女装した三人の少年。三人とも、かわいい。けれども彼らが女装する理由は、三人バラバラだ。ふみふみこ『ぼくらのへんたい』(徳間書店)は女装少年達の心の淀みや戦いの日々を描いたマンガ。男の娘ブームの今読んでおきたい一冊。

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最近すっかり「女装少年」「男の娘」という単語も定着しましたね。テレビでもたまに見るようになりました。
文字の通り、女装した少年のことです。「男の娘」になると、自主的に女装をする、という意味合いが強くなりますが、明確な定義はありません。
この「男の娘」現象は、アニメ・マンガのみならず、現実にも増えつつあります。実際びっくりするほどかわいい男の娘はたくさんいます。
いるんだよまじで。

しかし、「それってオカマじゃないの?」と言われると言葉に窮します。
ええそうです。少年たちを中心に、今風に言い換えただけです。
中性的な少年時代はいいけれども、年をとって、体が男性的になってきたらどうすればいいんだろう。
「マジでキモイなお前ら」
こんなことを言われたら、心はギュっとなってしまいます。
そうなのかな、それが、普通の反応なのかな。
でも、女装をするのには、思い切って壁を飛び越えないといけない。
きっかけが、理由が、あるんだ。

ふみふみこの『ぼくらのへんたい』は、3人の女装少年達が、それぞれの理由で女装をし、オフ会で出会う様子を描いた作品です。
3人とも、町中を歩いても全然気づかないくらい女の子に見える女装が似合う少年。
しかし、きっかけがあまりにもバラバラ。境遇もバラバラ。
ただし、女装をするのが当たり前になるくらいに心が追い詰められているのは3人とも共通です。
先ほどの「マジでキモイな」も、女装した少年から出た言葉。
なぜ自分も女装しているのに「キモイな」なの? なぜそんな自分で自分を傷つけるの……?

ハンドルネーム「まりか」こと青木裕太は、女の子になりたい男の子。
物心ついたときから自分を女だと思い、女の子になるのが当たり前だと思っていました。
しかし、自分は女の子にはなれなかった。お姫様じゃなかった。
キモイって言われて、ショックだった。心が痛かった。
でも、女の子になりたいって気持ちは変わらない。

ハンドルネーム「ユイ」こと木島亮太は、普段は少し粗雑でやる気のない少年。
彼が女装をすると、それはもうかわいらしいモデルのような少女に早変わりします。
彼は女装なんてしたくない。男でありたい。
けれど家では「唯ちゃん」と呼ばれる。全ては姉が亡くなってから変わってしまった。
女装はしている。でもオレはお前らとは違う。全然違うんだ。

ハンドルネーム「パロウ」こと田村修が好きになったのは、男の先輩。憧れの先輩だった。
文化祭の日、悪ノリでクラスでやった女装メイド喫茶。
先輩にかわいいと言われ、そのまま告白してしまった。
ホモじゃないから女装ならいいよ、と彼は言う。
体も重ねたけれど、ふとした瞬間思いは冷めて、女装だけが残った。

三者三様、誰一人としてうまくいきません。
女装少年いいじゃない、と励ます作品や、かわいいよねーと萌える作品はたくさんあります。
しかしこの作品はタイトルの通り「へんたい」。
それはアブノーマルの方です。彼らは思春期の中で、この女装という茨道を歩いて何が見つかるかもわからないまま、心の傷を抱えています。
「普通」がなにかはわからないけど、「普通」ではないから、気が付けば3人集まっている。

同時にこの「変態」は、蝶がサナギになって羽化する変態でもあります。
大人になる手前。どの道を選択していくかもわからないまま、彼らは言葉に出来ないモヤモヤの中をさまよいます。
これから、変わるのはわかっている。その一歩手前。

アニメにもなった志村貴子の長編『放浪息子』のネタも混ぜ込みつつ、オフ会で会った3人の女装少年。
その姿を、丁寧に、極めて感覚的な描写で描き上げます。

ふみふみこの絵は非常に線が女性の柔らかみを表現することに長けています。
そのラインで三人の少年を描くんです。
出てくる三人の姿が本当にかわいらしくて。萌えるかどうかで言えば、相当に萌えます。
けれどもそれでいいのか?という問いかけもされる恐ろしい作品。
「今までずっとひとりでがんばってきたんだわ」
裕太は二人を見ながら、考えます。
女装をすることで孤独になり、女装をすることで出会った。

女装をするのは、理由がある。
「キモイ」と感じるかもしれないし「かわいい」というかもしれない。
どちらを感じても、相手のことだから仕方ない。そんなのは、いいんだ。
少年期に女装という壁を超えた彼らが抱える淀みと、あこがれと、ひとりぼっちだった戦いが集まる様が丹念に描かれます。

この漫画が発売されたのは少し前の8月中です。
なぜあえて今この本を取り上げたかというと、丁度ここ昨今、女装少年をテーマにしたアンソロジーや雑誌、また「男の娘」の語が定着してから描かれた作品のストックがたまってきており、単行本が続々と出ているからです。
ぼくも女装少年ものは大好きでよく読みます。面白かったりかわいかったりするのですが、それとは別に普遍的な、少年の心の揺らぎは存在します。
この作品に描かれているその揺らぎをあえて今読んだ上で、数々の女装少年マンガ、男の娘マンガを読むと、味わいが変わってきます。

あー。辛くて吐きそう。
(たまごまご)