中国の恐るべきペット事情 (C)孫向文/大洋図書

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 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。数年前、僕が中国に在住していたころ、日本のニュース番組をネットの動画サイトで視聴する機会がありました。そこには「中国のかわいい飼いパンダちゃん」というタイトルとともに、パンダのように体毛を白黒に染めあげられた犬が映し出されていたのです。番組では軽いジョークのように紹介されていたこの事例ですが、裏には現代の中国人たちが持つ非道さが隠されています。

■中国に根付くペットに対する悪癖

 古来より中国では飼い犬は「富の象徴」とされ、特に大型犬は泥棒から自宅を守る番犬として富裕層から好まれています。経済発展の影響を受け中国では空前のペットブームが発生し、飼い犬や飼い猫に対し多額の養育費をつぎ込んでいる人も珍しくありません。しかし同時に中国社会にはペットに対する悪癖が根付いています。

 中国の都市を歩いていると、パンダのような白黒柄、虎のような縞柄、ピンクやレインボー柄などに染められた犬が飼い主と散歩している光景をひんぱんに見かけます。これらは「犬美容」と呼ばれ、中国では飼い犬をカラフルに染めることは人間が洋服を着飾るような行為とみなされています。中には自分の服装に合わせて犬の毛色を何度も変える人も存在します。現在の中国ではペットブームのあおりを受けトリマーが急増しており、毎年中国国内の都市で開かれるペットショーには、トリマーたちによって色とりどりに染め上げられた犬たちが数多く紹介されます。

 犬美容を行う際、犬たちは全身を染めるために大量の染料が入った容器に投入されます。その際に犬が溺死してしまうこともあります。そして染料に染まった犬の多くがアレルギー反応を起こし表皮に炎症を発生させます。ひどい場合は重度の皮膚ガンになってしまうこともあるのです。また染料は犬の目や鼻に強い刺激を与えるため、視力が著しく低下していたり常に鼻血を垂らしている飼い犬が中国には多く存在します。犬美容を行った犬の平均寿命は普通の犬の半分程度と言われており、飼い主たちの自己満足が犬たちの命を奪っているのです。

 また中国の路上では露天商が子犬を売っていることがあるのですが、実際に購入すると子犬は大抵数時間後に衰弱状態となり、その後一週間程度で死亡してしまいます。その理由は売られている子犬の大半が路上で捕まえた雑種犬だからです。販売する際に露天商は高価な純血種に見せるために、雑種犬を塗料で染め上げ偽の血統書を作成します。そして犬の健康状態が衰えている場合は鎮痛剤や興奮剤を大量に投与してから店の軒先に並べます。

 雑種犬はもともと健康状態が悪化していることが多いため、薬の効果が切れた途端衰弱します。さらに塗料や薬品の過剰摂取により急速に生命力を失うのです。露天で販売される犬は中国では「星期犬」と呼ばれます。星期とは「一週間」という意味で文字通り犬の短命を表します。露天商にとって子犬は日銭稼ぎの「道具」に過ぎません。

 もちろん、中国国内にもこのような傾向に反対する世論は存在し、ネット上には犬美容禁止を求める意見が多く見られますが、中国には動物虐待に関する法律は制定されていません。そのため民間の動物愛護団体が広報活動を行っているのですが、そのたびに「自分のペットをどう扱おうが勝手だ!」、「人権すらろくに認められていない中国で犬の権利など主張するな!」といった皮肉めいた反論が巻き起こります。

 日本や欧米諸国などの先進地域では、ペットは「家族」や「友達」のようにみなされ人々から大切に扱われます。対して多くの中国人はペットを単なる「玩具」としかみなしていないのです。もし日本の方々が中国で色鮮やかな犬を見た時は十分な嫌悪感を持ってください。

 僕はいつか中国に動物を保護する法律が制定され、中国の人々が動物たちの「命の価値」を知る日が来ることを願ってやみません。

著者プロフィール


漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。

(構成/亀谷哲弘)