友人の妻だったガラに一目ぼれしたダリは、友人から奪うようにして1934年ガラと結婚しますが、ピカソとは異なり一人の妻を生涯深く愛し続けます。ですから、1982年にガラが死去すると自分の人生の舵を失ったと激しく落ち込み、ジローナのプボル城に引きこもってしまいます。それだけではありません、制作意欲も失い、ガラの死去から1年後には絵画の制作をやめてしまうのです。そして、妻を失ってから7年後、1989年に故郷のフィゲラスに戻りますが、何をするのでもなく、英気を失ったまま自分が設立した「ダリ劇場美術館」に隣接するガラテアの塔で、心不全により85歳の生涯を終えます。

自ら「天才」と自称して憚らず、数々の奇行や逸話が知られている奇才ダリでしたが、それは表向きの顔でした。真のダリはイケメンですし、優しくて、情にもろくて、そして、愛情の深い人間味あふれるな人だったのです。

また、この作品は“幼い頃にほのかに思いを寄せていた従妹”を主人公にして描いています。誰にも悟られないようにそっと、若き頃の淡い恋心を描いています。作品は彼の純真さをもっとも印象づけるものとして。また、彼らしい優しい世界を垣間見ることができる貴重な作品でもあり、純真で純朴なダリを見ることのできる数少ない作品です。素敵です。

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手した資料、そして、ウィキペディアなどを参考にさせて頂いています》

(トラベルライター、作家 市川 昭子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。