すればいいだけだ。そちらは近いうちに実現できるだろう。

ロボットを売る

掃除ロボットのように製品化されたものを探してくることもあるが、メーカーと一緒に開発しているものもある。お客様の荷物を運ぶポーターロボットなどは、オリジナルのロボットだ。ハウステンボスが観光ビジネス都市に変貌するにつれ、オリジナルのロボットはどんどん増えていくはずだ。

例えば、ゴミ箱にセンサーがついていれば、人間が確認する必要がない。「ゴミを回収してください」と指示が飛んできて、ゴミ回収ロボットが回収に向かう。この間、人間はまったく関わる必要がない。

なお、窓拭きロボットや床掃除ロボット、芝刈りロボットは、働く姿を見た宿泊者から「これ欲しいのですが」と言われることが増え、ホテルでも販売することになった。販売するといっても、割引クーポン券を渡し、メーカーのホームページでクーポンの番号を入力すれば、仲介手数料が「変なホテル」に入るというビジネスである。

たしかにオフィスでも、高い場所のガラス拭きは重労働だ。たまにしか行かない別荘の芝刈りを憂鬱に思っている人もいるだろう。「代わりに誰かにやってほしい」というニーズは確実に存在する。だからロボットが売れるのだ。

ハウステンボスにある「ロボットの王国」でも、高度なコミュニケーションロボットから簡単なホビーロボットまで、さまざまなロボットを販売している。見て触ったら欲しくなるのが心情なのだ。

「変なホテル」の客室にはスイッチが存在しない。1号店なら「ちゅーりー」(ハウステンボスのマスコットキャラクターだ)、2号店なら「タピア」というコミュニケーションロボットがいる。彼らに話しかければ、部屋の明かりをつけたり、エアコンをつけたり、テレビをつけたりできるわけだ。これらも宿泊者に人気が出たため、販売している。

こうしたオリジナルのロボットが増えれば、ロボット事業の売上もどんどん伸びていく。ハウステンボスのお客様だけが相手ではないからだ。これで「テーマパーク的でない稼ぎ方」ができるようになる。

私が将来「エイチ・アイ・エス・グループ」で利益を生むであろう4本の柱の一つにロボット事業を据えているのは、こういう理由からだ。非常に伸びしろのあるビジネスなのだ。

(聞き手・文/丸本忠之)