【大会特別コラム】神宮大会初優勝！高松商業の軌跡
今年の秋季四国大会で優勝を果たし、20年ぶりの甲子園出場へ大きく前進しただけでなく、明治神宮大会でも札幌第一、大阪桐蔭、敦賀気比といった強豪を破り、見事に明治神宮大会を制した高松商。1909年に創部し、数多くの野球人を輩出した四国を代表する名門校だけに、関係者の喜びもひとしおだろう。そんな高松商の優勝の軌跡を振り返っていく。
2014年4月、長尾監督の就任が復活の始まり米麦 圭造主将（高松商）
復活の始まりは長尾 健司監督の就任だ。丸亀市立飯山中、香川大学附属坂出中などで指導し、その指導力の高さは県内に知れ渡り、中学球界では名指導者と呼ばれた。名門校の監督といえば、その学校のOBが監督になるというのが一般的だが、長尾監督は丸亀高校出身。外部から招聘した形となるが、それだけ高松商は長尾監督に期待していたということだ。
そんな長尾監督を慕って入学してきたのが今の選手たち。彼らは長尾監督の監督就任と同時に入学した選手たちなのだ。主将の米麦 圭造（よねばく）はこう語る。「高松商という長く、重みがあり伝統のある学校でプレーしたいという思いと、また長尾監督が就任することで県内の上手い選手たちが入学すると聞いたので」
米麦はこれをチャンスととらえ、高松商の門をたたいたのである。2014年以降の戦績を見ると、2014年夏、2014年秋ともに3回戦敗退だったが、今のレギュラーの多くが1年生から出場をしていた。投手ながらパンチ力ある打撃が光る大熊 達也、快速が光る安西 翼などが出場して、しっかりと経験を積んでいたのである。そしてこの代は1年生大会で優勝。しかも決勝戦では12対0で大勝している。長尾監督を慕って入った1年生たちが期待通りの結果を残す。躍進の兆しは少しずつ見えていた。
今年の夏は香川大会準決勝で丸亀城西に敗退。安西、米麦だけではなく、強打の二塁手・美濃 晃成がこの時は三塁手で出場。そしてエースの浦 大輝も先発を務めるなど主力で活躍する選手が多くなっていた。だがこのままでは甲子園に行けないと考えていた米麦主将は「低く強い打球を打つこと」を心掛けさせた。
だが遠くへ打ちたいあまり、ライナーではなく、フライで遠くへ飛ばす選手も出てくる。そんな選手に対して、米麦は「チームが勝ちたいと決めたことなのにできないならばグラウンドから出ろ！と言ってきました」と選手たちに厳しい言葉を発しながらも、まとめてきた。米麦は厳しいことをしっかりと言える主将。そういう主将の存在がチームを結束を固めてきたといえるだろう。
打撃とそして機動力を磨き上げた秋季県大会では安定した戦いぶりで準優勝。県大会では5試合で4本塁打18盗塁を記録、走れる攻撃型チームとして四国大会に臨むと、1回戦では池田を6対3で破り、快勝。さらに準々決勝の今治西戦で強打の捕手・植田 響介が2本塁打7打点の大活躍。さらに準決勝の済美戦では安西が5打点の活躍を見せ決勝進出を決めた。決勝の相手は明徳義塾。四国を代表する名門校にも怯むことなく、自慢の機動力を駆使して6対1で快勝し、見事に四国王者となり選抜へ大きく前進した高松商。そして快進撃は、神宮大会になっても続いたのである。
[page_break:明治神宮大会は力試しのつもりだった]明治神宮大会は力試しのつもりだった優勝を決めガッツポーズの浦 大輝投手（高松商）
明治神宮大会では初戦で札幌第一と対戦すると、植田 理久都、大熊の本塁打など7得点で快勝。そして準決勝では大阪桐蔭と対戦。しかしエースの浦が高熱を出す体調不良で登板出来ない事態となる。この時、高松商サイドは大阪桐蔭に勝つことは考えていなかった。米麦は「まず1つ勝つこと。そして大阪桐蔭相手にどこまで戦えるのか、自分たちの力を試したかった」と語るように、あくまで力試しのつもりだった。そしてエースが登板できないこともあり、その気持ちは強くなっていた。
だが高松商の打者は大阪桐蔭の投手陣に怯むことなく打ち返していき、次々と鋭い打球が飛んでいった。一時は7対1までリードを広げ、あわやコールドという展開までになった。しかし7回、8回と大阪桐蔭の反撃にあい、7対6と1点差まで追い上げられたものの、見事に守り切って決勝進出を果たした。そして決勝の敦賀気比戦では7回終了時点で0対3の3点ビハインド。エース・山�� 颯一郎の前に完璧に封じ込まれていたが、8回表、内野安打、四球で無死一、二塁のチャンスを作り、そして代打・荒内 俊輔が三塁線へ絶妙なセーフティバント。このセーフティバントはチームが徹底して行ってきたものである。
米麦は「セーフティバントの場合、転がすゾーンは三塁線。それも強い打球ではなく、しっかりと転がしていけば、投手が回り込んで捕球する形になるもの。セーフになる確率は高まります。それが当たり前にできるように練習を重ねてきました」
確かに山��の処理を見ると、やや時間がかかっていてロスがあった。荒内は、このまま回り込んで投げても暴投になるようなところへ転がしていた。米麦によると、確実に決められるようにするために、しっかりとボールを見てバントすることを心掛けているという。
走りながらやるのではなく、しっかりとボールを見て、転がす。この基本の徹底が決勝戦で生きた。そして米麦が同点打を放つ。さらに美濃の適時三塁打、植田理の適時打で一挙5点を入れ、大逆転。さらに9回表にも3点を入れ、最後は「まだ目が死んでいなかったので、部長と一緒に発破をかけて投げさせた」と長尾監督が送り出したエース・浦が敦賀気比打線を抑え、見事に初優勝を果たしたのだ。
[page_break:プレッシャーに打ち克ち、古豪復活を全国の高校野球ファンに示す]プレッシャーに打ち克ち、古豪復活を全国の高校野球ファンに示す優勝を決めた高松商ナイン高松商の優勝は、ここまでの積み重ねが結実したものといえるだろう。だが長尾監督のコメントは厳しい。「まだ、全国で戦っていなくても我々以上に力のあるチームは多くあります。まだここまでで満足してはいけないですし、神宮大会で優勝したことで古豪復活といわれますが、それは全国で結果を出し続ける、継続することだと思います」
そのためには2年生だけではなく、1年生の頑張りも必要だと話す長尾監督。米麦は今大会を振り返って、「今大会ではどこまで自分たちの力が通用するのかということでしたが、こういう結果になったことは、少しは自信になったと思います。でも過信することなく、おごることなく、選抜ではあくまで挑戦者というつもりで、まず1勝ができるよう、しっかりとチームを見ていきたいと思います」
こう今大会をふりかえり、今後の意気込みを語った。まだ秋が終わったばかり。これから春、夏と続いていく。長尾監督は「今日は褒めるけど、このままでは全国では厳しい。もっと上を目指さないと」とさらなる上達を求めていた。
長尾監督をはじめ、高松商の選手達は謙虚な様子だった。だが今後神宮大会王者として厳しくマークされることになる。選抜出場となれば、勢いで勝ち上がった今大会とは違い、神宮大会王者になったのだから良い戦いを見せてくれるだろう、勝ち上がってくれるだろうという周囲の期待に応えるためにはプレッシャーに打ち克たなければならない。来春、そのプレッシャーに打ち克ち、甲子園の舞台で古豪復活を印象付ける力強い戦いぶりを見せられるか、注目だ。
（文＝河嶋 宗一）
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