ゼンショーの藤原美明さん。1981年生まれ。趣味は料理。「大学時代は、生けすのある居酒屋で魚を捌いていました」。店員たちに「牛丼」を理解させるのが難しいという。「スライスした薄い肉を使うことも、それをご飯の上でタレとからめるという文化もない」。

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街の治安は悪く、従業員の士気は低く、家族も赴任に反対。「地球の裏側」でのビジネスは簡単ではない。次々と起きる想定外の事態にどう立ち向かうか。W杯に沸いたブラジルで奮闘する駐在員たちを追った――。

■物理学から牛丼へ9店舗が繁盛中

(コンビニはない。トイレにウォシュレットもついていない。治安も悪いし、とんでもないところに来たな)

2012年10月、ゼンショーの藤原美明がブラジルへ赴任したときの正直な感想だ。ゼンショーが展開する「すき家」は10年からブラジルへ進出していた。

物理学を専攻していた藤原は、大学卒業後に高校教師になるつもりだった。しかし、教員試験に落ち、ゼンショーに入った。大学時代に居酒屋で料理人としてアルバイトしており、食に興味があったのだ。

まずは福島県ですき家の店長から始め、その後、山形、埼玉などの地区責任者を経て、人事部に配属された。新人採用を担当しているとき、学生から「夢はなんですか?」と訊ねられたことがあった。その何気ない質問に、藤原は答えることができなかった。

入社直後はもう一度教員試験を受けるつもりだった。しかし、忙しさにかまけて、それは立ち消えになった。自分は何をしたいんだろう。そんな風に考えていたとき、海外研修の社内公募があった。ゼンショーは海外展開を進めている。そのグローバル事業に携わってみたいと、応募することにした。研修の一環として2週間ブラジルへ派遣された後、正式にブラジルへの赴任が決まった。

ブラジルのすき家は、牛肉、米を始め、基本的にブラジルの食材を使用している。ブラジルの肉牛は日本で使用しているアメリカ産とは種類も餌も違う。そのため、なかなか日本と同じ味を出すのは難しい。

さらに――。

「ブラジルの店員は時間にルーズ。サッカーの試合があったら来ない。病院で診断書をもらえば給料が保障されるため、風邪や腹痛を理由にすぐ休む」

ブラジルでは外食産業で一定以上の質の人間を集めるのは日本以上に難しい。

「大卒は絶対に来ない。それどころか、言葉は話せるけど文字が書けないという人もいる」

売り上げは悪くない。現在、ゼンショーはブラジルで9店舗の「すき家」を展開し、そのなかで繁盛店の売り上げは、日本の中でもトップクラスに入る。

日々、従業員、そして客と接していて、ブラジルの現実を痛切に感じることがあるという。

「貧乏な人は貧乏なまま、ずっと階級が固定している。その原因の一つは教育。まだ出来ていないんですけれど、いずれ従業員を手厚い待遇にして、彼らに色々な基本的なことを教えたい」

最後に彼は「やっぱりぼくは教師になりたかったもので」と照れ笑いした。

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【意外な現実】
・人材確保が日本以上に難しい
・牛肉、コメなど食材は現地で調達
・2010年から進出。現在9店舗

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(ノンフィクション作家 田崎健太=文 Sachiyuki Nishiyama=撮影)