――イラクとそんなつながりがあったとは驚きです。

【ジーコ】今回、エドゥーに話を持ってきたのが、当時の通訳の男だった。エドゥーは彼に、「最近は弟のアシスタントコーチという形でしか仕事をしていない」と返事した。そこで僕が監督、エドゥーをアシスタントという形で交渉が始まったんだ。金銭面で折り合わなくて、交渉には1ヵ月以上かかったね。最終的に契約を結んだのは3次予選初戦の5日前だった。

――イラクのサッカーについて教てください。

【ジーコ】もともとアジアの中でイラクとイランの2ヵ国は体格的に恵まれている。技術も高い。足りないのはきちんとした指導だけだった。93年、日本がイラクと引き分けてアメリカW杯出場を逃した試合(“ドーハの悲劇”)は覚えているよね? あの試合だって日本に内容で勝っていた。ただ、いい選手はいるけど、環境は想像以上にひどかったね。芝のピッチは今も国内に数えるほどしかない。国内リーグもあるけど、土か粗末な人工芝のピッチで試合をしている。草サッカーをするようなピッチだよ。

――イラク代表は3次予選の初戦だけ国内で試合を行ないましたが、それ以降はFIFA(国際サッカー連盟)から政情不安を理由にホーム戦開催を禁じられています。非常に特殊な状況ですよね。

【ジーコ】向こうで日本と同じように生活することができないのは最初からわかっていた。とにかく、いろんなことが混乱しているんだ。3ヵ月間のビザを取得するのに5ヵ月かかったこともあった。日程や移動スケジュールもころころ変わる。代表レギュラーの半数がプレーするカタールをベースに活動することになってから、少し落ち着くようになったかな。

――現在のイラク代表の活動のベースは、3次予選を2試合行なったカタールなのですね。

【ジーコ】先日、バグダッドで記者会見があって、イラク国内で代表の練習をしていないことを批判されたけど、「われわれはイラク代表にとってプラスになるように活動をしている。練習できる環境がイラク国内にあるなら、そこでやる」と答えたよ。もし、カタールのような整った設備がイラクにあれば……。まあ、逆にいうと、母国がそういう状況だからこそ、選手たちの「勝ってやる」というモチベーションも高いのだけどね。

■どの国が本大会に出ても驚きはない

――イラク代表は最終予選B組の中で、オーストラリア、日本の“2強”に続く存在と見られています。やはり、メンバーは2004年アテネ五輪で4位に入り、07年アジア杯で優勝した選手たちが中心になるんですか?

【ジーコ】そうだね。だいたいチームのベースは固まりつつある。そして今、攻撃のオプションをさらに増やそうとしているんだ。イラクにはマフムード(07年アジア杯の得点王、MVP)という万能型のストライカーがいて、彼が1トップとして機能しているんだけど、もうひとり、シリアでプレーしている長身で力強い若手FWがいるので、どこかで彼を試したい。経験を積めば、素晴らしい選手になるはずだ。また、彼のほかにも、イラク国籍を持つ選手は世界中に散らばっている。例えば、19歳以下のオランダ代表に選ばれた選手もいる。スウェーデン、イングランド、デンマークにも有望な若手がいる。これまでイラクサッカー協会はそうした選手の情報を集めていなかったんだけど、今はYouTubeがあるからね。国外にいるイラク人選手のリストを作って、連絡を取るように頼んでいる。

――オランダの選手は気になりますね……。イラク代表になるよう説得するんですか?

【ジーコ】僕ならオランダ代表を狙うけどね(笑)。それは冗談として、実際に会ったことがないので、なんとも言えないな。イラクを選んだとしても、代表に招集するかどうかはわからないと率直に伝えるつもりだ。ちなみに、スウェーデンの選手はスウェーデン代表に選ばれる可能性もあるらしく、僕と話をしたいと言ってきている。とりあえず、一度、国外に散らばっているイラク人選手を集め、見てみたいと思っているよ。