■ イングランド戦

オーストリアのグラーツで行われた日本とイングランドの対戦。グラーツというと、前日本代表のイビチャ・オシム監督が指揮してチャンピオンズリーグにも出場したシュトルム・グラーツのホームタウンである。イングランドとは2004年に対戦して、そのときはMF小野のゴールで1対1のドロー。イングランドはワールドカップ前の最終テストマッチとなる。

日本は<4-1-2-2-1>。GK川島。DF今野、闘莉王、中澤、長友。MF阿部、遠藤、長谷部、本田圭、大久保。FW岡崎。GK楢崎がスタメンから外れてGK川島を起用。怪我のMF中村俊はベンチスタート。MF阿部がアンカーに入ってトリプルボランチ気味の布陣。キャプテンマークを巻くのはMF長谷部。

■ 闘莉王の先制ゴール

先日のの韓国戦とは違って気迫が前面に出ていた日本が優勢で前半を進める。前半 7分に右コーナーキックを獲得。MF遠藤のグラウンダーのボールをニアサイドに走り込んできたDF闘莉王が右足のダイレクトで決めて日本が先制ゴールを奪う。

その後も日本は、1トップのFW岡崎を起点にした素早いパス回しと積極的な守備で前半20分くらいまでイングランドにほとんど持ち味を発揮させない。イングランドは前半のうちに、MFレノン、MFランパード、FWベントが惜しいシュートを放つが、GK川島の好セーブもあってゴールは奪えず。1対0の日本リードで前半を終了する。

後半はイングランドペース。後半10分にイングランドがゴール正面のフリーキックを獲得すると、フリーキックを防ごうとしたMF本田圭がハンドでPKを献上。大ピンチを迎えるが、MFランパードのキックをGK川島がファインセーブ。さらに、FW ルーニーのミドルシュートもGK川島がスーパーセーブ。

GK川島の活躍で何とか耐えてきた日本だったが、後半27分に左サイドを崩されて DF闘莉王がヘディングでクリアを試みるが、クリアミスでオウンゴール。同点に追いつかれる。

さらに後半38分に左サイドのDFアシュリー・コールのクロスに対してDF中澤がクリアしきれずに、再び、オウンゴール。1対2と逆転を許す。日本はFW玉田を投入し同点を狙うと、終了間際にコーナーキックからMF阿部がヘディングシュートを放つが惜しくもクロスバー。結局、追い付く事は出来ずに1対2の敗戦を喫した。

■ 少しだけ取り戻した自信

結果は2つのオウンゴールで敗れたが、日本は前半を1対0で終えることに成功。さらに、GK川島のビッグプレーもあって後半27分まで1対0のリードを保ったが、辛抱していたディフェンス陣に2つのオウンゴールが出て1対2で敗北。しかし、セルビア戦や韓国戦で失った自信を少しだけ取り戻す「立派な試合内容」だった。

「ペース配分を考えるべき」という考えもあるだろうが、それには賛成しかねる。今の日本の総合力では抑え気味で試合に入ったら、その時点でやられる可能性はかなり高く、先制ゴールを奪われたときに跳ね返すことの出来る力は持っていない。「スタミナが切れるまで全力で戦って、後は辛抱する」という戦いが、一番、現実的である。昨年のオランダ戦に続いて、イングランドもはまりかけたが、残念ながら耐えきることは出来なかった。

■ 交代のカード

立ち上がりから飛ばして、リードを奪って後半を迎えるという戦い方はプラン以上といえたが、この試合は後半10分ほどで足が止まり始めた。そのため、FW森本とMF松井を投入したが、大きな手助けにはならなかった。リードした時点でのFW森本とMF松井の投入については、考えてみるとベストな策ではなかったように思う。

ただ、これまで、「イングランドのような相手にリードを奪って逃げ切る」というシミュレーション機会はほどんどなかったので、本大会前にいい経験にはなった。もう少し残り時間が短くなったら、FW矢野を投入して追い回すというのが考えられたし、DF岩政を投入して5バックに変更することもあり得るが、同点ゴールを許したのが後半27分。もう少しだけ耐えられたらそのような作戦を取ることも出来たが、そういう意味でも惜しかったと言える。

ただ、本大会ではもっと上のコンディションになるはずで、もっとスタミナが持つはず。カメルーン戦でも、試合開始から飛ばしていて、試合の主導権を握ろうとする戦い方がいいだろう。この試合の前半のようなサッカーが出来れば、カメルーンにも、オランダにも、デンマークにも対応できなくはない。

■ 立派な戦い

今大会の優勝候補といえるイングランド。どん底の状態だった日本代表にとっては、相手がイングランドというのはあまり大きな意味は持たなかったが、セルビア戦、韓国戦と2試合連続でホームでふがいない戦いを行ったことでバラバラになりかねない状態だったチームは、よくまとまっていた。

雨でピッチコンディションは良くなかったが、現状で出来る範囲の戦いを見せることが出来たという点、非常に良かった。もちろん、イングランド相手に勝利をつかめていれば良かったし、ドローという結果でも良かったが、イレブンが「日本を代表してプレーしている」というプライドを持って強豪を相手に戦ってくれたことが嬉しかったことである。

本大会を前に、悲観論が渦巻いていたが、サポーターやジャーナリスト達よりも、日本代表メンバーとスタッフの方が、強い気持ちを持ってイングランドという強敵に立ち向かうことが出来ていた。彼らは、心が折れてしまったわけではなかった。このようなスピリットで本大会も戦ってくれれば、どんな結果に終わっても、最後まであきらめずにサポートすることが出来る。

■ 勝利をつかむためには

試合開始7分という時間帯に先制ゴールが奪えたことは良かったが、勝利をつかむために、残り83分を守り切らなければならないというのは、かなりしんどい作業である。何度か追加点を奪うチャンスもあったので、そこで決めれていれば良かったが、なかなか2 点目を奪うというのは難しい。

「本大会で勝利を挙げること」を想像してみると、やはり0対0で進んで後半半ば頃に先制ゴールを奪って、1 対0で勝利するというのが、一番可能性が高そうである。贅沢な注文となるが、あまりに早い時間の先制ゴールは勝ち点「3」を奪うというミッションを成し遂げるには、やや不都合なものになる。

■ グレートな川島

代表では久々の登場となった川崎フロンターレのGK川島。まだまだ、これからキャリアを積み重ねていく選手ではあるが、後々、キャリアを振り返ってみても「ベストゲームの1つ」といえるようなグレートなプレーだった。2失点はいずれもオウンゴール。これは不運としか言いようがなかったが、それ以外のイングランドのシュートを全て防いで見せた。

ハイライトはMFランパードのPKのシーン。この試合ではなぜか、MFランパードの出来が悪くてロングキックのミスが多かったが、MFランパードのキックを読み切ってスーパーセーブ。ピッチ状態も良くない状況で、素晴らしいプレーを見せた。

この試合では、絶対的な存在だったGK楢崎が外れてGK川島を起用。ギャンブルとも思えたが、GK川島がビッグプレーを連発したことで、本番でどちらが起用されるのか分からなくなってきた。これは嬉しい悩みであり、嬉しい誤算といえる。GK楢崎の経験は捨てがたいが、GK川島の勢いも捨てがたい。イングランドの前線は高さが無かったが、カメルーンやオランダ、デンマークの前線には高さがある。と考えると、187cmのGK楢崎が有力なのだろうか。ただ、GK 川島の裏のスペースをケアする能力の高さと、この試合でつかんだ「勢い」と「自信」を無視することも出来ない。

■ アンカーの阿部勇樹

日本はMF中村俊輔を外してMF 阿部をアンカーで起用。MF長谷部、MF遠藤とトリプルボランチ気味の布陣でスタートしたが、これが予想以上に機能した。MF阿部がボール奪取する回数自体は少なかったが、味方と上手く連動して組織的な守備を見せた。

MF中村俊という攻撃に持ち味のある選手を外して、MF阿部という万能タイプのミッドフィールダーを入れたことで「守備的な布陣」にシフトチェンジしたとも言われたが、守備的な選手の数を増やすことがイコール守備的なサッカーにつながるかと言ったら、そうとは限らないのがサッカーの面白いところ。

MF長谷部とMF遠藤がダブルボランチの時よりも攻撃寄りでプレー出来るようになったことで、むしろ、日本のサッカー自体は攻撃的になった。アンカーはMF稲本という可能性もあるが、MF阿部でも遜色はない。本番でもトリプルボランチの採用が有力となったといえる。

■ 1 トップの岡崎

日本はFW岡崎の1トップ。これは韓国戦と同じだったが、Mf遠藤とMF長谷部が前目になったことで、味方のサポートが増えたて、DFテリーやDFファーディナンドというワールドクラスのセンターバックを相手にしてもFW岡崎のプレーは引けを取っていなかった。前半の決定的なシュートが決まっていれば素晴らしかったが、出来としては申し分なかった。

残念だったのは、後半にやや消えてしまったこと。守備での貢献を考えると、FW森本よりもFW岡崎に軍配が上がるが、FW岡崎が消え始めていたため、後半途中にFW岡崎をFW森本と交代せざる得なくなった。1トップは負担も大きいが、怪我等が無かったとしたら、前半から上手く機能していただけに、FW岡崎で90分間、通してほしかったという思いはある。

韓国戦に続いてMF大久保も左サイドハーフでプレーしたが、こちらも非常に良かった。決定的なシュートチャンスはなかったが、イングランドを相手にしてもフィジカル勝負で負けていなかったのは驚きだった。かなりコンディションはいいと見える。こちらも後半にスタミナが切れ始めていたのでMF松井と交代になったが、こちらも出来れば代えたくなかったところ。MF大久保は本大会でもスタメンが有力となってきておりここ2試合はいい感じでプレー出来ている。ゴールも期待したい。

■ 中盤の構成

中盤はトリプルボランチになったが、MF遠藤の守備の負担が減ってなかなかのプレーを見せた。後半に思ったほどボールがキープできなくなったが、特に、前半はMF遠藤が上手く試合をコントロール出来ていて、落ち着きどころになっていた。

MF中村俊輔がスタメンに入ると、この試合でMF遠藤がこなしていたプレーの何割かを負担してくれるのでMF遠藤も少し楽になるが、MF中村俊が入ってMF本田がスタメンから外れると、ゴール前での迫力が失われることになる。この試合をトータルで見ると、MF本田圭のプレー自体は及第点よりも少し下の出来だったが、カメルーン戦でもMF長谷部、MF遠藤、MF 本田圭のトライアングルになる可能性が高まった。ただ、右サイドハーフポジションはFW玉田という選択肢も十分に考えられる。

■ サイドバックの人選

ポジション争いが激しいサイドバックであるが、この日は右にDF今野、左にDF長友を起用。韓国戦とはサイドが逆になったが、DF今野も、DF長友も及第点以上のプレーだったと言える。特に、DF長友は対面したのがMFウォルコットであり、スピードに対応出来るのかが心配されたが、大きな問題はなかった。サイドバックは日本のストロングポイントであり、他国に見劣りしないポジションであるが、韓国戦に続いてこの2人が起用されたことで、本戦でもこの二人の起用が濃厚になってきた。

右サイドのDF今野については、本職の右サイドバックでDF駒野とDF内田がメンバーに入っているが、守備力を買っての起用だろう。DF駒野のクロスは大きな武器になり得ると思うが、DF今野の守備力はDF駒野以上で、やみくもにサイドバックが攻撃に参加することは出来ないと見越した上でのDF今野の起用であれば、この起用も納得できるものである。

また、DF今野がスタメンに入ることでセットプレーでのターゲット役が増えるというのも大きいだろう。DF駒野は172cmで、DF今野は178cm。DF今野も身長はそれほど高くはないが、得点感覚は高い。DF駒野とMF中村俊が外れて、DF今野とMF阿部が入ることで、攻守両面でセットプレーでの威力は確実に増すことになる。

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