TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉で注目が集まっているのは、農業などの“聖域”ばかりだ。しかし、アメリカの本当の狙いは農作物の関税撤廃ではなく、日本の「非関税障壁」を壊すことにあると指摘する専門家もいる。

非関税障壁とは、関税以外の輸入数制限や国内の基準などで輸入を抑える仕組みやシステム。食品や建築などの安全基準、税制や補助金、知的財産権保護や薬品承認のルールなどがこれに当たる。

アメリカが非関税障壁の破壊を目論んでいることを示すのが、日米両国のTPP事前協議での合意を明記した両政府間の「往復書簡」だ。

そこには除去すべき非関税障壁として、(1)保険、(2)透明性・貿易円滑化、(3)投資、(4)知的財産権、(5)規格基準、(6)政府調達、(7)競争政策、(8)急送便、(9)衛生植物検疫措置の9つの分野がリストアップされている。

TPP交渉のステークホルダー(利害関係者)会合に参加したアジア太平洋資料センターの内田聖子事務局長が言う。

「あろうことか、安倍政権はアメリカにTPP交渉と並行して、この9分野の非関税障壁措置について、日米2国間協議を行ない、TPP交渉妥結までにまとめると約束させられてしまったのです。しかも、対象部門を今後増やせるという条項もねじ込まれてしまった。このままではTPP交渉を待つまでもなく、日本は弱肉強食の米国流ルールを一方的に押しつけられかねません」

アメリカが壊したい9つの非関税障壁のうち、具体的な動きが出ているのが保険だ。『エコノミストは信用できるか』『TPP 黒い条約』(共著)などの著書があるジャーナリストの東谷暁氏が説明する。

「その筆頭は保険分野です。全米サービス連合会という保険ビジネスの業界団体があって、TPP交渉でも活発なロビイングをしています。この保険分野で日本は交渉に挑むどころか、すでにアメリカに膝を屈しつつあります。それがつい先日発表された、米保険大手のアフラック(アメリカンファミリー)のがん保険を日本郵政下の郵便局2万局で販売するという合意です」

もともとアメリカは日本郵政株を日本政府が100%保有していることを取り上げ、「民業を圧迫している」と批判してきた。そのため、怯えた日本は外資系にがんや介護などの保険商品を認める一方で、国内生保には2000年まで販売を制限してきた。その結果、がん保険はアフラックと米メットライフアリコの2社が国内シェアの8割を占めるまでになってしまった。

「事前協議では米系保険会社に配慮して、かんぽ生命の新規商品発売も中止になりました。そこにさらに2万の郵便局がアフラックのがん保険を販売するというのです。これでは日本郵政アフラックの下請けも同然でしょう。がん保険に関しては、日本の市場はすっかりアメリカに制圧されてしまった格好ですね」(経産省関係者)

次に狙われるのは投資か、知的財産か、急送便か……、アメリカの手はすでに伸びている。