世の中には、わたしのような女性は数学が不得意だという偏見がある。でも試しに計算してみよう。映画『ワンダーウーマン』は6月半ば、世界興行収入で8,030万ドルをさらに上乗せした。なかなか好調だ。それよりもすごいのは、6月2日に全米公開されたこの作品が、公開2週目の週末興行収入で、ひたすら逃げまくるトム・クルーズの最新映画『ザ・マミー/呪われた砂漠の女王』[日本語版記事]を上回ったことだ。

「この夏、女性監督作がハリウッドを席巻──『ワンダーウーマン』から始まった勢いが止まらない」の写真・リンク付きの記事はこちら

映画を気に入った多くの観客が口コミで広げてくれたおかげで、過去のスーパーヒーロー映画に比べると、第1週目と第2週目の週末の興行収入の落ち込みは少ない結果となった。読者がこの文章を読み終えるころには、『ワンダーウーマン』はおそらく100万ドルを上乗せし、全世界の総興行収入は5億7,200万ドル(約635億円)に届くまでになるだろう。わたしは数字が苦手だが、この数字はかなりいい感じだと思う。

『ワンダーウーマン』公開直後の週末の興行収入は、女性監督であるパティ・ジェンキンス(『モンスター』の監督)にとって過去最高となった。さらに驚くべきことに、そうした状況にあったのがジェンキンスだけではなかった。

6月16日〜18日の週末には、『ブロード・シティ』を監督したルシア・アニエロがメガホンを取ったコメディ映画『Rough Night』も810万ドルの興行収入をあげた。『ワンダーウーマン』ほどではないが、2011年に公開された『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』以前は、「女性のコメディ映画」は成功していなかったことを考えると、これは目覚ましい結果だと言える。

加えて、イラク戦争の女性兵士の活躍を描いたガブリエラ・カウパースウェイト監督の『Megan Leavey』と、エレノア・コッポラ監督の『ボンジュール、アン』を含めれば、興行収入ランキング上位20作品中の4作品が、女性監督の映画作品となる(5作品となるところだったが、ステラ・メギー監督の『エブリシング』が1カ月にわたってトップ10入りしたのちに圏外にランクダウンした)。

これまで2人以上の女性監督作品が上位に入ったことが、まったくなかったわけではない。2015年にサム・テイラー=ジョンソン監督の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』と、エイヴァ・デュヴァーネイ監督がマルティン・ルーサー・キング牧師を描いた『グローリー/明日への行進』、ウォシャウスキー姉妹の『ジュピター』が一時的にランクインしたことがある。

しかし、女性監督作品が複数ランクインするのは、とりわけ夏にはきわめて珍しい。重ねて驚きなのは、『ワンダーウーマン』が先頭に立ってロングテール現象を起こしていることだ。つまり、2017年の夏の映画興行収入ランキングは女性が占めている。

興収上位は「男性映画」という常識が崩れ始めた

これはもちろん、文字通りの真実ではない。6月後半時点では、劇場で公開されている作品の大部分は、これまでと同様、男性が男性向けに制作した男性主演の映画だ。しかしその偏りが、ほんのわずかではあるが、中心へと揺れているように思える。それが今後も続いていくかどうかは定かではないが、ほんのわずかな変化であっても否定はできない。

ハリウッドでは長年、女性が制作する大作フランチャイズ映画は成功しなかった。リスクが高すぎるというのが一般的な見方だったからだ。しかし、『ワンダーウーマン』の監督のパティ・ジェンキンス、主演のガル・ガドット、そして同作品のチケットを購入した観客全員が、それが誤りであることを証明した。

女性主演の映画『Rough Night』『Meagan Leavey』『ボンジュール、アン』が支持を集めていることもまた然りだ。2017年の夏は、女性主演の映画がさらに公開を控えており、これまで以上に興行収入上位における女性の存在感を高めてくれる可能性がある。

第70回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したソフィア・コッポラ(前述のエレノア・コッポラと、フランシス・フォード・コッポラ監督の娘)による『The Beguiled』は、6月23日に公開された(日本公開は今冬予定)。ボニー・コーヘンが共同監督を務めた『不都合な真実2:放置された地球』は7月28日に公開を控えている(日本は今秋予定)。アナ・リリ・アミリプール監督の『The Bad Batch』は6月23日に公開された。さらに、キャスリン・ビグロー監督の次の大作『DETROIT』は8月4日に全米公開される。

話題の「女性映画」が次々に公開

この夏、ハリウッドではたくさんの作品が公開されている。女性監督作品ではないが、シャーリーズ・セロン主演のスパイ映画『アトミック・ブロンド』も7月に公開された(日本公開は10月20日)。フランスの人気SFコミック『ヴァレリアン&ロールリンヌ』の実写映画化『Valerian and the City of a Thousand Planets』[日本語版記事]は7月21日に、『スパイダーマン:ホームカミング』は7月7日に(日本公開は8月11日)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』は7月14日(日本公開は10月13日)に封切られた。こうした映画すべてが興行収入でどの程度上位に食い込んでくるかを予測するのは難しいが、女性監督作品の4、5作がトップ20に入っただけでも、まさに歴史的だと言えるだろう。

2週間前、ボックスオフィスのアナリストであるジェフ・ボックに、女性監督が興行収入で首位に立つ可能性についてメールを送った。それに対してボックは、トップ10に女性監督作品が3つ入る頻度は、「ハレー彗星が地球にやってくるのと同じくらいだろう」と言った。『ワンダーウーマン』が首位に立ったのはそれからわずか6日後のことだ。

それと同じくらい驚いたのは、彼女たちの映画が興行収入をあげているだけではなく、話題を呼んでいる点だ。『ワンダーウーマン』はランキング上位に躍り出て以来、注目の的となっており、誰もがそのことに気がついている。『グローリー/明日への行進』のデュヴァーネイ監督とオプラ・ウィンフリーはテレビ番組「Entertainment Tonight」に出演して「パティ(ジェンキンス監督)! がんばれ!」と声援を送った。

文末に掲載したジェンキンス監督によるツイートは、幼稚園のクラスで『ワンダーウーマン』に夢中になった子どもたちがたくさんいるというエピソードをまとめたものだ。同作が上位から陥落しても、その影響は消えずに残るだろう。

My producer just sent me this… ABSOLUTELY INCREDIBLE! This makes every hard day worth it. Thank you to whomever wrote it!!❤️❤️❤️❤️❤️❤️ pic.twitter.com/3DzIaMueIh

- Patty Jenkins (@PattyJenks) 2017年6月11日

女性監督の成功を興行収入の数字に重ね合わせるのは低俗に思える。しかし、それがハリウッドだ。多くの興行収入をあげられる監督はもっとたくさん映画を制作できる。6月半ば、女性監督の作品は5,200万ドルを超える興行収入をあげた。この額は、トップ20に入っている映画の総興行収入のおよそ28パーセントだ(昨年の同時期は7パーセントにも満たなかった)。

女性にも観客の求める映画を制作することは可能だという話は、ずいぶん前からひっきりなしに言われてきた。しかし、それを喜ばない人もいたのは事実だ。2017年の夏、女性たちの映画はかつてないほどの興行収入をあげるだろう。数字は嘘をつかないのだ。

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