福岡ソフトバンクホークス・千賀 滉大投手「お化けフォークの秘密」【Vol.3】

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 第3回では、皆さんが気になるお化けフォークの投げるポイントや、故障しないための考え方を紹介します。

全てのボールを「全身を使って腕の振れる位置」で投げる

千賀 滉大投手(福岡ソフトバンクホークス)

――千賀投手の投球についての話についても少し。千賀投手は試合でかなりフォークの割合が多いですが、あれだけフォークを投げられる理由には握力の強化もあるのですか?

千賀 滉大投手(以下、千賀):僕のフォークは力を入れて挟んでいるのではなく、ストレートから指を少し開く感覚で握っているので、さほど握力は必要としません。もしフォークが疲れていた(抜けていた)とすれば、ストレートもスライダーもすべてが疲れて浮いていると思っています

 自分自身、握力は全然ないんです。ライスバケツでライスを掴んだり、前腕を鍛えることはもちろんやっていますし、握力も少しは上がっていますが「フォークをあれだけ投げているから、握力はすごいんじゃないの?」と聞かれても、全然握力時代は普通です。高校生と同じですよ。

――ということは、千賀投手のストレートも指先でボールを押すようなイメージもあると思いますが……

千賀:「指先で押す」とか「潰す」ですよね?それも全くないです。僕は指先とか、肩ではなく、先ほど話したように全身の動きの中で「腕の振れる位置」を探しています。

 僕は「押し潰す」「持っていく」とかいう動作はヒジに悪い動作と考えていますし、中日ドラゴンズの吉見 一起さんとオフに一緒に練習させて頂いた中で「そこに行く投げ方」をしていた参考にさせて頂いて「自然とそこに行く」投げ方を練習しています。

 たとえば「持っていった」場合は、MAXの力がかかり、緊張感がそこに重なると肩やひじには絶対に悪い力がかかる。なぜかというと「自分が無理しているから」なんです。

――その通りです。

千賀:だから「無理しない位置を探す」ということが一番大事になるんです。そうするとアウトコースを狙って中に入った場合でも、「頭が突っ込んでいるんじゃないか」とか「身体の開きが早いんじゃないか」と考えられるようになると思います。

 一番怖いのはそこで身体全体の動きを直そうとせずに、手や腕だけを操作して修正しようとしてしまうこと。そんなボールを投げても試合では打たれます。

 僕は高校時代にケガでほとんど大会に投げられなかったですし、練習試合でもたくさん投げることがなかった。そこは僕が高校生活で後悔している部分なので、そんな選手が1人でも少なくなってくれたら嬉しいと思っています。

 これはレベルの高い話になってしまうかもしれませんが、身体全体の動きの中で「自然と腕が振れる位置」を探してほしいですね。

高校時代の怪我が探求心の深さにつながった

千賀 滉大投手(福岡ソフトバンクホークス)

――ちなみに、グラブの位置はそこに関連したりしますか?

千賀:身体全体の動きの中でどう制御するかを考えています。グラブでなるべく開きを抑えるんですが、位置は体調によって、実は試合中にも1球1球変えていたりします。自分のフォームを常に見つめている投手ならば、そんなこともできると思います。

――ここまで話を伺うと「探究」の大事さがわかります。

千賀:僕は高校時代ケガが多かったですし、プロに入ってからも肩が思うように動かないなど、トラブルを抱えた時期もありました。そこでフォームのメカニックについてはすごく考えるようになったと思います。

――そう考えると「WBC」はいいところでしたか?

千賀:いい経験にはなったと思います。いろいろな国の、いろいろな打者と対戦できたことで、自分でもマウンド上で考えられることが増えましたし、勉強になりました。以前はTVで「すごいなぁ」という目線で見ていた選手と、いざ戦ってみて見方もWBC前とWBC後では全く変わりました。

「うまくなりたい。上手になりたい」を持って勉強してほしい千賀 滉大投手(福岡ソフトバンクホークス)

――最近、高校生に話を聞くと「千賀投手のようになりたい」とか「千賀投手のストレートを参考にしている」とかいう声をよく聴きます。

千賀:そうなんだ……。でも、国を背負ったWBC後にそういう声を聞くことは増えましたし、そこに恥じないプレーをシーズン中にもしないといけないと思いますね。

――そのシーズン、チームが日本一奪還を期す中で、突き詰めていきたいものとは?

千賀:球数を少なく、リズムよく投げることは野手の皆さんにもいい影響を与えるので、それは続けていきたいですし、なにかしらタイトルには絡みたい。その位置にはいないといけないと思っていますし、僕がその位置にいればチームの優勝も近づく。そればできる投手になりたいです。

――では、最後に改めて千賀投手から高校球児の皆さんへ向けたメッセージをお願いします。

千賀:高校野球というのは本当に短い時期なので、一日一日を大切にして過ごしてほしい。野球がすべてではないですし、野球以外のことでも野球に通じることはいろいろあるので、一日一日「濃い」生活をしてほしいです。

 その中でも投手の皆さんにはやれるだけのトレーニングをしてほしいのが一番ですね。僕は走ることだけしかしていなかったし、それ以外のことが全然できていなかったからケガが多かったと思っています。「高校生は走るのが仕事」と言われますが、体力を付けるために走ることも大事ですが、それだけがすべてではないですし、やることは他にもある。

 「うまくなりたい。上手になりたい」という気持ちをもってやっていけば、トレーニングのことも含めて、どんどん勉強できると思います。

――今回は貴重なお話の数々、本当にありがとうございました。

千賀:ありがとうございました!

「全てが決め球」と語るフォークのように、高校球児の皆さんへ向けて真剣にアドバイスを送り続けてくれた千賀投手。「これ、難しいかな」と言いながらも、わかりやすく説明してくれたその姿勢に「一流」の一流たる姿が見えた。

 まずは福岡ソフトバンクホークスの日本一奪還。そしてその先にある2020年・東京五輪での世界一奪還へ。千賀 滉大は今日も「腕の振れる」位置から敵をねじ伏せる。

(インタビュー/文・寺下 友徳)

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