「悪者」という単語を見て、どんな人物像を思い浮かべるだろうか。ばいきんまんだったり、戦隊モノのいわゆる敵キャラだったり、名探偵コナンで事件を起こした犯人の影だったり……黒色を連想する人が少なくないはずだ。

しかし、絵本二番目の悪者』の表紙には、タイトルにある「悪者」という単語が発するイメージとは裏腹に、金色の立派な鬣(たてがみ)を持つライオンが、まるで王として振舞うかのようにグラスを持ってたたずんでいる。



表紙をめくると、そこには「これが全て作り話だと言い切れるだろうか?」と書かれていた。まるで、これからサスペンス映画でも見るかのような緊張感だ。念のため改めて言っておくが、これは絵本である。

自分こそが王にふさわしいと考えていた金のライオンがある噂を耳にする。街はずれに住む優しい銀のライオンが「次の王様候補」になっているというのだ。それを知った金のライオンはとんでもない行動を始める――というストーリーだ。

自らの立場の危うさを感じ他人を攻撃する者、攻撃されても反撃をしない者、どちらの味方をするでもなくただひたすらに情報に踊らされる者、攻撃される者を守ろうとする者……。日ごろの我々の生活の縮図がそこにはあった。

絵本でありながらどこか緊張感のあるタイトルと、決して笑顔で読みすすめることのできない内容。この本の出版経緯を担当編集者である「小さい書房」の安永則子さんに聞くと、「本を企画するとき、何もないところから突然テーマが生まれるわけではなくて、これまでの経験や考えてきたことが土台になっているように思います」と話す。

「前から、何もしない人って傷つかないよなぁと思っていたんです。『一番悪い人』は、当然ながら法的にも社会的にも咎められます。では周りで何もせずに見ていた『その他大勢』についてはどうなんだろう? という疑問が、本書のテーマにつながりました。詩人で絵本作家の林木林さんに物語の執筆をお願いし、BRUTUSの装画などを手がけられるイラストレーターの庄野ナホコさんに絵を描いていただきました」

庄野さんといえば、江國香織など人気作家の装画も手がけているイラストレーターだ。
「本の冒頭に、鳥を弾く人と、チェロを弾く人の絵が並んでいます。これは本の最後に添えられた絵と対になっていますので、合わせてご覧ください」(安永さん)

絵本といっても読者層は子どもから大人まで幅広いという。
「『二番目の悪者』は、小学校で読み聞かせられたり、中学・高校で『お薦め本』としてご紹介頂いたりすることも多いです。ある読み聞かせの場におじゃましたところ、学校の先生が『これは大人も考えてしまいますね』と苦笑しておられたのが印象的でした。大人の読者も多く、上司が部下にプレゼントしたというケースも聞きました。年齢・職業・性別に関係なく、考えるきっかけになれば幸いです」

上司が部下にプレゼントした、というエピソードには驚きだ。絵本というあまり多くを言葉で説明しないものだからこそ、想像力を働かせる楽しさがある。誰かと内容についてお酒でも交えながら意見を交換するといった、オトナの楽しみ方もできるのかもしれない。
(瀬川香純/boox)