【全文掲載】大分・再建への挑戦〔第4回〕「Jのある街」を育てるために【ひぐらしひなつ】
■今週末に迫った決戦へのラストスパート
3万人集客プロジェクト「7/9大分総力戦」に向け、大分FCが最後の追い込みをかけている。選手参加イベントやメディアによる告知など、露出も俄然増えてきた。7月1日時点で発表された入場者見込数24,000人が、4日には25,500人とさらに増加。県内各地からの申込に加えスポンサー企業、サッカー関係者、シーズンチケット購入者などの情報から予測された数字だ。これに無料招待の大分市民が加われば、スタンドはかなり埋まる。当日の出足が鈍らないよう好天を願うばかりだ。
■スーパースターの不在がもたらすもの
6月29日のJ2第2節横浜FC戦の入場者数は5,384人で、ドーム開催のリーグ戦では過去最低記録となった。しかしその前の鳥取戦が5,794人であったことを考えると、水曜ナイトゲームの数字としては予想ほど悪くない。鳥取戦での勝利が影響したほか、日本サッカー界のトップスター・キングカズこと三浦知良選手のプレーを生で観ることができるという特別な魅力が、人々の足をスタジアムへと運ばせたのだろう。たぶん日本人で最も高い集客力を持つ選手がこのカテゴリにいることが、現在のJ2にとってどれだけ大きな救済となっていることか。
大分はここ数年で主力が次々に移籍し、チームに見知った選手が少ないことも県民の関心低下を招いている。これはリーグ全体にも言えることで、かつて在籍したジーコやレオナルドやドゥンガのようなワールドクラスのプレーヤーがいなくなって以来、Jのプレミアム感は低下した。国内で頭角を現した選手はよりハイレベルな経験を積むため海外のリーグへ移籍してゆく。08年には海外のスター選手獲得を推奨するリーグの動きもあったが、その後それらしい話も聞かない。
いま学校のサッカー部や町クラブの少年たちでプロへの憧れを語る者は少ない。有名強豪校の選手らも、サッカーは大学まででその後は公務員や会社員を目指すのだと口を揃える。景気の低迷とともに、プロの試合を観る機会の減少も影響しているのだろう。Jリーグは子供たちに夢を与える力を失ってしまったのだろうか。
■ホームタウンを育てる地元メディアの役割
しかしいわゆるライト層やファン予備軍の人々へのアピールを弱めたかに見えるこれらの流れは、逆に日本のサッカー文化を成熟させる好機と捉えることもできる。スターシステムを脱して組織的競技としての側面がより重視されるようになったことを受け、個の派手さに加え連動性や戦術的駆け引きなども楽しめるような、観る側のスキルがものを言う方向へ。
それを拡散浸透させるのが広報やメディアの役割だ。サッカーの質が変わればそれを伝える側の姿勢も変わらなくてはならない。たとえば若く経験の少ない選手たちを新人の田坂監督が率いる今季の大分。編成は育成重視で、すぐに戦績をあげることは開幕当初から期待できるものではなかった。強きに集まり弱きからは離れる客層にチームの魅力を伝えるにあたって、従来の訴求方法は通用しない。
それでも田坂監督の指導は魅力的なアピールポイントを十分に備えている。就任以来選手の特徴を細やかに分析し、様々な組み合わせの布陣を試してきた。適性とチーム事情を鑑みたポジションのコンバートにも積極的だ。一見斬新なアイデアに見えることも、見守るうちに確固たる美学と理論に基づいたものであることがわかってくる。
2日に行われた北九州戦での采配にも、彼らしさは如実に表れた。コンディション良好な相手に対し、こちらは1週間で3試合という厳しい日程。アウェイゲームなのでセーフティに収める選択肢もあったのだが、選手たちの疲労を承知の上で田坂監督がピッチに求めたのは、さらなるアグレッシブさだった。その結果3失点し敗れたのだが、同じ敗戦でも、数字では見えてこない部分を理解しているかどうかで印象は変わる。決して守りに入らない強気さと、それを実行させる選手への信頼。布陣や選手交代に込められたメッセージや指揮官の心の動きを読み取れれば、サッカー観戦の面白さは一気に厚みを増す。地元メディアならではのきめ細やかな取材がそれを支援できるだろう。
3万人集客プロジェクト「7/9大分総力戦」に向け、大分FCが最後の追い込みをかけている。選手参加イベントやメディアによる告知など、露出も俄然増えてきた。7月1日時点で発表された入場者見込数24,000人が、4日には25,500人とさらに増加。県内各地からの申込に加えスポンサー企業、サッカー関係者、シーズンチケット購入者などの情報から予測された数字だ。これに無料招待の大分市民が加われば、スタンドはかなり埋まる。当日の出足が鈍らないよう好天を願うばかりだ。
6月29日のJ2第2節横浜FC戦の入場者数は5,384人で、ドーム開催のリーグ戦では過去最低記録となった。しかしその前の鳥取戦が5,794人であったことを考えると、水曜ナイトゲームの数字としては予想ほど悪くない。鳥取戦での勝利が影響したほか、日本サッカー界のトップスター・キングカズこと三浦知良選手のプレーを生で観ることができるという特別な魅力が、人々の足をスタジアムへと運ばせたのだろう。たぶん日本人で最も高い集客力を持つ選手がこのカテゴリにいることが、現在のJ2にとってどれだけ大きな救済となっていることか。
大分はここ数年で主力が次々に移籍し、チームに見知った選手が少ないことも県民の関心低下を招いている。これはリーグ全体にも言えることで、かつて在籍したジーコやレオナルドやドゥンガのようなワールドクラスのプレーヤーがいなくなって以来、Jのプレミアム感は低下した。国内で頭角を現した選手はよりハイレベルな経験を積むため海外のリーグへ移籍してゆく。08年には海外のスター選手獲得を推奨するリーグの動きもあったが、その後それらしい話も聞かない。
いま学校のサッカー部や町クラブの少年たちでプロへの憧れを語る者は少ない。有名強豪校の選手らも、サッカーは大学まででその後は公務員や会社員を目指すのだと口を揃える。景気の低迷とともに、プロの試合を観る機会の減少も影響しているのだろう。Jリーグは子供たちに夢を与える力を失ってしまったのだろうか。
■ホームタウンを育てる地元メディアの役割
しかしいわゆるライト層やファン予備軍の人々へのアピールを弱めたかに見えるこれらの流れは、逆に日本のサッカー文化を成熟させる好機と捉えることもできる。スターシステムを脱して組織的競技としての側面がより重視されるようになったことを受け、個の派手さに加え連動性や戦術的駆け引きなども楽しめるような、観る側のスキルがものを言う方向へ。
それを拡散浸透させるのが広報やメディアの役割だ。サッカーの質が変わればそれを伝える側の姿勢も変わらなくてはならない。たとえば若く経験の少ない選手たちを新人の田坂監督が率いる今季の大分。編成は育成重視で、すぐに戦績をあげることは開幕当初から期待できるものではなかった。強きに集まり弱きからは離れる客層にチームの魅力を伝えるにあたって、従来の訴求方法は通用しない。
それでも田坂監督の指導は魅力的なアピールポイントを十分に備えている。就任以来選手の特徴を細やかに分析し、様々な組み合わせの布陣を試してきた。適性とチーム事情を鑑みたポジションのコンバートにも積極的だ。一見斬新なアイデアに見えることも、見守るうちに確固たる美学と理論に基づいたものであることがわかってくる。
2日に行われた北九州戦での采配にも、彼らしさは如実に表れた。コンディション良好な相手に対し、こちらは1週間で3試合という厳しい日程。アウェイゲームなのでセーフティに収める選択肢もあったのだが、選手たちの疲労を承知の上で田坂監督がピッチに求めたのは、さらなるアグレッシブさだった。その結果3失点し敗れたのだが、同じ敗戦でも、数字では見えてこない部分を理解しているかどうかで印象は変わる。決して守りに入らない強気さと、それを実行させる選手への信頼。布陣や選手交代に込められたメッセージや指揮官の心の動きを読み取れれば、サッカー観戦の面白さは一気に厚みを増す。地元メディアならではのきめ細やかな取材がそれを支援できるだろう。