「コーヒー」で胸がドキッとする?脈の乱れを引き起こす“あの意外な原因”とは
コーヒーを飲んだあとに胸がドキッとする感覚を覚えたことはないでしょうか。カフェインは体内のアデノシン受容体をブロックし、交感神経を優位にすることで心拍数の上昇や心筋の電気的興奮を招く可能性があります。ここでは、そのメカニズムと個人差が生じる理由について詳しく解説します。
監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
心室期外収縮とコーヒーの関係①:カフェインが心臓に与える影響
コーヒーは多くの人にとって日常的な飲み物ですが、心室期外収縮が気になる人にとっては「飲んでも大丈夫なのか」「コーヒーのせいで症状が悪化しているのではないか」と不安になることもあるでしょう。このセクションでは、カフェインが心臓の電気的な働きにどのように影響を与えるのか、そのメカニズムをわかりやすく解説します。
カフェインの作用と心臓の電気的興奮
心臓は通常、右心房にある「洞房結節(どうぼうけっせつ)」という部位からの規則正しい電気信号によって、1分間に60~100回ほど規則正しく収縮・拡張を繰り返しています。これに対し「心室期外収縮」とは、本来送られてくるはずの電気信号よりも早いタイミングで、心臓の下側の部屋である「心室」が勝手に電気刺激を作り出し、フライングするように収縮してしまう状態を指します。
心室期外収縮自体は、健康な人の健康診断でも偶然見つかることが多く、必ずしもすぐに危険な病気というわけではありません。しかし、発生する頻度が高い場合や、基礎疾患(心臓病など)がある場合、あるいは自覚症状が強く生活に支障をきたす場合には注意が必要です。
コーヒーに含まれるカフェインは、体内で「アデノシン受容体」という部位にくっつく性質を持っています。本来、体内にある「アデノシン」という物質は、この受容体に結合することで心拍数を落ち着かせたり、血管を広げたりするブレーキのような役割を果たしています。しかし、カフェインが受容体を先回りしてブロックしてしまうため、ブレーキが効きにくくなり、結果として交感神経(体を活動モードにする神経)が優位になります。
交感神経が高まると、心拍数が上がりやすくなるだけでなく、心筋(心臓の筋肉)細胞の電気的な興奮性が増します。これにより、本来のリズムを無視したフライングの電気刺激(=期外収縮)が誘発されやすくなると考えられています。
さらに、カフェインは副腎に働きかけてアドレナリンなどのストレスホルモンの分泌を促す作用も持っています。アドレナリンは、危険に遭遇した際などに「戦うか逃げるか」の態勢を整えるホルモンであり、心拍数の増加や血圧の上昇をもたらします。この状態が持続すると、心臓の筋肉に余分な電気的負担がかかり、脈の乱れを感じやすくなります。
ただし重要なのは、カフェインに対する反応には非常に大きな個人差があるという点です。体内でカフェインを分解・代謝する酵素(CYP1A2など)の活性には遺伝的な個人差があります。そのため、1日に何杯コーヒーを飲んでもまったく動悸を感じない人もいれば、わずか1杯のコーヒーに含まれるカフェインでも過敏に反応し、「胸がドキッとする」といった症状を自覚する人もいます。また、その日の体調や睡眠状態、自律神経のバランスによっても感受性は変化します。
コーヒーの摂取量と心室期外収縮の関係
「コーヒーを飲むと不整脈が出る」と心配される人は多いですが、近年の大規模な疫学調査や研究では、適量のコーヒー摂取であれば、心室期外収縮をはじめとする不整脈の発生リスクを著しく高めるわけではないという報告が多くなっています。
一般的に、1日1~2杯程度(カフェイン量にして100~200mg程度)のコーヒーであれば、基礎疾患のない健康な人において心室期外収縮が重症化することは少ないと考えられています。しかし、1日の摂取量が多い場合には、カフェインの累積的な影響や血圧の上昇、睡眠の質の低下などが重なり、心拍の乱れや動悸を感じやすくなる可能性があります。
すでに心室期外収縮と診断されている人や、コーヒーを飲んだ後に明らかに胸の不快感や脈の飛びを感じる人の場合は、一度コーヒーの摂取量を減らしてみる「セルフチェック」が有効です。例えば、1日3杯飲んでいたものを1杯に減らす、あるいは数日間カフェインの摂取を控えてみることで、症状が和らぐかどうかを確認します。これにより、自分の症状とカフェインとの因果関係を把握する手がかりが得られます。
なお、普段からコーヒーを大量に飲んでいる人が突然完全に摂取をゼロにすると、カフェインの離脱症状として強い頭痛、強い倦怠感、イライラ感、集中力の低下などが現れることがあります。そのため、コーヒーを控えたい場合でも急激にやめるのではなく、数日~数週間かけて段階的に杯数を減らしていくか、後述するデカフェ(カフェインレス)に置き換えていく方法が推奨されます。
心室期外収縮の症状が気になるときは、自己判断だけで放置せず、まずは循環器内科を受診して心電図検査や24時間心電図(ホルター心電図)を受け、病的な不整脈ではないかを確認したうえで、生活習慣の調整を行いましょう。
まとめ
心室期外収縮はさまざまな要因が絡み合う不整脈ですが、コーヒー・血圧・薬の3つの側面から理解を深めることで、日常生活での適切な対処がしやすくなります。自覚症状が続く場合や不安を感じる場合は、循環器内科への受診を早めにご検討ください。生活習慣の見直しと医療機関でのサポートを組み合わせながら、自分の身体と上手に向き合っていくことが大切です。
参考文献
国立循環器病研究センター「病気について」
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2025」
日本不整脈心電学会「JHRS 文化センター」

