―――その在籍されていたホアンアイン・ザライFC(以下、HAGL)について聞かせてください。
 
「ベトナム中部ザライ省の省都・プレイクという街にあり、トップチームの平均年齢が21〜22歳と“若手育成”に重きを置く、アカデミーに力を入れたクラブです。彼らは幼少期からフランス人指導者に技術やボール保持を継続的に指導されているので、ベトナムでは珍しいポゼッションサッカーに慣れているんです。私個人としてはすごくプレーしやすく、馴染みやすかったとも思います」
 
―――チームメイトとのコミュニケーションはベトナム語ですか?
 
「片言のベトナム語と片言の英語です。彼らは幼少期から毎日、練習や食事が終わった後に英語の授業を受けているので、日常会話程度なら皆話せるんです」
―――ベトナムでの生活はどうですか?
 
「住んでいたところが田舎街で、日本人も私以外いなかったと思います。飛行機でハノイから1時間15分、ホーチミンからだと45分ほどの距離感です。1部リーグには14クラブが所属しているので、13回は他の街へ遠征に行きましたが、1、2を争うド田舎な街ですよ。街は22時頃には真っ暗になります。ただコーヒー店だけはいっぱいありましたね。住まいはHAGLの寮で、その寮のご飯が合わなかった(苦笑)。寮から街が10キロぐらい離れているんですが、クラブバスが(街まで)週3回送迎してくれるんです(街には2〜3時間滞在)。それにチームメイトと乗っては食事へ行ったりカフェへ行ったり。3連休がもらえればホーチミンへ遊びに行ったことも何度かありました」
 
―――普段の楽しみって何でしたか?
 
「アウェー遠征ですかね。もちろん、戦いに行っているので気持ちは切らさずにですが、遠征は“前々泊&後泊”なので、チームメイトは、それぞれの街に住む友人と連絡を取って食事に行ったりしていましたよ。門限など緩かったので(笑)」
 
―――HAGLにはベトナム代表選手が多く在籍していますが、遠征先での外出、パパラッチの標的にされることもあったのでは?
 
「うーん、それはあんまり。ただひとり、コン・フォン(ベトナム代表の若きスター/昨季までJ2水戸に在籍)だけは、どこへ行っても気が付かれていましたけど」
 
―――気になる“ベトナムリーガーのサラリー体系”はどんなものなのでしょうか?
 
「HAGLに限って言えば、ローカル選手は月の基本給が約8万円くらいでした。でも勝てば10万円の勝利給がもらえるんです。コン・フォンやトゥアン・アイン辺りの代表選手でも同じ水準みたいです。ただ彼らは他にCM出演などの副収入は多いですけどね。外国人選手はもうちょっと色を付けてもらっていました」
 
―――この夏、タイのチームでトライアルを受けたとか?
 
「はい。契約寸前まで行ったんですが。難しいですよね、アジアって(苦笑)」
 
―――今後は? また海外でのプレーを続けたいのでしょうか?
 
「やりたいですねー、やっぱりアジアで。特にベトナムでリベンジしたいです」
 
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 近い将来、弟・陽介が海外クラブから声を掛けられるであろうことは想像に容易いのだが、海外経験を持つ兄が傍にいることは心強いだろう。兄は海外生活の相談を受ければ、あの相手を安心させる笑顔で、可愛い弟へアドバイスを送るに違いない。
 
 そして彼自身は今、アジアでのリベンジを果たすため、家族がいる大阪でトレーニングを続けている。近くで頑張る弟から刺激をもらいながら。
 
取材・文:佐々木裕介