試合終了のホイッスルが鳴ると、レスター・シティの選手たちは次々と崩れ落ちていった。芝生の上で天を仰ぐFWジェイミー・バーディーと、座り込んだまま動けないMFリヤド・マフレズ。奇跡のリーグ優勝を遂げた昨季から、今季はチャンピオンズリーグ(CL)という欧州の舞台に参戦したレスターは、ベスト8で姿を消すことになった。


岡崎慎司はまたも「戦術的な理由」で前半だけで交代させられた しかし、ホームスタンドから割れんばかりの拍手と「レスター」コールが沸き起こると、選手たちはひとりひとり立ち上がっていく。3年前は2部リーグに在籍し、1部に昇格した翌年も降格の危機に瀕したそのレスターが、CLで8強に進出──。下を向いていた選手たちも、最後は胸を張ってサポーターの声に拍手で応えていた。

 そのなかで、消化不良の感を強く残したのが岡崎慎司だった。先発出場を果たしながらも、第1レグに続いて前半の45分間だけで交代を命じられた。2試合合計で1-2で敗れたアトレティコ・マドリードとの試合後、思いの丈を口にした。

「チームがゴールを獲りたいときに交代させられることや、勝ちたいと思って戦術を変えるなかに自分が入っていなかったことに、悔しさを感じる。CL準々決勝の2試合で『戦術的な理由により』前半で交代と言われても、やっぱり悔しいというか。もちろん、自分がゴールを決めてこなかったことはあります。だけど、自分が試合に出るか出ないかは、チームの状況に委ねられなければならない、ということです」

 振り返れば、前半だけでの交代は今季6度目。もともとFWは交代の多いポジションだが、それでも決して少なくない数字である。アトレティコとの第1レグ、第2グとも「戦術変更」により交代したが、今季最大のビッグマッチを45分間だけで終えたことも事実で、悔しさをにじませていた。

 4-4-1-1のセカンドストライカーとして先発した岡崎は、中盤まで降下して守備を助けたり、サイドのスペースに飛び出して味方のパスを引き出したりと、立ち上がりから精力的に走った。普段よりポジションを後方に置く時間が長かったが、21分にはチームにとって前半最大のチャンスとなる決定機もあった。バーディーのグラウンダーのクロスボールにサイドキックで合わせたが、枠を外した。

 この時間帯までレスターはプランどおりのプレーができ、アトレティコに大きなチャンスを与えなかった。しかし、相手のファーストチャンスで失点。「アトレティコのアウェーゴールで戦術変更を余儀なくされた。あれで3ゴールが必要となり、戦い方を変える必要があった。実際に考えていたよりも早く、戦術を変更する必要があった」(クレイグ・シェイクスピア監督)。チームは3バックの3-4-2-1にシステムを変え、岡崎の代わりに長身FWのレオナルド・ウジョアを投入したのである。

 だが、この大胆な采配でレスターに勢いが戻った。とりわけ効果的だったのが、3-4-2-1の「4」の位置に入ったウィングバック。両サイドを広く使った攻撃でチャンスを生み、高さのあるウジョアも前線の基準点として役割をこなした。

 岡崎のプレースタイルでいえば、このフォーメーションなら「2」の位置でプレーできるが、入ったのはバーディーとマフレズ。単独突破が可能で、ゴールやアシストの結果も残しているふたりをシェイクスピア監督は起用した。

「あのフォーメーションだったら、前線でごちゃごちゃになるから、自分もセカンドボールを拾えて決められるチャンスがあったと思う……。そこでの仕事を認められていないっていう風に思った。何度もこういう経験はレスターでしているけど、またこういう風になるんだなと。戦術的な交代だということはわかっていても、受け入れられない部分がある。ただ、自分がFWとしてゴールを決め切れなかったことがあるから、認められていないという……。

『味方を生かす』とか、『守備でがんばる』とか、そういうプレーの評価はもうお腹いっぱい。それって結局、勝っているから評価されること。自分のプレーがよくても、負けていれば交代させられる。それで『自分は何もしていなかった』ということを何回も味わっている。やっぱり、チームのなかで何かしらの変化を自分がつけられるようにならないと。改めて、今のレスターでの立ち位置を変えたいなって思いました」

「CLは自分を成長させてくれ、また出たいと思うような大会。プレミアリーグで試せたことを、次のCLでやってみる。『前はこれぐらいでき、その次はこれぐらいできた』。そう考えれば、自分がどれだけ成長したかがわかる」と、キャリア初のCL参戦に充実感をただよわせていたが、この準々決勝では昨季からの継続課題にふたたび直面した。

 現状、岡崎への評価は「守備もできてゴールを量産できる」というより、「FWながら守備に強い」との認識のほうが強いのだろう。だから、チームがゴールを必要としたときに、真っ先に交代を命じられてしまう。それは”チームプレーヤー”としての苦悩とも言えるだろう。

 もちろん、岡崎はこうした評価を覆そうとしている。「バーディーを助けるための岡崎じゃないし、リヤド(・マフレズ)やチームメイトのフォローをするのが俺でもない」と訴えたことがあったように、FWとしてもう一歩、前へ進もうとしている。

「答えはわからないですけど。それがゴールを奪うことなのか、あるいは今日みたいなときにどうすればいいのかっていうのを、がむしゃらでも何でもいいから見つけて、もっと信頼される選手になりたい」

 プレミアリーグは残り6試合。献身的な動きでチームを支えながら、自らの立ち位置を少しずつでも変えていく――。ハードルは高いが、壁をぶち破ろうという気概に岡崎は満ちている。

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