「中華学校」に日本人児童が増えてるって本当? 通わせたい理由を親に聞いてみた

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今回のテーマは…

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<横浜のココがキニナル!>
横浜の中華学校に日本人児童の入学希望者が増えていると聞きましたが本当ですか?(まるさんのキニナル)

■横浜にある2校の中華学校

全国でも珍しく、市内に横浜中華学院(幼稚園〜高校)と横浜山手中華学校(幼稚園〜中学)の2校の中華学校を擁する横浜では、密かにそこへの入学を画策する日本人父母が以前からいたようだ。中国は国土の広さ、人口、何よりその国民性から今世紀中にはアメリカと比肩する経済大国へと成長することは言うまでもないだろう。

これに敏感な横浜周辺の父母の間で、将来わが子がビジネスにおいて有利となるには中国語が必須だと、中国語への関心が高まってのことだろうと想像できる。しかし本当に、純粋な日本人児童が中華学校に押し寄せるようなことになっているのだろうか。またその児童数はどれほどなのだろうか。実際に2校の中華学校へ伺い調査を進めることにする。

■「お受験」の舞台と化す横浜の中華学校

我々はまず、横浜中華学院へ向かい施恵珍校長と陳志文先生に話を伺った。

1897年開設の横浜中華学院は開校当初から華僑のための学校という風潮もあり、各学年に日本人の在籍者は少なく、せいぜい1人か2人だったという。ところが、10年ほど前から学校の教育方針に興味を持った日本人の入学希望者が増え始めたというのだ。

どちらかというと、横浜中華学院は入学希望者の国籍をあまり気にしないで受け入れていたため、純粋な日本人に対しても門戸を閉ざしていたわけではなかったという。すると入学希望者は急激に増加、6年前には1クラス38人の定員に60名以上の入学希望者が集まることになり、小学校で入学試験を行わざるをえなくなったというのだ。

この結果、現在小学校において純粋な日本人は33%(64人)にも達している。
具体的には日本国籍を持つ華人は全体の51%、台湾系の生徒は10.8%、大陸系は4.1%、その他1%(2010年5月当時)。純粋な日本人が3割を超していることに正直驚かざるをえなかった。

これでは中華学校とは名ばかりで、華人学校の日本人校になってしまうのではないかとも思えるほどだ。横浜中華学院側によると、現在も華人・華僑の入学を優先させているが、時代の流れに合わせて日本人児童の入学も歓迎しているということだ。

■横浜にいながらの国際人育成

日本人児童の入学希望増加に対して受け入れ体制はあるとしても、華人・華僑を優先しているということは、日本人児童にとって狭き門であることに間違いはない。それでも中華学校にわが子を入れたいと思う理由はどこにあるのだろうか。さらに、横浜中華学院の教育方針を伺ってみた。

同学院の教育方針は国際人の育成だという。

もともと華僑のための教育機関として設立された経緯があるため、アジア系であるならば国籍や出身に関してはおおらかな傾向があったようだ。そのため、学校全体が家族的な雰囲気で、日本の学校にみられるような陰湿ないじめは全くないらしい。

この‘国籍に対しておおらか’という校風がグローバル化の傾向に従って、注目されるようになり、中華文化を中心に国際人を育成しているという評価につながったのだ。
 

そして、その中心には語学教育がある。

学校側も入学希望者増の最も大きな要素は語学教育だと把握して、これを中心に世界に通用する国際人の養成を教育方針に据えたという。小学校で使用される教科書の言語の割合は中国語11:日本語4:英語1、それぞれ科目ごとに言語が決められ、中国語は台湾の教科書、日本語は日本の教科書が使用されている。

■国際人の進学先は日本の大学!?

しかし、中学、高校になるにしたがい、日本語の時間数が増えていく。これは、現地である日本の学校への進学を意識しているためだ。実際、国際人の育成という教育方針の割に、台湾を始め国外の大学進学は意外に少なく毎年数えるほどなのだ。

逆に、日本語と中国語の双方を習得させ、進学傾向も国内の学校が多いことが日本人児童も安心して預けられるという父母の信頼につながることになった。在学中は台湾との交換留学を勧め、進学は日本国内、という方針なのだ。事実、日本の大学への進学率は高い。例年の合格実績をみても、慶応、明治、法政、中央、明治学院、日本大学等名門校ばかりだ。

■中華学校に子供を通わせたい理由

横浜市内にお勤めの佐賀光宏さんは3歳と8歳のお嬢さん2人ともを横浜中華学院に通わせている。日本人の佐賀さんご夫妻にとって中華学校を知ることになったのは、たまたま仕事の関係でその教育方針に触れたからだという。

そして、子どもたちに“地元”となる場所を探していたこととも重なり、お祭りなど地域のつながりの強い街、中華街に根を下ろそうと考えたそうだ。

入学にあたり最も魅力を感じたのは、横浜中華学院の家族的で暖かい雰囲気だったという。また、中国語の言語と文化を、子どもの頃から身につける環境を与えたいという思いも強かったようだ。「英語ではなく?」という質問に対して、ご自身の経験上、英語よりも中国語の方がこの先身につける言語としては難しいだろうというお考えだった。

言語というのは文化を同時に教わることで身につくもので、学校環境として非常に魅力的だとも話してくれた。一方で、日本の文化や歴史の部分が足りなくなるのではないかという懸念もあるようで、どのように家庭の中で教えていこうかと思案されていた。

■横浜山手中華学校の場合

横浜にあるもう一つの中華学校はどうだろうか?
2010年4月にJR石川町駅前に新校舎を移転したばかりの横浜山手中華学校、潘民生校長に話を伺った。

潘校長は、日本人児童の入学希望が増えているのですか?という質問に対し、まずは現状を知ってほしいと、次のような話をされた。

現在日本の在日外国人数は200万人と言われるが、そのうち中国系は70万人。この数はすでに在日韓国・朝鮮人の数を上回り、在日外国人数第1位なのだという。そのうち義務教育の就学者数は約2万3千人。すでに日本国籍を取得している「華人」を加えるとさらに多くなるという。

しかし、日本には中華学校が横浜2校のほか東京、大阪、神戸の5校しかない。横浜山手中華学校はこの状況に配慮し、1クラス36名の募集だったものを3年前から2クラス72名に増やしたが、とても応えきれるものではないというのだ。そのような状況で、現在の純粋な日本人の就学割合は5%程度なのだという。
 

これは、先の横浜中華学院の33%と比べると非常に少ないように思うのだが、その理由は横浜山手中華学校の入学募集方法にある。小学一年生の募集要項を見ると、三段階方式で募集していることが分かる。第一段階、第二段階では、在日華僑・華人児童、もしくは在校生の弟妹、卒業生の子・孫のみが募集対象になる。

その後、定員の72名に達しなければ第三段階で日本人児童も応募できるという訳だ。
それでも、日本人児童の入学希望問い合わせや転入希望は増えていると潘校長は話してくれた。

■横浜山手中華学校の目指すバイリンガル教育

やはり、横浜山手中華学校に入学を希望する理由もその教育方針にあるのだろうか?引き続き潘校長に伺った。

最も大きな特徴は1998年にその方針を強化したバイリンガル教育だという。小学校から日中両言語によるネイティブ授業を行っているのだ。小学校の算数は中国語、中学校の数学は日本語、理科は日本語、日本の社会科は日本語、中国の社会科は中国語と科目によって言葉が使い分けられている。

そうすることで、中国語は中国語で考える、日本語は日本語で考える習慣がつくことになる。つまり、単なる言語教育ではなく思考方法も各言語で行わせることで、言語感覚を完全なものにしているのだ。

日常生活も論理的思考も知識の集積も、それぞれの言葉で、同時進行で身につけていけることが同校カリキュラムの独特なところ、また特別なところなのだ。それぞれの言語に対して、聞く、話す、読む、書くの4つの項目の習得をバランス良く目指そうというわけだ。

取材中、校長室の電話が鳴った。潘校長は「失礼」と断ってそれを取った。どうやら中国からの電話のようで、突然流暢な中国語で会話を始めた。それまでの日本語から驚くほど見事な使い分けが行われている。話し終えて、「私も日本で生まれ育った中国人です。中華学校を経て日本の大学に進学しました。

日常生活の中でも日本語、中国語の切り替えは全く不自由がありません。そんなバイリンガルを育成するのが私の学校なのです」と胸を張った。横浜山手中華学校は、東洋の言語を中心にした完璧なバイリンガル、トリリンガルを目指した学校なのだ。

■横浜山手中華学校の教育革新

潘校長のお話を伺い、世界的にも珍しい東洋言語でのバイリンガル教育を体系化しようという試みとその熱意の強さに、横浜山手中華学校の魅力があるのだと納得した。さらに、横浜山手中華学校ではバイリンガル教育の基礎に「能力開発教育」を取り入れているのだという。

能力開発教育とは、教師が従来の授業のように教えるという作業が全体の3分の1ほどで、残りは子供たち個々に習ったことを復唱させ、自分で考えさせるというものだ。生徒同士、時には教え合い、意見を交換し、自分の知識として定着させるという。

いわゆるゼミナールで見られる状態だ。教師は生徒個々のその時の能力に合わせ、考える力をつけさせながら知識の定着を図る。つまり、生徒個々の能力に制限をつけないということだ。さらに掲示教育などもより充実させ、子供たちの発意も促していこうとしている。

クラスの友達の作文や作品を見て、その違いを自分で感じ自身の能力を理解させる。それは、問題発見能力や問題解決能力を身につけるという教えにも通じるのだろう。
 

これらの授業は日本の学校ではなかなか実践できていない教育法だ。一部の私立学校で行われ、相当な成果を出しているが、公立学校では施設、教員数、教員個々の能力などの問題でなかなか実践出来ないでいる。

横浜山手中華学校はこのようなハイレベルで最先端な授業をこれから実践していこうというのだ。
生徒たちの学力の動向がますます注目されることになるだろう。

■教育という視点で見る中国との関わり

現在のところ、台湾系か大陸系かという違いの両校の校風だが、今後は日本人を含む外国人生徒の割合が校風に大きな違いをもたらすように感じる。前出した横浜中華学院は、教室数の関係で現状では募集人数を増やせないようだが、1クラス36人定員を将来的には2クラス72人に増やし、校舎の増改築も視野に入れているという。

横浜の中華学校の日本人児童数は確実に増えている。それは中国の国際競争力の強化に注目した日本人の単なる先物買いだけが理由ではなく、グローバル化する世界に目を向けた中華学校独自の教育方針に魅力を感じたからなのだろう。

横浜にある2校の中華学校はともに、中国と日本のネイティブを並列的に学習するカリキュラムを持ち、これに英語を加えたトリリンガル教育においてはほかの外国人学校に例を見ない画期的な教育システムを持った学校であることが今回の取材で明らかになった。

また、一般的なインターナショナルスクールが年間150万円ほど、日本の私立中学が平均45万円ほどの費用が必要といわれるのに対して、両校とも授業料は月換算2万円台。年間30万円程度の費用で通学が可能なのだ。100年を超える中華学校の歴史からOBの援助があると学校側はともに語るが、学校経営に関しても日本人に好感が持たれていることは間違いないだろう。

横浜は古くから華人学校を持つ街だ。そして古くから中華文化が根付いている街でもある。今後中国の国際的な影響力が増すにつれ日本人児童の入学希望はさらに増していくだろう。横浜にある2つの中華学校はそれぞれの校風に合わせて、懸命にそのニーズに応えようとしている。これは横浜という街が、古くから華人を受け入れ、ともに発展してきた証なのではないだろうか。

横浜は教育という点からも中国、台湾との交流を深くし、今後さらに発展していくことだろう。
今後も両校の日本人との関わりが注目される。

※本記事は2010年12月の「はまれぽ」記事を再掲載したものです。