タキミカさんの専属トレーナー・中沢智治氏

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 運動の楽しさに目覚めたのは、65歳のとき。以来30年、タキミカこと瀧島未香さんは年を重ねるごとに体を進化させてきた。専属トレーナー・中沢智治氏(52)が伝授する、タキミカ流「食習慣」と「ストレッチ体操」。【取材・文/三宅隆史(ライター)】

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【写真を見る】95歳には見えない! 87歳でインストラクターになったタキミカさん

 もしも、90歳を超えた小柄な女性が、左右に180度しなやかに開脚して、ぺたりと上半身を床につけていたら。あるいは、20Kgの重量があるバーベルを持ち上げ、懸垂や腹筋などの筋トレを毎日明るく楽しく行っていたら。そんな90代なんているわけがない、そう思いますか?

 いえ、これは実在する女性の話です。私が、その女性“タキミカさん”こと瀧島未香さんと初めてお会いしたのは20年以上前のこと。65歳まで運動経験ゼロのどこにでもいる普通の女性でしたが、体を動かす楽しさを知ってからは毎日楽しくフィットネスに励み、心と体をメキメキと進化させていきました。そしてついには、87歳で日本最高齢のフィットネスインストラクターとしてデビュー。現在は大切な家庭の事情で活動を抑えていますが、相変わらず95歳とは思えないほどの元気ではつらつとした姿を見せてくれています。

タキミカさんの専属トレーナー・中沢智治氏

 この“驚くべき健康寿命”は、けっしてタキミカさんだけに起こった奇跡ではありません。延べ20万人以上の生徒さんを見てきた私だからこそ断言できます。誰もが明日から「第二のタキミカ」になることができるのです。本稿では、タキミカさんと歩んできた20年超のエッセンスを凝縮し、90歳からでも始められる健康のコツをお届けしていきます。

〈「年齢はただの数字」と言い切るのは、タキミカ氏の専属トレーナー・中沢智治氏。大手フィットネスジムを渡り歩き、20代から予約の取れない人気講師として知られるカリスマインストラクターだ。

 独立後の18年で約3000名のインストラクターを育成した功績などが評価され、2020年にはトレーナー・インストラクター・オブ・ザ・イヤー最優秀賞を受賞。健康寿命を延ばすための啓蒙活動に励み、監修した著書『タキミカ体操』もベストセラーになっている。〉

「もう年だから、あきらめた」

「もう年だから--」

 ジムの生徒さんからも、講演会のお客さんからも、この“呪いの言葉”をどれだけ聞いてきたことでしょうか。口にしないまでも、あなたも心のどこかでポツリとつぶやいてはいませんか? はっきり申し上げます。年齢はただの数字です。あなたの敵ではないし、味方でもありません。年だからとあきらめたり、何かをやめたりするのはじつは道理に合わないことなのです。

 本題に入る前に、少し個人的な話をさせていただきます。私には、そうやって“もう年だから”が口癖だった人をみとった経験があります。私の父です。仕事一筋だった父は、定年退職後に燃え尽き、自宅にこもるようになりました。「お父さん、体を動かそうよ」--フィットネス業界に身を置く人間として、ジムに誘ったり、健康器具を送ったりもしました。けれど、父の心は最後まで動かない。「もう年だから、あきらめた」を口にして、座りっぱなしの日々。やがて、ふくらはぎにできた血栓が心臓の血管を詰まらせ、父は71歳の若さで旅立ちました。病名は心不全でしたが、本当の死因は長年の“不活動”にほかなりません。

 定年を機に「もう年だから」と不活動になった父。

 65歳で初めて運動して楽しさに目覚め、年を重ねるごとに体を進化させてきたタキミカさん。

 対照的な二人の歩みをそばで見てきたからこそ、私には確信があります。老化のスタートラインは年齢ではないのだと。「もう年だから」と何かをあきらめたその瞬間に、老化は始まるのだと。その一言をやめれば、誰でも今日から、タキミカさんのように力強く年を重ねていくことができるのです。

パワーエイジング

 人生の後半戦で長期入院せず、介護に頼らず、自立した日常生活を送れる期間を「健康寿命」と呼びます。読者の皆さんはご存じと思いますが、日本人の「平均寿命」と「健康寿命」の間には、男女共に9~12年の差があります。簡単に言えば、人生最後の約10年を寝たきりや要介護で過ごす確率が高い、というわけです。

 人生100年時代、多くの方が最後まで自立して暮らしたいはずです。そして、それをかなえるだけの希望は十分にあります。シニアを対象にした研究では、週2回、1時間の運動を続けるだけで、わずか1年で筋肉量が5.5%も増えたという報告があります。運動といってもハードなトレーニングではありません。毎日にちょっとした「動き」や「負荷」を加えるだけでも、年齢を重ねるごとに力強くなれる--私はその生き方を、“パワーエイジング”と呼んで長年提唱してきました。

 ここでは、“パワーエイジング”のお手本であるタキミカさんが取り入れている、簡単な生活習慣をご紹介します。彼女も、出会った当初は普通の人でした。家でゴロゴロしてかなり太ってきたので、家族が心配してジムに連れていったのが“運動との初めての出会い”。そこから、日常の動作にちょっとした習慣を組み込みながら、心身共に磨かれていったのです。

後ろ向きで歩く?

【立つ習慣】
家では、つま先立ちで歩く

 お手洗いまでのほんの数歩でも、彼女はかかとを浮かせてつま先立ちになります。バレリーナのように。ふくらはぎの筋肉が強くなり、バランス感覚が一日中磨かれる、理にかなった転倒予防運動です。「座りっぱなしは第二の喫煙」ともいわれますから、30分に1度くらいはつま先立ちで歩くのがおすすめです。

【座る習慣】
椅子には浅く腰かける

 彼女は決して椅子に“深く”座りません。姿勢が悪くなるためです。食卓でも、ジムでも、電車内でも、座面の端っこにお尻をちょこんと乗せて、両ひざをぴたりとつけて“浅く”座っています。それだけで自然と背筋が伸び、体幹(中心部の筋肉群)のスイッチが入るそうです。

【歩く習慣】
ときどき“後ろ向き”で歩く

 日課でもある朝の散歩途中に「後ろ歩き」を20~30分取り入れています。普段使わない筋肉を使うので、平衡感覚が養われてグラつかない体を作っていけるのです。ただし最初は転倒に気を付けて。芝生などの柔らかい地面から無理せずゆっくり始めてみましょう。

【食べる習慣】
ワインと発酵食品を口にする

 飲んでいるサプリはゼロ。栄養は全て食事から、というのが彼女のルール。大好きなワインを晩酌に漬物、納豆、キムチといった発酵食品をよく食べています。「食べた分動けば、ちゃらになる」が彼女の哲学です。

【寝る習慣】
20秒かけてゆっくり息を吐く

 就寝前にはストレッチで体をほぐしています。そして深呼吸をして自律神経を整える。3秒で吸って、20秒かけて口から細く吐く。これを繰り返すことで毎晩快眠だそうですし、肺活量も増えています。

 いかがでしょうか。暮らしの中に小さな負荷をちりばめておくことが、年齢に屈しない体を無理なく作るコツといえます。

 もう一つ。タキミカさんの素晴らしい習慣を加えるならば、新しいことを怖がらずに楽しむ姿勢でしょう。スマホ操作も、インスタグラムも、英会話も、彼女が始めたのは80代になってから。「年齢はただの数字」と本気で信じ、新しいことへ飛び込み続ける--この姿勢こそが、若さの根っこなのです。

アプローチするのは3カ所

 さて、ここからは、「タキミカ体操」をいくつかご紹介します。全く運動したことがなかった彼女自身の経験を基に、9歳のお子さんから90代のシニアまで、誰でも無理なく続けられるようにと考案したストレッチ体操です。

 この体操でアプローチするのは、わずか3カ所。肩甲骨、背骨、股関節です。この三つはいずれも姿勢や体幹に直結し、体調を左右する重要な運動器。ですから、可動域が狭くなると、姿勢が崩れたり、転倒しやすくなったりします。シニアにとって転倒はもっとも避けたい事態。小さな骨折がきっかけで活動量が低下し、寝たきり生活へとつながっていくケースが多いのは、皆さんご存じのとおりです。

 逆に、この3カ所さえしなやかに動けば、全身の柔軟性はぐんと高まり、転倒リスクも減らせます。肩甲骨、背骨、股関節の3カ所は、わずかな動きで健康寿命を延ばす最大効果を生んでくれるわけです。

(1)ぞうきんしぼり体操

 肩甲骨をほぐす

[やり方] 両腕を左右にまっすぐ伸ばした状態で、腕全体をひねる。このとき左右同じ向きにひねるのではなく、“ぞうきんをギュッとしぼる”ように互い違いになるように行うのがポイント。左右でひねる向きを入れ替えながら、リズムよくギュッギュッと行う。ひねるたびに片方の肩が前へグッと出ていればOK。左右交互に10セット。

[解説] 肩甲骨が動けば動くほど、肩が前に出ます。座ったままでもできるので、入院中や要介護の方もチャレンジしてみましょう。肩甲骨は動かさないと乾いた紙粘土のように硬くなりますが、動かしてあげれば関節も周囲の筋肉もどんどん可動域が広がり、油粘土のように柔らかくなっていきます。

(2)犬猫体操

 背骨をしならせる

[やり方] 四つ這いの姿勢になり、息を吐きながら背中を“猫”のように丸める。このとき、おへそを見るようにあごは引く。続いて、あごを天井に向けるようにして、息を吐きながら背中を“犬”のように反らせる。猫と犬を交互に、合計10セット行う。

[解説] ガチガチに固まった背骨の柔軟性を上げるストレッチ体操です。背骨の動きが良くなると姿勢も良くなり、肩凝り、腰痛などの軽減が期待できます。背骨をしならせたいので、床を「グッと押す」意識でひじはまっすぐに伸ばしましょう。腰に持病のある方は無理をしないこと。

父に足りなかったのは“ワクワク”

(3)四股ひねり体操

 股関節をダイナミックに開く

[やり方] 足を肩幅より少し広めに開いて立つ。つま先は少し外側に向けて、相撲の「四股」の姿勢になるよう腰を落とす。両手でひざを押さえながら、片方の肩を斜め前へグッとひねり出して気持ちよくストレッチ。5秒キープ。このとき顔を一緒に回してもOK。同じ要領でもう一方の肩もひねる。左右で合計10セット。

[解説] お尻を後ろへしっかり突き出しながら行い、股関節まわりを大きくほぐしましょう。肩をひねる際は、腕ではなく「肩甲骨」を回す感覚で。肩甲骨や背骨も同時にほぐれる一石三鳥の体操です。腰やひざに持病のある方は、浅い四股で無理をせずに。

(4)ひざバイバイ体操

 股関節をやさしく広げる

[やり方] 両ひざを立て、肩幅より少し広めに足を開いて座る。両手は斜め後ろについて上体を軽く支える。その姿勢から両ひざをゆっくり右へ倒す。次はゆっくり左へ倒す。両ひざで「バイバーイ」をするイメージ。左右往復で10セット行う。

[解説] 股関節の可動域を上げる体操です。効果を最大化するポイントは、かかとの位置を動かさず、お尻を決して浮かさないこと。そうすることで、固まった股関節がほぐれていきます。ひざは無理して床に着けなくても問題なし。動かしたいのは“足”ではなく“股関節”だと意識しましょう。

 年を重ねれば筋肉は衰え、関節は硬くなる。従来はそれが常識と思われていました。

 けれど、その常識を塗り替えてきたタキミカさんという存在を間近で見てきて、私もたくさんの勇気をもらいました。父親を“不活動”による心不全でみとってからは、どうして救えなかったのかと長く自分を責めてきました。けれどタキミカさんとご一緒させていただくうちに、ようやく気付いたのです。“心が動くから、体は動きたくなる”のだと。父に足りなかったのは、最新の運動器具などではなく“ワクワク”だったのだと。

「年齢はただの数字」。この言葉こそワクワクの源になり得ます。年齢や体力を理由に、やりたいことをあきらめる必要はありません。今日この瞬間から、体も心も磨いていくことは可能なのですから。

取材・文 ライター 三宅隆史

中沢智治(なかざわともはる)
タキミカ専属トレーナー。1974年生まれ。株式会社パワーエイジング代表。大手フィットネスクラブ3社で輝かしい成績を残し、2009年に独立。業界最高の栄誉とされるトレーナー・インストラクター・オブ・ザ・イヤー2020最優秀賞を受賞。MOSSA National Trainer、MOSSA International Presenter(いずれも日本人初)。『タキミカ体操』(サンマーク出版)監修。

「週刊新潮」2026年9月10日号 掲載