「市川おもちゃ劇団」の座長・市川おもちゃさんと、小恵子ちゃん

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ここ3カ月、数人から「面白いから大衆演劇を見に行こう! 」という誘いを受けていた。しかし、お年寄りが見るものだという思い込みから「もしや、大阪で流行ってる? 」と感じつつもためらっていた。だが、中には映画を見るような感覚で来場する高校生もいるという。ほんまかいな!? ということで、「大衆演劇『公式』総合情報サイト」を運営する、浜松総合企画株式会社の塩崎さんに話を聞くことにした。

大衆演劇ってなんぞや?
そもそも大衆演劇って、いったいどんなものなのだろうか。

「歌舞伎から枝分かれした大衆演劇という文化。何世代も続く歴史の深い劇団から、最近旗揚げした劇団までさまざまです。劇団員一行が1カ月間に渡り、お客様との触れ合いを重視した『人情芝居・喜劇・舞踊・女形・歌謡ショー』を公演します」

現在、全国には130以上もの劇団があり、20〜30代の座長が看板を努めることが多いという。また、全国には約40カ所の公演先があり、大衆演劇専用の劇場や、健康ランド、ホテルなどで公演する。劇団は1カ月間、その地域に滞在しほぼ休みなく公演を行う。

「近畿・中国・四国地方で年間を通じて公演する劇団もあれば、関東・中部・関西・九州と全国を1年かけて旅する劇団も。公演先もお客様を飽きさせないよう、様々な劇団を公演させるため、一つの劇団が次に帰ってくるのは1年以上先となるのが通常です」

なるほど、あるおばさまが「追いかけている劇団に会えるのは半年後……」と寂しそうに話していた理由が分かった。

大衆演劇の魅力
「大衆演劇の魅力の一つは、芝居の面白さ。時代劇は老若男女に受け入れられ、毎日、演目が替わるのが特徴で演者も必死です。その必死さが観客の皆さまにも伝わり芝居に引き込まれるのだと思います」と塩崎さん。

ほとんどのショーは約3時間(休憩含む)。笑いあり涙ありの芝居、演歌や流行の歌謡曲に合わせて役者らが踊りと歌を見せる舞踊・歌謡ショーをセットにして公演しているところが多いそうだ。

「舞踊ショーは、先の芝居で三枚目や爺役をしていた演者が、テンポの良い派手な音楽で登場するなど、そのギャップに魅了されます。また、近年では各劇団が照明機材を増やし、独自の舞台照明を駆使していて、曲に合わせて演出を行います。衣装は、何百万円もする着物を身にまとい登場しますので、まさに豪華絢爛です! 」

ファンが、演者の胸元にお花(現金)を付けるのを見るのも大衆演劇の醍醐味だ。「基本、舞踊ショーの時に付ける方が良いですが決まりはありません。中には楽屋見舞いなどを楽屋口から差し入れる方もおられます」。男性客は女優にお花を付ける時、胸元に差し込むのはタブーだそうなので気をつけよう。

大衆演劇の現在
ここ10年、新規で劇場を起ち上げる人が増えたというが、大阪の公演先は18箇所あり全国で一番多い。今まで近畿地方では1人のオーナーが一つの劇場を経営するのが一般的だったが、現在は1人のオーナーが複数の劇場を運営するというスタイルが増えているという。

「夢のない話で恐縮ですが、劇場の場合、劇団の出演料が売上の歩合制なので劇団、劇場ともに頑張った分だけ実入りとなる形式が、今の不況という時代にマッチしているのかもしれませんね」

大衆演劇に足を運ぶ人は、全国比率でも大阪が一番多いそうだ。しかし、人気ゆえに起こる問題もある。

「劇場数が増え来場者のバランスが崩れつつあるのも現状です。大型の劇場が成り立つためには、少なからず小規模の劇場への影響が出ます。長く大衆演劇を支えてきた小規模の劇場をどう守っていくかが今後の課題となるでしょう」

大衆演劇はこう見る!
劇団も演目もたくさんありすぎて、どれを見たらいいか分からない……という私のような初心者に向けて、塩崎さんからのアドバイス。まずは、近くの公演先へ行き、一度見てみること。「座長がイケメンだから」という人もいれば、「芝居がうまい」「苦労人だから」など人によって好みはそれぞれなので、見てから判断しよう。また、客席が床座りなのかイスなのかも大切なポイント。ショーは約2時間〜3時間と長丁場だからだ。

「芝居は同じ演目でも、劇団員の構成や配役などによって見え方が違ってきます。『瞼の母』など古典的な芝居の演目を見るのか、特別狂言などの特別な演目を見るのか。初めて見た演目が自分には合わなかったという場合もあるので、一度と言わず2〜3度はみてお気に入りの劇団を見つけてください」

また、開演1時間前には公演先へ到着するのがベストだという。「大衆演劇の会場は、様々な環境の方が集まる一つのコミュニティー。常連のお客様はすでに席を陣取っていると思いますので、劇団の見所などを聞いてみるのも楽しいかもしれません」

映画をみる感覚の入場料で顔見知りなった人と会話をし、開演時間になったら芝居、舞踊ショーを楽しむ。「特に観劇を目的としなくても、人とのふれあいを求めて会場へ来られる方もいます。親子ほど年の離れた二人が、場内で知り合い観劇仲間になった方も。そういう関係が生まれるのも大衆演劇のなせる技ですね」

また、大阪の劇団の良さと言えば、「ノリ・ツッコミ」だそう。「芝居の中でのアドリブは最高に面白いですよ。関西人は普通にやれますから得ですね! 関東は『粋』、九州は『これでもか』という気質があります」。全国からやってくる劇団を選ぶ時の参考にしたい。

塩崎さんのアドバイスを参考に、初観劇!
さて、塩崎さんから聞いたたくさんのアドバイスを参考に、いよいよ初観劇。
まず、1時間前に劇場へ足を運ぶ。近くのおば様たちが一人で来た私を見て「この座長は何歳で舞台を踏んで……」「あの人はなかなかの苦労人」といった具合に、ファンならではのマニアックな情報を教えてくれた。そして、おばさまから「アメちゃん」をいただき、観劇ムードを高めた。

この日、私が見たのは「市川おもちゃ劇団」。 特別ゲストと繰り広げられるアドリブ合戦、時事ネタを織り込む台詞など、ライブならではの楽しみ方がそこにある。笑いあり涙ありの芝居……面白い!

そして、座長が見えを切る時に贔屓客らしい人から絶妙なタイミングでかかる掛け声は、おおいに芝居を盛り上げてくれた。豪華な舞踊ショーは、座長・市川おもちゃさんをはじめ劇団員の芸と所作にうっとり……。そして、4歳の小恵子ちゃんが舞踊ショーで扇子を振るたびに「可愛い」と歓声が起きた。

劇団員の芸とそれを支える観客。惚れ惚れしてしまう美しさの中、慣れた手つきで恒例の「お花」を付けるお客さん。会場は一体となり、3時間のショーはあっという間に幕を閉じた。終了後は、劇団の皆さんの送り出しがあり、直接座長と話すこともできて親近感がわく。観客と劇団員の距離が近くて最後には家族のような気持ちになり、すっかり応援モード。なるほど、ハマりそう!

また、塩崎さんによると、観客の年齢層の50%は50〜60代が中心だが、約10%は高校生や20代のファンだそうだ。私は一人で行ったが、サラリーマンや20代の女性もいた。歌謡ショーの時は、ペンライトを振っている人もいてアイドルのコンサートさながら。休憩に入るとすかさず腹ごしらえをするなど、各々の観劇スタイルがあるようで、観客ウォッチングも面白い。

最後に
「大衆演劇とは決して絶やしてはいけない、大衆に一番近い文化です。私の父母や知り合いのおばあちゃんやおじいちゃんが、身内の手を借りず公共交通を利用して公演先まで行き、顔見知りになった人たちと楽しく会話をする。そして観劇の行き帰りに美味しいものを食べ帰宅し、『今日はこんな芝居をみてきたよ』と家族で話せるのが大衆演劇。是非、生の舞台をご覧ください。感動と感激が待っています」
と、塩崎さんは胸を張る。

劇団の皆さんから元気をもらい、観客自身も盛り上がり自らパワーを生み出す。観劇後はまた見てみたくなる。奥深い大衆演劇の世界、一度体験してみてください。
(山下敦子)