ドワンゴが導入した「入社試験の受験料徴収」が就活の常識になる?
「もう100社、エントリーした?」
今頃の就活生の合言葉である。12月1日に2015年春卒業の学生の就職活動が解禁となった。学生は内定をもらうため、とりあえず就活サイトで一社でも多くエントリーをし、説明会に行く。しかし、関わる企業が多ければ、それだけ思い入れも薄くなる。
そんな就活事情のなか、「ニコニコ動画」で知られるIT企業、ドワンゴが打ち出した入社試験が物議を醸している。
なんと、2525(ニコニコ)円の受験料を取るというのだ。ただし、徴収の対象となるのは東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の就活生だけ。受験料もポケットに入れず、全額寄付するという。
それにしても2525円。けっこうな額だ。自分の志望する企業がこのような制度を導入したら、どう思うか就活生たちに聞いた。
「タダで受験できるから、いろいろな会社にエントリーして自分を試せるわけです。お金を払うとなるとエントリー数が制限され、その分チャンスが減ってしまうと思う」(地方国立大・女子)
「そうでなくても就活にはお金がかかるのに、受験料でさらに必要になるのはもちろん大反対。そもそも会社の人事部はなんのためにあるのって感じ。学生のやる気や適性を大量のエントリーシートから見つけるのが仕事なのに。正直言って、企業イメージは悪くなりますよ」(中堅私大・女子)
大学側も困惑。東洋大学キャリアセンター部長の深野弘美氏はこう語る。
「決して歓迎とは口にできません。正規雇用を望む学生側に対して、企業側は厳選採用の流れ。そのため、優秀な学生には複数内定が出るけれど、職を得られず卒業していく学生も少なからずいる。
正社員で働ける道があるなら、幅広くエントリーせざるを得ない状況があるのは事実。その後、エントリーシートを手書きでじっくり書き上げることが、学生にとっては企業に向き合う大切なプロセスになっている点も見逃せません。
エントリーがしにくくなるこの決定がひとつの指標になり、ほかの企業に広がるようなことになれば、学生たちには気の毒ですね」
その一方で、人材コンサルタントの常見陽平氏はこう述べる。
「まず、過去に『ニート採用』など話題性をもった採用を行なってきたドワンゴなので、今回もその一環という部分もあるでしょう。しかし、とにかく数多くエントリーしておくという現在の“リクナビ型就活”の場合、人気企業は数万人の応募があり、その対応に追われます。
アウトソーシング会社に頼む企業もあり、費用はバカになりません。そして、ウェブ系企業はプログラミングのスキルやビジネスセンスを持った方を採用する傾向が強い。
ドワンゴの狙いは、この膨れ上がった応募者の母集団を受験料徴収によって限定し、本当にやる気のある人材だけを集め、採用したいということなのでしょう。
本気の学生だけをいかに残すかというのはどの企業でも課題です。今回のお金を取る以外のやり方でハードルを上げる手法はすでに実践されています。私は今回の決定も“リクナビ型就活”の弊害を解消するための手段のひとつだと見ています」
確かに今の就活は異常だ。ネットで手軽に入社試験にエントリーできるようになったため、100社以上の企業を受験する。
これでは学生も本当に働きたい会社を選べないし、企業側も採用に労力とコストがかかりすぎ、双方が疲れ切ってしまう。
前出の深野氏もこう認める。
「就職情報サイトなどからのエントリーを中心に、いわゆる“本気じゃない学生”が相当数おり、例えば2000人エントリーしていても、いざ採用を始めてみたら説明会には800人しか来社しなかったというケースがざらにあると聞いています。
学生に自分の興味や関心を自覚させ、焦点を絞った就活をさせるのが私たちの役目。この決断の原因の一端は、大学側にもあるかもしれません」
ある私大の男子就活生は、
「受験料を取る? う〜ん、もし本当にその企業で働きたいのなら、こちらも2525円を払うくらいの誠意を見せてもいいと思いますけど。それにまじめに企業研究に取り組むいいきっかけになるような気もしますね」ともらす。