終盤の2失点目は、中盤でのパスミスから相手にボールが渡り、そのままゴール前まで運ばれて、追いついた遠藤航は球際で競り勝てず、シュートを打たれている。
 
「ブルガリアは“目が覚める”のが遅かった。途中からは向こうも出てきて、圧力をかけてきた。相手が良くなってからの対応の仕方では、1失点目も2失点目も、本当にちょっとした判断のミスとかが重なっての失点だった。アジアでは取られないかもしれないけど、ヨーロッパのチームにはやられてしまう。そこはまだ自分たちの甘いところだと思う」(長谷部)
 
 残念ながら、ブルガリア戦前の公式会見でヴァイッド・ハリルホジッチ監督が懸念していたとおりの結果となってしまった。
 
「シリアには5-0で勝ちましたが、10分間で2、3回、相手にビッグチャンスを作られています。ブルガリア相手に同じことをすれば、1〜2失点してしまいます」
 
 改めて、ひとつのミスが命取りになることを痛感できたという意味では、良いレッスンになったはず。ワールドカップの本大会を見据えても、今回のふたつの失点は教訓にしなければならない。圧巻のゴールラッシュの影に隠れたこの2失点こそが、ブルガリア戦の最大の収穫と言ってもいい。
 
 とはいえ、守備に関してチーム全体の意識が低かったと言えば、決してそうではない。長谷部が指摘するように、たしかに球際に行けていない時間帯もあったが、局面によっては素早く攻守を切り替えて、「奪われたら6秒以内に取り返す」という約束事を徹底しようとしていた。
 
 なかでも、精力的なディフェンスを見せていたのが、トップ下で先発した香川だ。守備時にはCFの岡崎と横並びのような形となり、高い位置から積極的に奪いにかかり、自陣に侵入されれば猛烈なプレスバックでピンチを未然に潰す場面もあった。
 
 ハリルジャパンのキーワードのひとつである“デュエル(1対1の勝負)”でも、闘う姿勢を見せた。タッチライン際でルーズボールを奪い合う際、相手に激しく身体をぶつけてマイボールにしてみせる。
 
 結果的にこの時の接触で腰の付近を痛め、先述したように、負傷交代を余儀なくされたのだが、鮮やかな2ゴールだけでなく、自分よりひと回り大きい相手を吹き飛ばすアグレッシブな守備でも、香川の存在感は際立っていた。
 
 その他でも、酒井宏は思い切りの良いスライディングタックルでボール奪取を成功させ、2失点を喫した川島永嗣だが、前半には至近距離からのヘディングシュートを間一髪で防ぎ、終盤に与えたPKもしっかりとストップ。果敢なチェイシングで相手のパスコースを限定させた岡崎など、個々の踏ん張りがなかったわけではない。
 
 デュエルのさらなる向上、プレスとブロックの柔軟な使い分け、そのブロックでは相手をサイドに追いやるように真ん中をいかに固めるかなど、守備面でブラッシュアップすべき部分は少なくない。後半の途中から集中力が途切れがちになり、運動量が低下した点も看過できない課題だ。
 
 ただ、2次予選に比べれば、やろうとしていることを、一人ひとりが表現できている回数が増えてきているのも事実だ。
 
 いまだ発展途上のハリルジャパンだが、着実に成長はしている。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)