「出産後や閉経後の強いだるさ」は危険?女性に多い甲状腺の異常と初期症状
甲状腺ホルモンは全身の細胞に作用し、エネルギー代謝の速度をコントロールする重要な役割を担っています。このホルモンが不足すると、筋肉細胞内のエネルギー産生が低下し、筋力の低下や疲労感が現れてきます。橋本病などの甲状腺疾患がなぜ女性に多いのか、ライフイベントとの関係も含めて解説します。
監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2016年仙台市立病院循環器内科
2019年江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科
2023年岩手県立中央病院糖尿病・内分泌内科 兼 救急診療科
2023年医療法人社団啓愛会理事
2026年孝仁病院美希病院
所属学会
日本医師会 産業医
日本循環器学会 循環器専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本内科学会 総合内科専門医
甲状腺機能低下性ミオパチーが女性に多い理由とホルモンの関係
甲状腺機能低下性ミオパチーは、圧倒的に女性に生じやすい傾向があります。その背景には、甲状腺疾患そのものが女性に非常に多いという大きな理由があります。このセクションでは、甲状腺ホルモンと筋肉の関係、そして女性がとくに注意すべき理由について解説します。
甲状腺ホルモンが筋肉に与える影響
甲状腺ホルモン(FT3やFT4など)は、身体のほぼすべての細胞に作用し、全身のエネルギー代謝の速度をコントロールする「車でいうアクセル」のような重要な役割を担っています。筋肉(骨格筋)細胞においても例外ではなく、甲状腺ホルモンは筋肉の収縮や弛緩(ゆるむこと)に必要なタンパク質の合成、さらには筋肉を動かすエネルギーの供給に深く関わっています。
甲状腺ホルモンが不足すると、筋肉細胞の中にあるエネルギー工場「ミトコンドリア」の働きが著しく低下します。そのため、筋肉を動かすために必要なエネルギー(ATP)が十分に作られなくなり、筋力の低下や強い疲労感、筋肉痛といった症状が現れ始めます。
このような筋肉へのダメージは数カ月から数年単位で徐々に進むため、「年のせい」「運動不足」と見過ごされてしまうケースが少なくありません。
甲状腺疾患が女性に多い背景
甲状腺機能低下症の代表的な原因として、橋本病(慢性甲状腺炎)があります。橋本病は自己免疫疾患の一種で、自分の免疫が誤って甲状腺を攻撃することで炎症が続き、甲状腺の機能が低下していく病気です。この橋本病は、女性に発症しやすいことが知られており、男性と女性の比率でいうと女性の方が多いともいわれています。
自己免疫疾患が女性に多い背景には性ホルモンや遺伝・免疫学的要因など複数の要因が関与すると考えられています。
また、女性は妊娠・出産・授乳・閉経といったライフイベントのたびにホルモンバランスが大きく変動します。これらのタイミングで甲状腺機能に変化が起きやすく、産後の甲状腺炎(出産後に甲状腺の炎症が生じる状態)なども知られています。閉経後の女性においても、甲状腺機能低下症の発症リスクが上昇するとされています。
さらに、甲状腺機能低下症の症状は疲労感や体重増加、むくみ、気分の落ち込みなど、更年期症状や日常的な疲れと重なりやすいため、発見が遅れることもあります。こうした背景から、女性は甲状腺機能低下性ミオパチーについての知識を持ち、早めに医療機関を受診することが大切です。
まとめ
甲状腺機能低下性ミオパチーは、甲状腺ホルモンの不足によって全身の筋力低下や筋肉痛、こわばりが引き起こされる病態です。橋本病などを背景として特に女性に多く発症し、初期症状が疲労や更年期障害と似ているため見過ごされやすいという特徴があります。
しかし、血液検査によって正しく診断されれば、レボチロキシン(チラーヂンS)による甲状腺ホルモン補充療法によって、多くの患者さんが症状を大幅に改善させ、元通りの生活を取り戻すことができます。
「階段が上がりにくい」「身体が重くて力が入らない」「更年期の治療をしているのに不調が続く」といった症状に心当たりがある人は、ぜひ一度、内科や内分泌内科を受診して甲状腺の検査を受けてみてください。早期の発見と適切な治療が、あなたのしなやかで健康な毎日を守る第一歩となります。
参考文献
日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」
国立国際医療研究センター病院「甲状腺疾患について」
厚生労働省「難治性疾患政策研究事業 甲状腺疾患に関する情報」
慶應義塾大学病院「内分泌・代謝内科 甲状腺疾患」
東京大学医学部附属病院「内分泌・代謝内科」

