北朝鮮を脱北して、現在韓国で暮らしている人の数は3万人に近づきつつある。一方、一度は脱北して韓国に入国したが、再度北朝鮮に戻る「再入北」という選択をする人もいる。

その数は、2012年から2014年までで15人に達する。その一因は、韓国での差別、偏見、貧困だ。統一省と北韓離脱住民支援財団の発表によると、自らを貧困層と考える脱北者は73.2%に達する。

中には、北朝鮮の工作員に抱き込まれ「再入北」に追い込まれる人もいる。

金正恩党委員長は2012年に「南朝鮮に出て行った脱北者を連れ戻せ」という指示を保衛部(秘密警察)に下した。それに基づき、韓国に派遣された工作員が脱北者を懐柔、脅迫して、連れ戻すことに成功した。

彼らは、朝鮮中央テレビに出演させられ「南での暮らしは酷かった」と語らせられた。しかし、こうしたプロパガンダは、北朝鮮の幹部の間でも非常に評判が悪いと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は伝えている。

第三国に在住している北朝鮮情報筋によると、当局は、2012年5月に再入北したパク・チョンスクさんをテレビに出演させた。「南(韓国)なんかよりわが国の方がいい」というメッセージを伝えようとしたようだが、これが大失敗。

庶民も幹部も一様に「60代なのになんであんなに肌が白くてきれいなのか」とビックリした。

韓流ドラマをこっそりと見ている人のなかには「韓国人の豊かな暮らしは、ドラマの中だけだろう」と疑っている人も多いが、彼女を見て「ドラマだけの架空の話ではなく、本当に韓国は豊かなんだ」と思わせてしまった。

この逆効果に対して、幹部たちは「なんであんな“美肌の脱北者”を使うんだ」などと、金正恩氏を遠回しに批判したという。

「再入北」者を利用したプロパガンダの失敗はこれだけではない。

2013年に脱北し、中国、ラオスを経て脱北しようとした青少年9人が北朝鮮に強制送還される事件が起きた。

当局は彼らを処罰せず、高等中学校(高校)に進学させた上で、韓徳銖平壌軽工業総合大学と張哲求平壌商業大学などの名門大学に入学させた。その様子は北朝鮮メディアでも大々的に報道された。

ところが、「元帥様の人民愛」が当局の意図とは違う方向で受け止められる。彼らが厚遇を受けているのを見た若者たちが、驚くべきことを言い出したと、ある平壌市民は語る。

「若者は『あんないい思いができるのなら、俺も一度脱北してまた帰ってこようかな』などと冗談を言い合っている。脱北は『祖国を裏切る大罪』ではなく、ちょっとしたアドベンチャーで、『戻ってきたら許してもらえる』との誤ったメッセージを発信してしまった」

もちろん、「再入北」者の現実はそう甘くない。韓国の聯合ニュースによると、北朝鮮当局は、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)市に「再入北」した人々を再教育する施設を建設した。

これは金正恩氏の指示で建てられたものだ。現在、7人が収容されているが、厳しい監視のもとに置かれ、外出はおろか窓から外を覗くことすら禁止されているという。