「生しょうゆ」と「濃口しょうゆ」。香りを比較しました。

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以前、コネタで“醤油のまち”千葉県野田市を取材したことがある。キッコーマンの工場や、現地特産品であるしょうゆを駆使したメニューが豊富なレストラン……。まさに、しょうゆ尽くしのエリアであった。
あの時、骨の髄から痛感したものです。やはり日本人のDNAに、「しょうゆ」はしっかり組み込まれている、と。……とは言ったものの、しょうゆに関する深い知識を持っているわけでもなく。何しろ、身近にある当たり前過ぎな存在だったもんで。

じゃあ、そろそろ勉強してみようかしら? というわけで、出席してきました! 11月12日、キッコーマンは「しょうゆの調理効果を科学する」をテーマに掲げ、メディア向けにゼミナールを開催してくれたのです。

ところで、しょうゆってどうして魅力的だと思います? よく考えてください、しょうゆには3つの特徴があるんです。……わかりましたでしょうか? 正解は「色」、「味」、「香り」。この辺が、他の調味料より秀でているポイント。

そんなしょうゆを調理に活用すると、どういう事が起こるだろう? パッと思いつくのは、「香り」の変化ですよね。ここで、科学的なアプローチに入ります。しょうゆの主な成分は、実は「アミノ酸」と「ブドウ糖」。そして、アミノ酸の「アミノ基」とブドウ糖の「カルボニル基」は反応しやすい性質があるらしく、加熱によって様々な色や香りが出てきます。
さあ、覚えて帰ってください。しょうゆを加熱すると、アミノ酸とブドウ糖の2つが結合する「アミノカルボニル反応」が起こります。これが、調理時に起こるしょうゆのいい香りの要因。

続いて「生しょうゆ」について。生しょうゆは、「つけ」「かけ」のみに使うものと思われがちです。確かに火入れされていない状態のものなので、無理もない。しかし加熱すれば、甘く香ばしい香りが引き立つ性質を発揮します!
ここで、生しょうゆの特徴について確認しましょう。まず、色は「鮮やかな赤」。味は「塩味まろやか、さらりとした旨味」。香りは「穏やかな香り」。
……と言葉で聞かされても、いまいちグッと来ない。そこで当日は、己の鼻で確認させてもらいました。「生しょうゆ」と「濃口しょうゆ」を加熱して常温に戻したものの香りを嗅がせてもらったのです。結果、「生しょうゆ」の方もアッサリながら非常にしょうゆらしい香りが漂ってきましたよ! 奥ゆかしいし、「こっちの方が好み」と言う人もいるんじゃないかな?

さて。この「生しょうゆ」に火入れをすると、成分的にはどんな変化が起こるか? まず火入れしていない状態の香りの種類を分類したら、「甘い」と「香ばしい」の数値は通常の「火入れしょうゆ」より「生しょうゆ」の方が高く出ました。
そして、そこに加熱をすると「火入れしょうゆ」は香りが飛んでしまい、数値が低くなっていることがわかります。一方の加熱した「生しょうゆ」は、香りの数値が上昇。要するに、調理をすると新しい香りの成分ができているという結論になります。その香りにしても、特に「甘い」要素が強いみたい。
そこで同社は「生しょうゆ」と「火入れしょうゆ」を用い「豚の生姜焼き」を調理、消費者に「どちらが好ましいか?」と質問しています。結果、「生しょうゆの方が美味しい」と答えた人が“火入れしょうゆ派”より多いことが明らかに。
結論は「生しょうゆは火入れしょうゆより“甘い”香りが強く、それが残る」でした。

続いて、話題をガラッと変えます。キッコーマンでは「しょうゆ:3、みりん:2、砂糖:1」で作る“てりやきのタレ”(以下「調味液」)の活用を推奨中。この調味液を調理に活用すると、香りにどんな変化が起こるか? これを、今度は純粋なしょうゆと比較しました。結果、しょうゆを加熱すると「甘い」香りは減退するのに、調味液は「甘い」と「香ばしい」の香りがアップ!
その理由は、やはり「アミノカルボニル反応」にあるようです。というのも、みりんにはかなりの割合の「ブドウ糖」が含まれている。そして、同じ「甘い」にしても砂糖にはブドウ糖ではなく「ショ糖」が含まれているそう。ということは、砂糖では「アミノカルボニル反応」が起こらない。「甘み」だけでなく「香り」や「色」を付けたい時、みりんを用いた調理液は非常に有効なのです。
ここで、もう一つの実験を。「火入れしょうゆ、ブドウ糖水溶液、蒸留水」を混ぜたものと「調理液」を加熱し、香りを比較測定。すると、両者に数値の違いがほとんど見られなかったのです。やはり、調理液で「香り」に作用するのは「ブドウ糖」のようです。……ということは、みりんが「香り」に対して非常に重要な役割を果たしていることがわかります。

では、香りつながりで「消臭効果」について。「しょうゆには肉・魚の嫌な臭いを消す効果がある」と言い伝えられてますが、それを科学的に実証します。
ここで、想像してください。調理をしていない生の牛肉を焼いた際、脂の嫌な臭いがしませんか? そこで、当日は2種類の肉パテを用意してもらいました。一方はしょうゆに含まれる分の「塩+アルコール」を添加したもの、もう一方は「しょうゆ(濃口しょうゆ)」を添加したもの。両者を嗅いでみると、違いは明らかでした。後者の肉パテ、明らかにマスキングされているんです! 単にしょうゆの香りが上書きされたということじゃなく、きちんと消臭効果を発揮している。

ところで、肉の嫌な臭いの正体って何だと思います? 例えば冷凍したお肉を解凍したり加熱調理すると、溶けてきた段階で脂の妙な香りがしてきますよね。これは脂の中の「不飽和脂肪酸」と言われるものが酸化し、アルデビドやアルコールが出てくることが原因。ここにしょうゆを活用すると、どうなるか? もう、明らかに酸化臭が低くなるんです。そして酸化を抑えると、嫌な臭いの成分も激減する!
もう、疑いようがありませんね。「しょうゆの中には酸化を抑える化合物が含まれており、酸化を抑えることで嫌な臭いが減っていく」ことが科学的に実証されました。例えばひき肉の冷凍中に酸化が起こりますが、しょうゆで味付けをし、その後に冷凍すれば嫌な臭いの対策法になるわけです。

最後に、あまりにも当たり前過ぎる現象にメスを。「豆腐や刺し身をしょうゆに付けて食べると、どうして美味しいのか?」。
ここで比較するは、塩に付ける食べ方。では両者の違いを、ズバリ言いましょう。塩で刺身を食べるのもアリだけど、しょうゆの方には「減塩効果」がある!
……もう少し、わかりやすく説明しましょうかね。塩で食べた時に「一番美味しい」と感じる食塩の量と、しょうゆで食べて「一番美味しい」と思うしょうゆの量。両者を比較すると、しょうゆで食べた方が塩分は少量で済むんです。
なぜなのか? それは、しょうゆに「味」だけでなく「色」と「香り」の要素が備わっているから。それらを総合的に判断し、「美味しい!」と感じている。よって、しょうゆに付けた食べ方だと減塩効果が得られるわけです。
また豆腐を食べる場合、豆腐特有の“えぐみ”(イソフラボンなどによるもの)をしょうゆがマスキングしてくれる。やはり相性的に、豆腐に対するしょうゆはバッチリな調味料のようです。

以下、しょうゆの調理効果について列挙していきましょう!
・油っぽさ抑制効果(チャーハンを食べる時にしょうゆを入れると、油っぽさが減るという実験結果が得られている)
・相乗効果(しょうゆにはグルタミン酸が多く含まれているが、キノコと一緒に食べると核酸との相乗効果で旨みがアップ)
・緩衝作用(極端にpHが低い酢の物を食べる際、しょうゆをかけると味がマイルドになる。しょうゆ中の有機酸による効果)
・微生物の静菌・殺菌(しょうゆに含まれる食塩・有機酸、アルコールなどの効果。微生物が気になる食品でも、漬けにすれば静菌の効果を発揮する)
・対比効果(しょうゆを足すことで、真逆であるはずの甘みを引き立たせることがある。例としては、アイスクリームへのチョイ足し)

というわけで、結論。「しょうゆは味だけでなく、色や香りも備わった“万能調味料”と言える」
「しょうゆに関する色々を科学的な視点で捕まえ、より納得のいく説明ができるよう、今後もこのような研究を続けていきたいと思います」(キッコーマン基盤研究第2部長 農学博士・小幡氏)

日々、我々が何気なく行っていたしょうゆの活用法。意外にも、科学的なアプローチが可能だったみたいです!
(寺西ジャジューカ)