色は文化や言語の違いによりいろいろな意味を持つ記号といえる。たとえば虹の色の数え方は、国や言語によって異なっている。郵便ポストの色も国によって異なる。今回は、そのような点に留意しないと実際のグローバルビジネスにおいてどのような問題が生じるかを考えていこう。

 虹の色の数え方は、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、さらにアジアやアフリカ、またイスラムの言語圏においてはそれぞれ異なっている(鈴木孝夫『日本語と外国語』岩波書店、1999年、60−104ページ)。鈴木は、虹の色は日本語では7色とされているが、英語では6色とされ、ドイツ語では5色、ロシア語ではかなりまちまちで、4色から7色までいろいろと表されている個々の事実を詳しく紹介している。

 『日本大百科全書』によれば、「虹に対する認識は諸民族によって一定していない。虹は一種の自然現象であって、世界中どこでも虹の現象には本質的な差異がないが、虹をいかに考えるかは、かならずしも一定していない。虹の色の認識についても、メキシコのマヤ系ツォツィル語を話すチャムラの集団においては、一説では、虹の色は七色でなく三色である。上からアオ(青=緑)、黄、赤の順序である」という。『虹−その文化と科学』を著した西條によれば、日本でも昔(1600年代)は「赤・枇杷色・青黄」とし「虹ニハ三様ノ色ヲアラワス也」と3色しか認めていなかったそうである。西條は、さらに色認識の乏しい未開民族の間では、虹の色は、2色、せいぜい3色で、わが国で虹を7色というのは、江戸時代の終わりごろに西洋から入ってきて、次第に定着したといってよいであろうと述べている。

 虹の色の分類は普遍的ではなく言語によって著しく異なり、英語では6色だが、ローデシアのショナ語では4色、リベリアのバサ語では2色に分けられるともいわれる(Farb, P. Word Play : What Happens When People Talk, Vintage Books, Reprint Edition, 2003.)。このように虹の色の数え方(7色から2色までの記号)は、文化により、また言語によって、その実際の虹(指示物)との関係において、それぞれ異なっている。

 たとえばの話だが、あるところでプレゼントを買い、それをギフト包装してもらい、「虹の色の数だけのリボンで結んで欲しい」と店員に依頼するとしよう。そのときその地域がどこかによって、リボンの数は自分が期待していたものとはずいぶんと異なるものになるということは想像に難くない。同じことは、異文化間にまたがるグローバルビジネスにおいても言えることであり、製品の色をどうするか、というときには十分過ぎるほどの注意を払う必要がある。

 アメリカの水着メーカーの社長の話として次のような事例が報告されている(『国際商取引学会年報2011、vol.13』67ページ)。同社は、かつてフロリダでよく売れていた水着のカラーをそのままにした水着が、カリフォルニアでも売れるだろうと判断して発売したところ、失敗をしてしまった。その後同社はこのときの失敗を糧として、米国内を血統と宗教に基づき、合計で11の地域に分割して同社製品のマーケティングを展開し、それによって成功したという。

 数年前に日本郵政公社からポストの形をした貯金箱の注文を受けた会社があった。同社は、国内メーカー数社に引き合いを出したのだが、見積価格が指値からほど遠かったため、中国の玩具メーカーにファックスで引き合いを出した。中国側から予算内の価格がオファーされてきたため、同社は早速に見本の制作と送付を依頼した。2週間ほど経過した後に見本が送られてきたのだが、何とそのポストの形をした貯金箱は緑色をしていた。この失敗の原因は、「ポストの色は赤い」という日本の常識が異文化圏では通用しないことに気がつかなかった日本人社員の不注意であるといえよう。郵便ポストという指示物を表す記号(色)は国により、文化により異なっているという事例である。ちなみに郵便ポストの色は米国では青、シンガポールでは白、ロシアはブルーグレー、フランスは黄色で、アイルランドも緑色、など実に様々である。(執筆者:亀田尚己 同志社大学商学部・同大学院商学研究科後期課程教授 編集担当:サーチナ・メディア事業部)



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