智辯学園vs天理
平日にもかかわらず立ち見客の他、通路や階段に座り込む人が溢れた佐藤薬品スタジアム。天理対智辯学園という何十年も続くライバル校同士の対戦が奈良の高校野球ファンを惹きつけた。
初回の攻撃を3人で終えた天理の先発マウンドに上がったのは、背番号20の1年生左腕・森浦 大輔（1年）だった。
森浦は智辯学園の1番・大西 涼太（3年）に対し、ひっかかった明らかなボールが続きいきなり3ボール。その後、見逃しとファールでフルカウントとするが結局フォアボール。先頭打者を歩かせてしまうと2番・吉田 高彰（2年）にバントを決められ得点圏にランナーを背負いクリーンアップとの対戦を迎える。
注目のスラッガーである智辯学園の3番・岡本 和真（3年）に対しては、変化球から入るがストライクが取れない。変化球でボール、ストレートで空振り、変化球でボールとカウントを2ボール1ストライクと悪くすると、ストレートをレフト前に弾き返される。
一死一、三塁で迎えた4番・吉岡 郁哉（3年）には1ボール2ストライクと追い込みながらも変化球が甘く入り、ライト前に先制タイムリーを浴びる。
主軸に対しては変化球から入る。5番・岩田 拓（3年）は岡本と吉田に対する配球を見てそう読んでいたのか、初球の変化球を振りぬきセンターオーバーの2点タイムリーツーベースを放つ。
岡本にヒットを打たれはしたが、森浦のストレートには力があった。
その証拠に吉田は待ち球のストレートをファールにしていたし、6番・�皺� 佑一（3年）も2ボール1ストライクと打者有利のカウントからストレートを叩くが詰まり気味のセンターフライ。力勝負では負けていないどころか、分があるようにすら見えたが、定まり切らない変化球のコントロールが全てだった。
智辯学園はこの回、7番・廣岡 大志（2年）のタイムリーでも1点を加え4得点。2季連続の甲子園出場を狙う強力打線が天理の1年生に強烈な先制パンチを浴びせた。
天理は2回の攻撃で二死満塁のチャンスを作り森浦に打順が回ると、早くも今中祥矢（3年）を代打に送る。1点でも返しておきたいところだったが、ここは尾田 恭平（3年）と吉田の智辯学園バッテリーが1枚上手だった。
1ボールからストレートをファールが2球続くと、最後は外の変化球で空振り三振。左腕・尾田の逃げながら落ちる球に右打者・今中のバットは空を切った。シンカーかチェンジアップ系か、おそらくここまでの26球では1球も投げずに隠しておいたバッテリーにとっての勝負球だった。
森浦の後を受けマウンドに上がったのは同じく左腕の齋藤佑羽（2年）。球威は森浦ほどではないものの、まとまったピッチングで2〜4回を無失点に抑える。
智辯学園・尾田も気持ちの込もったストレートを投げ込み、5回に背負った二死満塁のピンチも切り抜ける。2回以降互いに0点が続いていた試合を3巡目に入った智辯学園打線が動かす。
5回裏、1番から始まる攻撃で大西が右中間へのスリーベースヒットでチャンスを作ると、吉田のカウントが2ボールとウエスト出来なくなったところでスクイズ。これが野手選択となり5点目を奪うと、吉田を一塁に置き岡本がレフトに高校通算73号となる場外弾を放つ。
尾田が6回表も二死満塁のピンチを無失点に抑えるとその裏、吉田のタイムリーで1点を追加。初回に4点を先制し中盤でも4点の中押し点を挙げた。
天理の7回の攻撃は、1番から始まる好打順。1番・貞光 広登（2年）、2番・小北大成（3年）がヒットとデッドボールで無死一、二塁とチャンスメイクすると、8点差はあったが天理ベンチの期待は高まる。しかし頼みの主軸が倒れ無得点で攻撃終了。終盤の山を越え、智辯学園のスタンドは大いに沸いた。
しかしその後、さらにスタンドを沸かせたのは天理だった。
7回裏、背番号1を背負う前田直哉（3年）が智辯学園の攻撃を3人で抑えると、8回表に二死満塁のフルカウントから貞光が押し出しのフォアボールを選ぶ。4度目の二死満塁でようやく初得点を挙げると、続く小北が初球を2点タイムリー。
終盤になってようやく点差を詰めると、9回は先頭の4番・大橋 将（3年）がレフトへホームラン。5番・冨木崚雅（2年）がライト前ヒットでつなぐと6番・坂口漠弥（2年）もレフトへ豪快な一発を放つ。
準決勝までの4試合で8本のアーチを描いた強力打線が最終回に見せた底力。押せ押せムードで点差は2点、下位打線がチャンスを作り上位につなげば何が起こっても不思議ではなかったが、7回からマウンドに上がっていた智辯学園の背番号1・浦中 拓也（3年）が踏ん張りゲームセット。天理は智辯学園を上回る13本のヒットを放ったが、6回までに3度の満塁機を逃したことが響き、あと1歩及ばなかった。
決勝戦に相応しいハイレベルな打撃戦を制し、3年ぶり17度目の優勝を飾ったのは智辯学園。優勝監督インタビューで小坂監督は「3年前はベスト8で止まったので今度はその上に行きたい」と甲子園での目標を掲げた。
（文＝小中 翔太）
【インタビュー】第179回 智辯学園高等学校 岡本 和真選手【インタビュー】第180回 智辯学園高等学校 尾田 恭平 投手
【野球部訪問：第124回 智辯学園高等学校（奈良）】
