「バイオハザードV リトリビューション」2012年9月14日から丸の内ピカデリーほか全国にて公開。監督/ポール・W・S・アンダーソン、出演/ミラ・ジョヴォヴィッチ、ミシェル・ロドリゲス、シエンナ・ギロリー、リー・ビンビン、中島美嘉。

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7月14日から全国公開が始まった「バイオハザードV リトリビューション」が大ヒットしている。公開後の4日間で約82万人を動員して興行収入は12億円を突破、初速としては「メン・イン・ブラック3」、「プロメテウス」、「アメイジング・スパイダーマン」、「ダークナイト・ライジング」、「アベンジャーズ」などの大作を抑えて2012年の洋画で一番になる勢いだ。ただ、今年のヒット作はシリーズものの最新作が多く、出演スターや特殊効果で観たらもっと豪華なものもある。三連休の効果はあるとしても「バイオハザードV」にここまで勢いがあるのはなんでだろう。ゾンビも出るし、観てきました!

始まると、いきなり水中。ミラ・ジョヴォヴィッチ演じる主人公のアリスが水中で泡を吸い込んでる、と思ったら水から船の上まで浮かび上がって、爆発! 爆炎がおりたたまれてヘリになったあたりで、あ、これ逆回しなんだ、と分かる。普通、映画では最初にタイトルを出して、次にキャストやスタッフの名前を出していくけど、ここから既にアクションが始まっている。アリスが多数のヘリと兵士を向こうに回して巻き戻されながら暴れ回り、名前が出終わったところで通常再生。二丁ショットガンで撃ち落としたヘリの爆発で吹っ飛んで、着水。そして暗転。間髪入れず、アリス自らが映画1〜4の出来事を語る、これまでのおさらいが始まる。「バイオハザード」はゲームが原作で映画も今回で5作目だけど、このおさらいがあるから原作も旧作も知らなくても十分ついていける。(それでも心配な方向けに予習できるシリーズ総まとめ動画もあります)

そこから先の展開だって、決して退屈だけはしない。レーザー、ゾンビ、中島美嘉、脳ミソむき出しの巨大な化け物、洗脳されたかつての仲間に追いかけられながら、住宅街、謎の実験施設、天井も壁も床も白い蛍光灯の通路、東京、ニューヨーク、モスクワ、地下倉庫、雪原を駆け巡る。こんなに飛び回ったら移動シーンが長ったらしくなりそうだけど、大丈夫。仮想現実だから東京からちょっと走ればモスクワだ!

登場人物も原作ゲームや過去シリーズのキャラクターが入れ替わり立ち替わり出てきて、ほとんどオールスター。原作ゲームから、ジル・バレンタイン、レオン、エイダ・ウォン、映画から、カルロス、ルーサー、ワン、それにミシェル・ロドリゲス演じるレイン。映画の一作目を観た人は、え、ミシェル・ロドリゲスって一作目で…、と思うかもしれないけど、平気平気。クローン技術がある。あとは予告編にも出てくるようにアリスの子どもが出てくる。でも世界の陰謀と戦うのに忙しくて妊娠出産なんてしてたヒマはないはずだけど…、問題無い。洗脳されて偽りの記憶を植え付けられたのだ!

もう何でもありじゃないか、と思うかもしれないけど、これは監督のサービス精神なのだ。過去に死んでいたって、子どもなんか産む時間がなくたって、客が観たがっていると思うなら出す。アクションシーンだってそうだ。走って追ってくるゾンビに銃弾のストップモーション、ワイヤーアクションにカーチェイス、津波で押し流される街並、そして大爆発。どこかで観たようなシーンでも、迷わず正面から出してくる。「バイオハザードV」が他と違うのは、この全編にみなぎるおせっかいなまでのサービス精神だ。「ついてきてる? 今ここだよ!」とか「みんな好きだろ? ほら出すよ!」と、少しも観客を放っておかない。他シリーズには知ってる人には分かる目配せみたいなものが少しはあったけど、「バイオハザードV」は誰一人置き去りにせず楽しませようと心配性の幹事のように気を配ってくる。

ただ、そんなあふれるサービス精神の中に監督の趣味がちらりと見えた瞬間があったとすれば、それはクライマックスのキャットファイトだったと思う。アリスが、洗脳されたジルやドーピングしたミシェル・ロドリゲスと棍棒みたいなもので殴り合ったり、腹や顔面に蹴りを入れたり、ひたすら格闘を繰り広げる。ここもやはり女性のアクションシーンの好きな人ならたまらないけど、少しひっかかったのは、アリスのリアクションがすごく痛そうだったことだ。背中から投げ落とされて「くはっ」と息を漏らしたり、腹に蹴りを食らってよろめく。アリスはヘリの爆発で吹っ飛んでもケガひとつしないのに、このシーンだけは妙にリアルで、監督のポール・W・S・アンダーソンの主演のミラ・ジョヴォヴィッチに対する複雑な愛情を感じた。(二人は2010年に結婚している)

落ち着いて思い出すと、銃撃戦でさんざん手下が倒された後に「おいやめろ、こちらには人質がいる!」と脅す悪役がいたり、突っ込みどころもたくさんある。だけどこの脇の甘さもきっと計算のうちだ。映画が終わったら居酒屋でビールでも飲みながら、詳しくない人とは「面白かったけど、あそこちょっとおかしかったよね」とか、詳しい人とは「あのシーンの元ネタってあの映画だよね」とか相手を問わずに語り合える。そこまで含めて監督のサービスなんだと思う。(tk_zombie)